家族法の改正よりも環境整備、DV虐待対策を 法制審議会諮問に思う
わたしは、シングルマザー(ひとり親)と子どもたちが生き生きくらせる社会を実現するために日々NPOで活動しています。
コロナ禍で生活苦に陥ったひとり親家庭は、子どもに食べさせるために親は「一日一食です」「家賃が払えません」などの訴えも多く、2020年4月からのべ2万世帯に食品支援パッケージをお送りしてきました。2021年1月には2300世帯にパッケージをお送りし、まさに命を支えています。助けを求める声が毎日毎日届き対応しきれていない状況です。
そんなさなかの2月10日、上川陽子法務大臣が離婚後の子の養育等に関する家族法の見直しを法制審議会に諮問するということです。
この法制審議会への諮問内容は、
1、父母の離婚後の子の養育の在り方についての検討
2、未成年養子制度の見直し
3、離婚に伴う財産分与制度の見直し
と言われています。
この中で、特に1の父母の離婚後の子の養育の在り方については「離婚後養育への父母の関わりの多様化」や「協議離婚時に子のための協議・取決めが十分にされない」「不払い養育費の取立・回収が困難」「面会交流の適切な実施が困難な場合がある」とされていて、離婚後の子の養育の理念や父母の関与の在り方をどう考えるか、DV事案等への対応をどう考えるか、養育費の確保をどのように実現するか、適切な面会交流の確保をどのように実現するかなどとされています。
日々シングルマザーからの相談を受ける立場として、またシングルマザーの経験者としてこの諮問についてコメントさせていただきます。
養育費の不払い解消に向けて
第一に、養育費の不払い解消対策を進め、別に緊急養育費支援法制を立法すべきです。
現在の養育費の支払いの状況(母子世帯の24.3%、父子世帯3.3%)は非常に低く改善が必要です。無料の法律相談や情報提供など法的アクセスを改善し取り決め率を上げるとともに、DV被害などに配慮した安全な対応や、不払い時のマイナンバーの活用、離婚後の養育義務についての社会意識の醸成が必要です。
一方、面会交流が養育費の取り引き材料として扱われてはなりません。税控除の在り方の再考も求められます。
そして、法制審を待たず、早急な法整備として韓国のような1年間などの立替=緊急養育費支援法制度や国家機関による養育費回収支援機関を設立すべきではないでしょうか。
家族法の改正は必要なのか
しかし、この諮問にはそれだけではなく離婚後養育に父母の関与の在り方についても議論するとされています。
第二に、離婚後養育への父母の関与の在り方について法改正は必要なのでしょうか。
安心安全かつ子どもの最善の利益に配慮した子の離婚後の父母とのかかわりは大切です。(精神的DVを含むDV被害や虐待がある場合は当然行うべきではないことはいうまでもありません)。
しかし離婚後の親子のかかわりについては平成23年の改正によって民法766条にすでに規定されています。実際この法改正以降、家裁では面会交流実施が原則となってきています。子どもの利益を優先しつつ、必要な場合に安心して利用できる面会交流の支援のインフラ整備をすべきであり、離婚後養育の在り方について日本は法改正を必要としていないのです。
ちなみに欧米は共同「監護」制度はあっても日本の親権のような制度はなく親の配慮義務とされていることはご存じでしょうか。児童虐待防止の観点からも親の権限が強い日本の親権の在り方を見直すべきです。
また欧米での共同養育の経験はかならずしも子どもにとってよい結果でなかったこともわかってきました。たとえばオーストラリアは親が均等に子どもにかかわることで、さまざまな弊害があったことからDVや家族内暴力に配慮した法改正をし、さらにまたさらなる法改正を準備しています。そうした経験を踏まえて日本の制度を検討すべきです。
DV・虐待への対策をすべてのステージで優先課題に
第三に、DV、虐待防止対策をすべてのステージで優先課題にすべきです。
ドメスティックバイオレンス(DV)は決して例外ではありません。配偶者暴力には3人に1人の女性が遭遇し、司法統計でも婚姻事件の申立動動機では2~4番目はDVが上がっています。協議離婚についてのDV割合は把握されていません。警察の児童虐待通報件数でも面前DVが非常に多いのです。
調停に出席した親が他方親に殺されたり、面会交流中に子どもが殺された事件も起こっています。DV防止法の保護命令対象を精神的DVに広げるとともに、DV被害者へのその後の支援に注力し、離婚前後の同居親と子どもの安全を優先すべきでです。面会交流が離婚後のDVや虐待の継続の道具になってはならないのです。
実際その対策がなければ養育費の取決め取立て支援含めすべてのよい取り組みも、相手の報復を恐れて手続きを同居親はしないければ、絵にかいた餅となってしまうでしょう。
第四に、安心安全な面会交流の実施についてインフラ整備を行うべきです。
現在調停、裁判で面会交流が決まったあとに安全に面会交流を行う支援機関があまりにも少ないのです。法改正よりも面会交流支援についてのインフラ整備に力を注ぐべきです。
家族法改正の諮問の背景
この諮問はの背景として離婚後の子の貧困の問題、非監護親と子の交流の欠如、女性の社会進出といったことが背景にあるとされています。いやいや、ひとり親世帯の子どもの貧困の問題を離婚後の子の養育等の家族法の見直しで解決するというのは、あまりにも乱暴ではないでしょうか。なぜなら、ひとり親世帯の子どもの貧困の問題は、男女の賃金格差や子育て中の女性が非正規労働に追いやられていること、子育て・住宅・保育・教育など社会保障の不備などいろいろな問題があるからです。
また平成23年の民法改正の附帯決議についても触れられていますが、「親権制度については、今日の家族を取り巻く状況や本法施行後の状況等を踏まえ、懲戒権の在り方やそ
の用語、離婚時の親権の決定方法、親権の一部制限の是非、離婚後の共同親権・共同監護の可能性など、多様な家族像を見据えた制度全般にわたる検討を進めていくこと」となっています。
令和元年11月に発足した商事法務研究会に置かれた「家族法研究会」(座長:大村敦志学習院大学教授)の取りまとめ案が出ていますがそこでは
「父母の離婚後の子の養育の制度的在り方について,現行制度の見直しの当否も含め,限られた期間内で一定の方向性を示すことまでは困難と考えられる」
としています。現行制度の見直しの当否も含め、一定の方向性を示すことは困難となっていたのが離婚後の子の養育の在り方について法制審議会へ諮問と進んだことには驚きをもっています。
令和2年は森まさこ前法務大臣のもとで「養育費の勉強会」が開催されさらに法務省のもと「養育費不払い解消のための検討会」が開催された。報告書では「養育費の支払と面会交流の実施は法律的に別問題であり」とされた。
みえてくるのは養育費の確保といった課題がある一方、離婚後共同親権を求めてくる声もあり、どちらも離婚後の子どもにかかわることだから「セットで議論しましょう」といった流れが感じられます。しかしそれぞれはかなり別の事柄ではないのでしょうか。
以上のようにこの諮問が養育費についてなど歓迎される面もあるものの手放しでは歓迎とはいえない、あるいは危惧される要素を含んでいるということをご理解いただけると幸いです。そして諮問された法制審議会では、シングルマザーと子どもたちの声が反映されるよう今後も努力を重ねていきたいと思います。
【参考】 民法766条
第766条【離婚後の子の監護に関する事項の定め等】
① 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
② 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
③ 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
④ 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。