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攻撃に策がない森保Jを改善に導く救世主。コンビネーションプレーの主役とは

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 オーストラリアとの敵地戦を2-0で制し、7大会連続でW杯出場を決めた日本代表。ところが、埼玉スタジアムで行われた予選最後のベトナム戦では一転、1-1で引き分ける醜態をさらすことになった。祝福ムードはすっかり雲散霧消した状態にある。

 森保一監督はこのベトナム戦に、前戦のオーストラリア戦からスタメンを9人入れ替えて臨んだ。ところがベトナムに先制点を許すと、気弱になったのか、結果が欲しくなったのか、後半16分までに伊東純也、守田英正、田中碧、南野拓実という従来のスタメン選手を次々と投入。事態の収束を図った。テストという狙いは打ち切りとなった。

 選手交代も4人で打ち止めに。植田直通、林大地、佐々木翔の3人は、オーストラリア戦に引き続きベンチを温めることになった。にもかかわらず、弱者相手に勝ちを逃すという失態を演じた。出そびれた彼らは気の毒という他ない。

 一方、テストされながらベンチに下げられた選手は旗手怜央、原口元気、柴崎岳、久保建英の4人。中でも屈辱的だったのはわずか45分、ハーフタイムで交代の憂き目に遭った旗手だ。実際、変なボールの失い方を幾度かするなど、プレーがバタついていたことは事実。しかし一方で、周囲と歯車が噛み合えば、戦力になりそうな可能性を抱かせていた。プレーに粘り気があると言うか、独特のリズムがあるので、原口、柴崎、久保以上に面白い存在に映ったものだ。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 とはいえ、サッカーのテストにおける最大の注視点である、周囲と噛み合うか否か、相乗効果をチームにもたらすことができるか否かは、選手をほぼ全取っ替えするこの設定では明らかにならない。

 この先発メンバーで試合をしたことはない。コンビネーションプレーを修練したことはないはずなので、全員失格になる可能性もある、選手をリスペクトしていない、優しさに欠ける愛を感じない無謀なテストだと言える。

 オーストラリア戦で、後半39分に出場するや2ゴールの活躍を演じた三笘薫が、格下のベトナムに手を焼いた理由もそれと大きく関係する。ベトナムは5バックで後ろを固めてきたうえ、三笘にマークを2人付けてきた。マーカーである相手のウイングバックの背後には、常に右のCBが控えていた。

 防御を二重に固めるこの構えを三笘1人で崩すことは困難だ。背後で構える左SB中山雄太との連係プレーが不可欠になる。ところが、両者はコンビを組んだことが幾度もない。また、コンビネーションプレーを2人で追求しようとする姿勢が見られなかった。ベンチから指示が出ていないことは明白だった。

 攻撃に策がないとは、森保監督を語る時、必ず出てくる問題だが、SBとウイングのコンビネーションプレーはその最たる要素になる。森保監督がそこにこだわりを持っているようには映らない。その結果、右サイドのみならず左サイドも、選手任せと言われても仕方のない、水準の低い、お粗末な関係に陥っている。こうした環境でプレーしていると、選手はどんどん下手になる。三笘が心配に見えてくる。そこを語らずに、選手の責任にする報道がなんと多いことか。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 それ以上に目に余るのは、4-3-3の1トップ=センターフォワードと周辺の関係だ。ここにも策が練られた様子は見られない。

 2018年ロシアW杯当時の大迫なら、そのポテンシャルで解消できるかもしれないが、力は確実に落ちている。選手交代5人制というレギュレーションの中で、本大会でベスト8以上を狙うなら、最低でも5試合戦おうとするならば、2018年当時の大迫が最低2人、できれば3人欲しくなる。

 だが、2番手、3番手にこれだという適当な人材が見当たらないのが現状だ。くり返すが攻撃の中心選手である。試合の行方をもっとも左右するチーム一番のキープレーヤー。ゴールを逆算して考えれば、主役である意味がよく分かるはずだ。野球で言えば4番でエース。この軸が決まらないと現代サッカーは始まらない。

 先のオーストラリア戦では大迫欠場を受け、浅野拓磨が先発したが、周囲とうまく噛み合ったとは言えなかった。隣で構える伊東純也と個性がダブり相殺された感がある。スピード系を2人使うなら、左右のウイングに散らして配備した方がいいとは筆者の感想になるが、代わって、このベトナム戦で1トップとしてスタメンを張ったのは上田綺世だった。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 上田には悪いが、ベトナムに苦戦した一番の原因はここにあった。上田個人の問題に加え、周囲にも好影響をもたらすことができなかった。たとえば旗手がバタついたプレーを見せたのも、上田との関係性に問題を抱えていたことに起因する。

 しかし、森保監督は上田をフルタイム出場させた。ベンチには林大地が控えていたにもかかわらず。1人でも多くの選手をテストし、可能性を探らなければならないはずなのに。解せない。1トップというポジションを軽く見ているような気がしてならない。

 上田と林は東京五輪に臨んだチーム(U-24日本代表)でも競い合う関係にあったが、森保監督はシント・トロイデン(ベルギー)で林と2トップを張る原大智を、五輪チームにも呼んだことがない。190センチを超える日本人には珍しい長身ストライカーを。

 もう1人試すべきは、鹿島アントラーズで上田とともにトップを張る鈴木優磨だ。少々荒くれた風貌とは裏腹に、左右の足を器用に操作する。空中戦もあれば、ポストプレーもできる。ウイングプレーもこなす。上田より数段多機能なこの選手を、森保監督が呼ばない理由が分からない。

 セレッソ大阪の17歳、北野颯太を思い切って呼んでみる手もある。

 いずれにせよ森保監督がいま必死に探し求めるべきは1トップである。大迫に迫る、あるいは代役になり得るセンターフォワード候補だ。攻撃の作戦を考え、得点パターン、ゴールへのルートを逆算しようとすれば、それこそ最大限、追求されなければならないポイントになる。

 このヘソの部分が決まらないと、他の選択肢、他の候補者探しが始まらないのである。ベトナム戦。交代すべき順番は旗手の前に上田だったのだ。日本サッカー界がいまここで再確認しておきたいテーマは、センターフォワード中心主義なのである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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