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根室本線3駅廃止で感じるJRと地元とのチグハグ感

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
明日3月15日をもって廃止される初田牛(はったうし)駅  撮影:鈴木一雄氏

あさって3月16日のダイヤ改正でJR北海道根室本線の直別(ちょくべつ)、尺別(しゃくべつ)、初田牛(はったうし)の3駅が廃止されます。

どの駅も国鉄時代からの由緒ある駅ですが、沿線の人口減少でここ数年の利用者はほぼゼロ。

客観的に見ても、利用者がいないのだから廃止するのも仕方ないですね、という話です。

でも、なんだかもったいないような気がしませんか?

直別駅を通過する特急「スーパーおおぞら」に手を振る地元のちびっ子たち。撮影:矢野友宏氏
直別駅を通過する特急「スーパーおおぞら」に手を振る地元のちびっ子たち。撮影:矢野友宏氏
夜明けを迎える尺別駅 撮影:矢野友宏氏
夜明けを迎える尺別駅 撮影:矢野友宏氏
尺別駅に到着する朝の通勤通学列車 撮影:矢野友宏氏 
尺別駅に到着する朝の通勤通学列車 撮影:矢野友宏氏 

こうして写真を見ると、確かに周辺に人家はなさそうだし、定期的に利用してくれる人はいそうにありません。

でも、写真を見ると直別も尺別もなかなか絶景が見られるような駅だと思いませんか?

初田牛駅 撮影:鈴木一雄氏
初田牛駅 撮影:鈴木一雄氏
初田牛駅に到着した列車 撮影:鈴木一雄氏
初田牛駅に到着した列車 撮影:鈴木一雄氏

こちらは初田牛駅です。

周辺に人家のない雑木林の中にある小さな駅です。

廃止される3駅とも、昔は駅員さんがいて利用者がありましたが、今では誰も使うことのない無人駅です。

初田牛駅のある根室本線の釧路ー根室間は花咲線の愛称で呼ばれる区間ですが、上の初田牛駅の写真を撮影した鈴木一雄さんは地元で一生懸命に花咲線の利用促進を図って活動している「夢空間☆花咲線」の代表です。

「夢空間☆花咲線」の鈴木一雄さん(左)と根室市観光協会根室自然野鳥観光推進員の有田茂生さん(右)
「夢空間☆花咲線」の鈴木一雄さん(左)と根室市観光協会根室自然野鳥観光推進員の有田茂生さん(右)

「利用者がいないにもかかわらず、JRはよく今まで駅を維持してくれたと思います。今後、私たちがもっと頑張って、利用促進に努めたいと考えています。」

と、鈴木さん。

地域住民としての責任を感じていらっしゃるようです。

確かにそうなんですよね。

利用者がいないから駅も鉄道も廃止になる。

でも、なんだかもったいないなあと思うのは、今の時代は田舎のローカル線を上手に活用することで、地域が全国区になることがいくらでも可能ですし、そうすることで地域が少しでも活性化する。そしてそれが今の日本の地域にとっての課題であるというのが明白になって来ている中で、先人から受け継いだ鉄道や駅を、いとも簡単に廃止してしまうというのはいったいどういうことなのかなあと、鉄道を使った地域活性化を進めている筆者としては、実に不思議に思うのです。

実際問題として尺別駅は海岸線を目の前にした絶景ポイントの近くの駅で、釧路市でもこの地域をホームページで紹介しています。

釧路市ホームページの観光案内図。「H:尺別の丘からの眺望」として掲載されています。
釧路市ホームページの観光案内図。「H:尺別の丘からの眺望」として掲載されています。

釧路市ホームページの紹介リンク

花咲線の駅にはルパン3世のキャラクターが配置されています。
花咲線の駅にはルパン3世のキャラクターが配置されています。
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「ルパン列車」も走っています。
「ルパン列車」も走っています。

初田牛駅がある花咲線はモンキーパンチ先生の出身地にちなんでルパンのキャラクターがあちらこちらに配置され、ルパン列車も走っています。

沿線には絶景ポイントが各所に存在し、JRは観光スポットで徐行運転をするなどというサービスも開始しています。

そういう中で、地元利用以外の利用方法を検討しないまま、誰も利用しないという理由だけで駅を廃止するというのはもったいないと筆者は考えます。

誰も利用しない駅ということは、つまり「秘境駅」ですからね。

誰も利用しない駅というのは、地域にとってのスーパーコンテンツとなりうるのです。

そして、直別、尺別両駅がある釧路市も、初田牛駅がある根室市も、どちらの役所のホームページにも「観光促進」と「移住促進」と書いてあります。

だったら、こういうスーパーコンテンツを使わない手はないはずです。

例えば、駅の管理をJRから行政へ移管して、市営駅や町営駅とすることで、そこに市や町が「駅長」を募集する。

これだけで全国ニュースでしょう。

そして、駅にしっかり住んでもらって(移住者になる)、駅長は駅を管理(清掃など)しながら情報発信して自分のビジネスを駅で展開していただく。

これで話題性と移住促進、観光集客もできるとすれば一石二鳥どころか一石三鳥以上です。

今の時代は、都会ではいろいろアイデアを持っている人がいますから、どこに住んでも仕事ができる人はたくさんいますし、自分の仕事ぐらい自分で作れる人だっています。

そういう人たちにとって大切なのは話題性ですから、秘境駅の駅長などという職を市役所から委嘱されれることは願ってもいないチャンスになるのではないでしょうか。

事実、筆者もこの地域にほど近い釧網本線の駅に、国鉄清算事業団が国鉄の赤字解消のために処分した駅構内の敷地を自分で購入して所有する自称「駅長」でありますから、都会にはそういうことをやってみたいという人たちが存在するということは自分自身で体験しています。

直別も尺別も初田牛も、「駅長募集! ただし駅に住むこと!」という広告でも出せば全国から問い合わせがたくさん来たはずです。たいしてお金がかかることでもありませんから、やってみるべきではないでしょうか。

筆者が所有する釧網本線の駅にて、フォトライターの矢野直美さんと記念撮影。後ろには特別運転のクリスタルエクスプレスが停車中です。
筆者が所有する釧網本線の駅にて、フォトライターの矢野直美さんと記念撮影。後ろには特別運転のクリスタルエクスプレスが停車中です。

JRもこれら3駅を廃止することで400億円とも500億円とも言われる赤字が解消できるとは思いません。ただ、今のJRは無駄なものは削減していかなければならないという立場ですからやらなければならないのでしょう。でも、地域の側も観光や移住促進をテーマにして多額の税金をつぎ込んでいるわけですから、新しい使い方を提案して利用促進につながるようなことがあれば、JRだって無駄ではないと判断できますし、それがわかれば何も駅を廃止にする必要はないはずです。

このように、お互いに道を探れば解決方法があるだろうことが、なぜできないのでしょうか?

その理由は今までの経緯からお互いに会話できていないからです。

これが筆者が感じる鉄道会社と地元とのチグハグ感です。

国鉄時代は各駅に駅長さんがいて地域の自治会などに積極的に参加していました。

地域と鉄道のコミュニケーションが取れていたんです。

ところが、そうすることで結果として地元の要望ばかりを拾い上げることになりました。

「列車本数を増やせ。特急を止めろ。」というように要望ばかりを拾い上げていたのです。

JR化後はその国鉄時代の反省をもとに、できるだけ地域の要望を拾い上げないように、地域との窓口を閉ざしてしまった感があります。

地元も同じように、言っても聞いてくれないもんだから、JRのやっていることに興味を示さず、鉄道を利用するという意思も見せず、疎遠になってきました。

そういう関係が30年も続くと、地元と鉄道会社は対話しようにも今さらどうしてよいかわからず、その窓口すらない状態になってしまいました。

そして、あきらめムードの中、駅ばかりでなく鉄道路線そのものも廃止されていくのが地域の現状となってしまったのです。

何かボタンのかけ違いだけのようなチグハグ感ですね。

筆者のNPO「おいしいローカル線をつくる会」は、そういう地域と鉄道会社のお手伝いをするべく活動しているのでありますが、こういう秘境駅や絶景路線のようなところは、今の時代は観光や地域おこしのスーパーコンテンツですから、ただ捨ててしまうにはあまりにももったいないと考えます。

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初田牛駅は1920年(大正9年)の開業です。

1920年開業と聞いてピンときませんか?

そうです。来年2020年は開業100周年を迎えます。

その100周年を目前に、99年目で廃止にしてしまうわけです。

「花咲線」と呼んでおきながら、その花咲駅を「誰も利用者がいないから」といって廃止にしてしまいました。(2016年3月廃止)

今度は100周年目前の初田牛駅を何も活用することなく廃止する。

廃止するということは捨ててしまうことですから、つまり、鉄道のない地域から見たら垂涎の的となりうるスーパーコンテンツをいとも簡単に捨ててしまうのですから、そういう地域に明るい未来があるのかどうか。

筆者は都会から見ていて心配になるのです。

でも、何か方法はあるはずです。

その捨ててしまうという意思決定の大きな原因が、お互いに会話のないチグハグ感であるとすれば、問題解決の糸口は意外に簡単に見つかるのではないか。

実は最近、筆者としては全国の鉄道沿線地域をまわりながら、そういう期待感を持ち始めています。

そして、もし、地域と鉄道会社がきちんと会話ができるようになれば、田舎のローカル線の新しい使い方が見えてくるはずで、それができれば廃止にしなくてもまだまだ活用方法があるはずです。

この3駅の最後を見送りながら、筆者は将来に向けてまだまだ希望が持てると考えています。

花咲線の絶景区間。こういう景色の価値に気付いた地域と鉄道がお互いに会話しあうことが活性化のスタートになるはずです。
花咲線の絶景区間。こういう景色の価値に気付いた地域と鉄道がお互いに会話しあうことが活性化のスタートになるはずです。

直別駅、尺別駅、初田牛駅。

長い間ありがとうございました。

スーパーコンテンツの地域の皆様、希望を持って前進しましょう。

今の時代は田舎であればあるほど大きなチャンスがきているのですから。

※注:写真協力:矢野友宏さん、鈴木一雄さん。

それ以外の写真はすべて筆者撮影です。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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