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「素っ気ない」の「素っ気」って何?日本語教師の雑学!意外と知らない「〇〇ない」の由来3選

高橋亜理香日本語教師/日本語・日本酒ライター

お読みくださってありがとうございます!日本語教師の高橋亜理香です。

「最近、彼女が素っ気ない…」のように、よく使われるフレーズ「素っ気ない」。「冷たい」という意味であることはご存じかと思いますが、そもそも「“素っ気”って何?」って考えてみたことありますか?

日頃よく聞く、よく使う言葉には、実は使っていながら語源を知らない言葉が多いもの。今回は「素っ気ない」を代表に「〇〇ない」と否定の形で使われるフレーズ3つの由来をご紹介します!

「素っ気ない態度」「味も素っ気もない」…「素っ気」とは?

「なんだか冷たいな」とか「思いやりが感じられないな」というときや、「味わいが感じられない」というときに使われる「素っ気(そっけ)ない」。意味としては、そのとおり「思いやりがなく、返答などが冷たく簡単な様子/無愛想」ということです。じゃあ、「素っ気ない」の「素っ気」とはそもそもどういうことなのでしょう?

実は「素っ気」とは、元々は「すげ」=「素気」という読み方で「すげなし」という古語が語源です。代表的なところでは『源氏物語』の第1帖『桐壺』にも「さまあしき御もてなしゆゑこそ すげなう妬み給ひしか…(帝の見苦しいほどのご厚遇のために、冷たく妬まれ…)」と「すげなう」(音便が変化したもの)の形で使用されています。その「すげ(素気)」の読み方が変化したものが「素っ気」です。「すげなし」の意味は現在と同様に「思いやりがない、愛想がない」つまり「素っ気ない」と同じです。今でも「真剣にお願いしたのに、すげなく断られてしまった」のように「すげない」の形で使われています。

また「味も素っ気もない」という表現も「味がない」+「素っ気ない」という意味で、「味わいがなく、つまらない」ということ。こちらは、本当の料理の味に使われるというよりは、「趣がない、おもしろくない」と比喩表現で使われます。

似ている表現:「にべもない」の「にべ」は魚!

「素っ気ない」とよく似た意味で使われている表現に「にべもない」というものがあります。こちらは「にべもない対応をされた」のように使われ、「素っ気ない、愛想がない」とそのもの「素っ気ない」とほぼ同じ意味。ですが「にべもない」はまったく違った語源を持っています。

実は「にべ」とは「鮸(ニベ)」というスズキ目の海水魚。「ニベ」の浮き袋は粘着力が強いそうで、「膠(にかわ)」と呼ばれる接着剤の原料となったそうです。その粘着力を執着心に例え、「『にべ』もない」=「執着がない、淡白、素っ気ない」という意味として使われるようになったそう。

「素っ気ない」と同じ意味でも、由来はまったく違ったものなのですね。

似ている表現:「とりつく島(しま)もない」

もうひとつ「〇〇ない」で使われる表現「とりつく島もない」をご紹介。

こちらは、そもそも表現を間違って覚えている人も多いフレーズ。「彼女にどんなに言い訳しても、とりつく島もなかった」のように「相手が話を全く聞いてくれない、冷たくあしらわれる」といった意味で使われるため、「時間をとってくれない」という意味だと誤解して「とりつくひま(暇)もない」と覚えている人がとても多いのです。ですが、「暇(ひま)」ではなく正しいのは「島(しま)」です。文化庁の2012年(平成24年)「国語に関する世論調査」でも「ひまがない」と誤用をしている人が41.6%とのこと。間違っていた人がいたら、まずは正しい表現に認識を改めましょう。

さて、この「とりつく島もない」の由来は、元々は航海に由来があります。航海中に荒天に見舞われ、船をつけられる島を探すのですが、見つからない…という状況から「助けてほしいのに、頼れる島がない」という状態が転じて「頼れない、冷たくつっけんどんにあしらわれる」という意味で使われるようになりました。

ちなみに余談ですが「つっけんどん」の由来は、江戸っ子が使っていた言葉。仏教用語で「ケチで冷淡」という意味の「慳貪(けんどん)」という言葉に強調の意味の「突っ」を加えて、「つっけんどん」と言ったそう。語源は掘れば掘るほど、広がっていきますね。

似ている「〇〇ない」も語源はそれぞれ

今回は、「素っ気ない」を代表に、否定の形で使われる「〇〇ない」という表現の由来でした!

ふと「この言葉の語源ってなんなんだろう…?」と思うときってありますよね。知っていたら、少しだけ話のネタになる教養。今後の記事でも「考えてみたら、あれってどういうことなの?」と思うような表現にフォーカスしたいと思います!

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日本語教師/日本語・日本酒ライター

都内日本語学校の専任講師を経て、現在はフリーランスの日本語教師として留学生の日本語・進学指導やオンラインレッスンをしています。外国人の日本語学習を通して日本人の気づかない日本語を探究中。兼業で日本酒ライター・テイスターとして、父の故郷の秋田県をはじめとした日本酒の良さを伝えるお仕事もしています。保有資格:日本語教育能力検定試験、J.S.A.SAKE DIPLOMA、SSI日本酒学講師、SSI利酒師

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