メガソーラー、デタラメ申請を通す奈良県の不可解
奈良県平群町のメガソーラー計画が、12月23日に開かれた県の森林審議会の林地開発審査部会で承認を得た。後は県知事の認可を待つばかりだ。しかし、この計画の申請が、あまりにデタラメなのでびっくりする。
一度は止めたメガソーラー建設
ことの推移を説明すると、2019年に計画が平群町に示されたことに端を発する。そして21年2月から敷地48ヘクタールの山林の約6割が伐採された。ここに盛土して約5万枚のソーラーパネルを並べる計画だ。
しかし設計図には、建設地から流れ出る水の放流路の斜度が一律18%と現実には有り得ない数値になっていたことを指摘されて、荒井正吾知事は21年6月に工事を差し止めた。この点は、先に記事にしている。
ところが、今年の夏ごろから急に業者は動きを見せ、9月には林地開発変更申請を行う。そして県の審査が行われるようになったのである。
当然ながら問題となった数値を修正し、必要な手順を取っているかと思ったのだが、信じられないほど雑なのだ。それも内容以前の部分が。
多岐にわたるが、ここではメガソーラーそのものではなく、申請に関する問題点をいくつかに絞って紹介する。
必要書類がそろわなくても受理
まず最大の驚きは、県が受理した審査書類には、必要な項目がそろっていないことだ。
とくに明確なのは、建設予定地から流れ出る水の流路に関して河川管理担当者(県と町)と業者が協議した内容を示す「河川協議書」が見当たらないことだ。
実は、地元の「平群のメガソーラーを考える会」が、その協議内容をチェックしようと情報開示請求を行ったところ、10月7日時点では、書類そのものが存在しないことが確認された。それなのに9月1日に受理している。
これは行政手続としては有り得ないだろう。どんな役所の窓口でも、申請に必要書類がそろっていなければ審査前に突き返される。当たり前だ。
その後、11月25日に提出されたとするが、ほとんど付け刃的に開いたのだろう。その協議内容は示されていない。
これに限らず、県は業者との協議や連絡をすべて口頭で行ったとして文書を残していないのだ。日本の行政機関における文書主義(後に意思決定などの過程を検証できるように成文化する義務)の真っ向からの否定である。
さらに驚くのは、またもや「設計ミス」「計算ミス」が連発されていることである。
面積を実際の100分の1で計算
建設地から住宅街へと流れる川の流量について、3年に1度の確率で起こり得る豪雨の場合に氾濫するのは3か所としていた。そこで平群町は、その地点に加えて全体で4カ所で河川改修することを業者に求め、それを業者も了承したことで町議会は了解した。
ところが住民側が確認したところ、降雨地域の面積がおかしいことを発見した。
それもヘクタール(100メートル四方)で計算すべき所を平方キロメートルで行った(面積は100分の1になる)という、あまりにずさんな間違い?なのである。
そこで計算をやり直すと、氾濫するとされる箇所は21か所に増えた。その多くは、秒速6~8メートルと土石流並の速さで水は流れることになり、住宅街や通学路を襲うことになる。
この計算ミスは、平群町も議会の全員協議会で示され認めている。つまり誤りだったことは公になっている。
ところが、森林審議会に出された資料は、誤った計算式によるデータと4カ所だけ改修のままなのだ。間違いがわかったのに訂正しないで審議会にかけるという信じられない事態である。
そして審議会委員(出席は3人)も、それで良しとした。あくまで県が提出した資料を元に審査するからだとする。こちらは文書主義を固守したのか。しかし、すでに「計算ミス」は報道もされており、委員も知っていることは間違いない。それでも目をつぶるらしい。
おまけに、この「計算ミス」は、町だけでなく県も同じことをしていることもわかった。県への申請書類にある調整池水理計算書では、同じ間違った計算による流量としているのだ。両者が数値の確認を依頼した設計事務所は違うのに、なぜ同じ間違いを犯すのか。いかにも不可解である。
そのほか、建設地の地形を改変したため分水嶺が変わり、6ヘクタール分の土地に降る雨の流れるルートが変えられている。すると各河川の流量も増減するわけだが、水利権を持つ下流の同意を得ていない。当然、その書類もそろっていなかった。
また開かねばならない住民説明会は、平群町にある8000世帯以上のうち、ごくわずか(おそらく100世帯程度)にしか告知せずに開催し、その場でも住民側の質問になんら応えないで終えたという。
住民の問いに無言通す県
とにかく異例づくしの開発申請なのだが、各所の疑問点や矛盾点を問う住民に対して県は、まったく無視・無言を通している。言い訳さえできないのか、都合の悪い声は聞こえないように頭ができているのか。そして何も異論のないかのように手続を進めている。
ここまで来ると、県は積極的に業者を後押しして開発させようとしているかのように見える。一度はストップをかけたのに、今度は立場を逆転させて審査を早く進めたがっている。
ただ業者が、早く審査を終わらせて太陽光発電所を稼働させたい事情は透けて見える。再生可能エネルギーを高く買い上げるFIT(固定価格買取制度)では、2022年4月1日より「設備認定失効制度」が始まったからである。計画を認定されてから長く未稼働でいると、認定を取り消されるようになったのだ。
平群町の当地に太陽光発電所を建設する計画は2012年以前に仮押さえで認定されたらしく、当時のFIT法による価格は、40円/kWhだった。ところが年々下げられており、23年度になると価格は10円/kWhなのだ。もし、このまま建設が遅れて認定を失効させると、改めて申請し直しても4分の1になってしまう。またFIT期間も20年から18年に削られている。
さらに林野庁も、太陽光発電のための林地開発許可条件を見直し始めた。面積規制や防災工事の基準を厳しくしている。
そうした点から、業者は何がなんでも現在のまま申請を通し、早く稼働させたいのだろう。
業者側の都合は、ある意味わかりやすい。しかし、県がそれにつきあうのはお門違いも甚だしいだろう。
森林が伐採されて裸地になった山肌からは、降雨のたびに膨大な水と土砂が流れ出ている。当初の森林伐採をともなうメガメーラー建設の是非論議以前に、住民からすると災害の危険性増大にさらされているのだ。そして強引な審査の進め方からは、行政としての健全性が問われている。
県が守ろうとしているのは何なのか。県民の安全をないがしろにして業者の都合ばかりに顔を向ける姿は異様である。
先に荒井知事は、記者会見で「申請に誤りがあったらストップさせるのは当たり前」「県として住民に直接十分な説明をする」と発言している。今回の申請内容は、誤りではないのか。そして県の対応はこれでよいのか。
真摯に県民の声に向き合って最終判断をしていただきたい。