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ボルトン新大統領補佐官は、原爆投下は「道徳的に正しかった」と明言した“モンスター”

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
大統領補佐官に指名されたボルトン氏は北朝鮮への先制攻撃も正当だと考える超タカ派。(写真:ロイター/アフロ)

 恐ろしい人物が国家安全保障問題担当大統領補佐官に指名された。元米国国連大使で、超タカ派のネオコン、ジョン・ボルトン氏だ。彼は“モンスター”か“バンパイア”なのかもしれない。少なくとも、以下のニュース解説チャンネルTYTに出ているコメンテイターたちはそう呼んで憚らない。しかし、それは納得がいく。ボルトン氏は、2年前、トルーマン元大統領の原爆投下について、以下のように明言し、波紋を呼んだのだから。

「トルーマンがしたことは、私からしてみれば、軍事的に正しかっただけではなく、道徳的にも正しかったのです

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John Bolton Trashes Obama’s Hiroshima Visit(ボルトン、オバマの広島訪問を酷評)

 原爆で数十万人の人々が亡くなったにもかかわらず、平然とした顔で“道徳的に正しかった”と言ってのける。こんな発言をする人物が、国家安全保障問題を担う大統領補佐官になるのだ。恐ろしいことだ。

 ちなみにこの発言は、2016年5月、オバマ元大統領の広島訪問に際して、ボルトン氏がフォックスニュースのインタビューで放ったもの。ボルトン氏はオバマ大統領の広島訪問は“恥ずべき謝罪ツアー”だと批判し、トルーマン元大統領の判断は正しかったと以下のように主張したのだ。

「ウィンストン・チャーチルは、日本本土に侵攻するとアメリカ人が流血することになると言っていました。そうならないようにするために、トルーマンは原爆投下を命じたのです。それは正しい判断でした。ロナルド・レーガンが広島に行っていたとしたら、そう主張したでしょう」

 コメンテイターは「ボルトン氏には日本の市民への気遣いが1秒たりとも感じられない。まるで日本の一般市民は存在しないも同然、彼らを人間だとは考えていないかのようだ。アメリカ兵を死なせたくないとだけ言っている」とボルトン氏を声高に非難している。確かにこの発言を聞く限り、ボルトン氏の頭には、アメリカを守ることだけしかないように見える。”アメリカ第一”という意味で、トランプ大統領と考え方が同じなのだ。トランプ大統領はボルトン氏に自分自身を見たから、彼を指名したのだろう。

先制攻撃は正当

 “アメリカ第一”のボルトン氏は、先月、ウォール・ストリートジャーナルの意見記事の中で、北朝鮮への先制攻撃の正当性についてこう書いている。

「北朝鮮の核兵器が引き起こしている今の窮境に、アメリカが先制攻撃で応じるのは全く正当なことだ

 “原爆正しい発言”からわかるように、アメリカにとって「道徳的に正しい」ことが正しいと考えているボルトン氏であるから、先制攻撃をして、北朝鮮の市民や、北朝鮮から大きな反撃を受けることになる日本や韓国の市民が何十万人亡くなったところで、先制攻撃は「道徳的に正しい」と考えるに違いない。

ダブル・スタンダード

 ボルトン氏の考え方には明らかに、アメリカのダブル・スタンダードが見て取れる。マサチューセッツ工科大学名誉教授のノーム・チョムスキー博士も、アメリカのダブル・スタンダードな姿勢について、筆者のインタビューでこう批判していた。

「日本の真珠湾攻撃は、アメリカの攻撃計画に気づいていた日本からすれば“自国の脅威に対する先制攻撃”です。これは今のアメリカと同じ基準であり、実際、アメリカはこの基準に従ってイラク戦争を起こしました。それなのに、アメリカはイラク戦争は正当な戦いで、真珠湾攻撃は不当な戦いだと考えているのです。これはアメリカの帝国主義的傲慢さに起因したダブル・スタンダードに他なりません」

 北朝鮮の核ICBMが完成間近の今、トランプ大統領は“自国の脅威”に晒されていると感じている。そして、トランプ大統領とボルトン氏という“超ダブル・スタンダード”の二人がタッグを組んだ。トランプ政権が“道徳的な正しさ”という大義名分の下、戦争を始めないことを祈るばかりだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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