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31歳で初代表の苦労人・山路泰生が語る、声に出して読みたい勝利宣言。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
スタンドの声援を背に。(写真:アフロ)

内容はともかく、結果にコミットしたい。

その思いをどこまでも力強く明かすのが、2月に32歳となった山路泰生である。昨年11月に初めて日本代表入りしたラグビー選手で、国内所属先のキヤノンでも長く控え暮らしの続いた苦労人だ。

現在は日本代表と連携するサンウルブズに加わり、国際リーグのスーパーラグビーへ挑んでいる。身長180センチ、体重108キロの右プロップとして2試合に出場し、チームの自軍ボール成功率を100パーセントに保つ。それでも目下開幕5連敗中とあって、休息を挟んで迎える第7節へは必勝を期す。

場所は本拠地の東京・秩父宮ラグビー場で、相手は第4節で屈した南アフリカのブルズだ。山路は今季2度目の先発が発表された4月6日、都内の練習場で「勝ちます」と繰り返した。滋味がありつつもシンプルな言い回しは、すべての戦う人の背中を押しそうだ。

以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――ホームの秩父宮で背番号3をつけます。

「国内、秩父宮。特別なところでもあります。前のブルズ戦にも出ていて、その時のリベンジのチャンスを与えられた。使命を果たせるように…。勝ちたい。それだけですよ。ファンの人たちの前という最高な場所で、勝ちを…。勝ちたい、それだけです」

――現状では、スクラムなど内容的に満足できる点がありながらも結果を残せていません。

「スクラムでいいと言われようが、勝たないと報われないです。勝ちにつながるスクラムを…。僕らで盛り上げて、勝って、『スクラムもよかったね』と言われるように。絶対、勝ちますよ。そう信じていく。そう言っていることによって、使命感も出てくる。見ていてください」

――前にブルズと対戦した時は、いいプレッシャーをかけていたスクラムで「アングル(角度をつけた危険な組み方)」の反則を取られました。

「僕が『ミー?』って聞いたやつですね。『外国人か!』と皆に言われました!

…悔しかったですね、あれは。あそこで我慢して真っ直ぐ行けなかったのは、僕の経験が足りなかったところかなと思います。1本前のスクラムをガーっと行けて、その次のスクラムで、あれをやってしまったんです。誰がどう見ても(サンウルブズが)勝てていたのかもしれないですけど、その場にいたレフリーはアングルを取った。もっと確実に、近くにいるレフリーでさえも『(正当に)勝っている』ように見せるべきだった…」

台東区浅草生まれの日暮里育ちで、7人きょうだいの末っ子だ。中学進学時は敬けんなクリスチャンだった父の勧めで、長崎南山中学校へ越境入学。カトリックの司祭を目指した。聖ルドヴィコ神学院の神学生にもなり、学校での部活動は禁じられた。

ところが、中学3年時の父の逝去を受け、人生は変わる。

経済的な事情を踏まえ帰京も考えたが、家族のサポートもあり長崎南山高校へ進んだ。神父の道こそ諦めたが、与えられた環境で生き抜こうとした。そこで出会ったのが、県下有数の強豪で鳴らすラグビー部だった。

体格にも恵まれた「1年8組の山路」は、めきめきと力を伸ばしてレギュラーの座も手に入れる。卒業後は、当時関東大学リーグ戦3部だった神奈川大学に進む。寮からアルバイト先のローソンへ向かう時は、横浜国際陸上競技場の脇を原チャリで通った。そこは、のちにトップリーガーとしてプレーする場所になった。

OBがいた縁もあり加入したキヤノンは、下部の関東社会人リーグに所属。強化を促進したのは2年目の途中からだ。トップリーグで戦う権利を得た頃、山路は27歳になっていた。若返りを図るチームで、強豪校から来た年下の選手にポジションを譲ることもあった。

紆余曲折を経ながらも、昨季はスクラムの強さが買われてキヤノンの背番号3に定着。己の未来を信じ、道を切り開いてきたからこそ、サンウルブズの勝利を信じる声に説得力が帯びる。

――サンウルブズでは、長期の海外遠征も経験しています。

「初めてだし、毎日毎日が刺激的。常にチームが向上していて、自分も学ぶことで経験と自信を積んできている。すごくいいチームだし、皆が『家族』になれている部分もある。(メンバーの絞られる)遠征では選手が離れ離れになりますけど、今週はこちらへ帰ってきて『家族』とまた会えた。そして、秩父宮。あとは、勝つだけです」

――勝つには何が必要か。

「信じる。最後まで諦めない。諦めないといったら負けている状況かもしれないですけど、どんな相手に対しても、勝つと信じれば…。僕はその場にいなかったですけど、2年前のワールドカップでもそれは証明されている(イングランド大会で優勝経験ある南アフリカ代表を撃破し、大会通算2勝目を挙げる)。…僕、記事にされても、信じる、信じると、いつも同じようなことしか言わないですよね!」

――とはいえ、負けると思ったら負けてしまう。

「負けるいい試合は、いらないです。勝たないと。これまでの人生では負けている、悔しいことが多い。でも、今回はチャンスが得られた。すごいことです。家族も目の前で見る。前回(の国内のゲームで)は(メンバーに入れず)スーツ姿だったのですが。勝ちましょう、皆で」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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