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プーチン大統領と習近平主席は「ウサギと大蛇の同盟」だ

木村正人在英国際ジャーナリスト

複雑すぎる中露関係

ロシアと中国の関係は「愛憎半ばする」という以上に複雑だ。米国を加えた三角関係で今回の中露首脳会談をながめると、さらに複雑さを増す。

中国は天然ガス、軍事技術は欲しいものの、ロシアと完全に足並みをそろえて米国との関係を決定的に悪化させるのは「得策ではない」と腹の底では考えている。

中国が輸入する石油の80%はマラッカ海峡を通過するため、シーレーン防衛の必要のないロシアからのパイプライン・ルートを確保しておくことは戦略上、重要だ。

一方、ロシアは自らの下腹部である中央アジアをめぐって、いずれ中国と利害が対立する可能性が極めて強い。中国との関係強化は将来、両刃の剣になって返ってくる恐れがある。

同盟には現在の日米同盟のようにお互いが必要不可欠とする「自然な同盟」と、第三国に対抗するためやむなく結んだ大戦前の日独伊三国同盟のような「不自然な同盟」がある。

ロシアと中国の関係をロシアの政治評論家アンドレイ・ピオントコフスキー氏が「ウサギと大蛇の同盟」とたとえたことがある。

プーチン大統領が筋肉隆々の肉体をロシア・メディアの前で誇示して見せても、目覚ましく台頭する中国の前では「ウサギ」に等しい。

中国は、ロシアはどうあがいてもソ連時代には戻れないと見切っている。一方、中国は「大蛇」どころか「巨龍」に成長してしまった。

プーチン大統領は、オバマ米大統領に対して「ウクライナ問題でこれ以上、ロシアに厳しく当たると中国とひっつきますよ」と揺さぶりをかけている。

「時々噛むんですよ」に隠された意味

安倍晋三首相がソチ冬季五輪の開会式に出席、プーチン大統領は日本側が以前プレゼントした秋田犬を連れて出迎え、「時々噛むんですよ」と表情を崩した。

プーチン大統領はソ連国家保安委員会(KGB)出身である。無駄な言葉は発しない。日本がロシアと対立する立場を取れば、それなりのことは覚悟しておけ、という警告だ。

クリミア編入はプーチン大統領からみれば、「クリミアはもともとロシアの一部だから何が悪い」ということだ。クリミア編入を非難した日本はロシアの主権を侵害したという理屈になる。

ロシア製大型輸送ヘリMi26を中国国内で合同生産することで合意したり、東シナ海で合同演習を行ったりするのは、尖閣問題を抱える安倍首相へのあからさまな脅しである。

Mi26は軍民両用だが、最大150人を輸送できる「怪物ヘリ」だ。航続距離は1952キロメートル。

こんなものを中国国内で大量生産されたら、困るのは日本である。中国の前方展開能力は飛躍的に増し、日本側の「尖閣防衛」を脅かす。

娘に中国語を学ばせるプーチン大統領

ロシアやウクライナ問題に詳しいベン・ジュダー氏によると、プーチン大統領は中国メディアに「娘が中国語を勉強している」と語っているそうだ。

ロシア人研究者や日本メディアを通じて、しきりにロシアの「アジア重視」が強調されるが、疑り深い英国のロシア研究家は「ロシアが欧州と別れるのは難しい」とみる。

欧州と離れればロシアは先端技術を取得したり、国際市場にアクセスしたりする機会を失い、ただの資源国になり下がる。欧州は、クリミア編入を強行したプーチン大統領はロシアの墓穴を大きくしただけとみる。

ロシア国営企業ガスプロムは中国への天然ガス供給で合意した。2018年から30年間にわたり毎年380億立方メートルの天然ガスを供給する。総契約額は4千億ドルを上回る。

中国訪問中のプーチン大統領と習主席が立ち会った。

合意価格は1千立方メートル当たり約350ドルとみられている。欧州向けの価格は同350~380ドルという。

昨年、ガスプロムは欧州に1740億立法メートルを輸出し、約600億ドルを稼いでいる。中国向けの輸出が毎年600億立法メートルに増えても、欧州向けの3分の1に過ぎない。

しかも、パイプラインの建設には4~5年の歳月と莫大なコストがかかるのだ。どう考えても、このビジネスは欧州向け輸出に比べて割に合わない。

ユーラシア同盟と「陸のシルクロード」の衝突

プーチン大統領は首相当時の11年、経済を中心に旧ソ連諸国と地域統合を進める「ユーラシア同盟」の創設を提唱。ソ連の再建でこそないものの、「緊密な統合」を目指すとぶち上げた。

これに対し、習主席も、漢王朝の使節、張騫を例に引いて、「シルクロード経済ベルト」の構築を掲げた。中央アジアの5共和国のうち4カ国の最大の貿易相手はロシアではなく、中国なのだ。

極東や中央アジアの利権をめぐって、いずれロシアと中国の利害は対立する。

資源が豊富なのに人口減少に悩まされるロシアと、経済成長を維持するためには資源がいくらあっても足りない上、巨大な人口を抱える中国。

プーチン大統領と習主席の関係は、「巨龍」の庇護を求めてピョンと飛び跳ねてみせた「ウサギ」という構図だろう。

クリミア編入をめぐっても、中国の立場は微妙だ。主権や内政への不干渉を唱えてきた中国にとって、クリミア編入の強行は内政不干渉の大原則に反する。

しかし、クリミア編入が既成事実化すれば、中国は南シナ海や東シナ海で同じように振る舞えるので、表に出さないだけで内心では歓迎しているという見方もある。

中国の世界貿易機関(WTO)加盟は01年。これに対し、ロシアの加盟は12年。プーチン大統領と完全に共同歩調を取ることは中国の利益とは一致しない。

「シリア問題のように中国とロシアの利害が一致して共同歩調を取ることが多いが、ウクライナ問題では中露の利害は食い違っていた。国連安全保障理事会で中露の対応が異なるケースはいくつかある」

英国のマーク・ライアルグラント国連大使は筆者にこう解説した。

プーチン大統領はKGBで仕込まれた地政学的思考から抜け出せない。シリアとクリミアにこだわるのは軍事的な要衝だからだ。経済的には何のプラスにもならない。

しかし、中央アジアや極東の地政学を中長期的にみれば、ロシアと中国の利害衝突を回避するのは難しい。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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