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甲子園での導入が濃厚・タイブレークの勝ち方を考える

楊順行スポーツライター
取材する側としては、スコアの付け方もちょっと試行錯誤

どうやら、導入が濃厚らしい。なにがって、高校野球・甲子園でのタイブレーク制だ。

日本高校野球連盟は、明治神宮大会では2011年、国体では13年、そして春季各地区大会では14年からタイブレーク方式を採用。同じ14年には、すべての加盟校に対してアンケート調査を行うなどの検討を進めてきた。そのさなか、全国高校軟式野球の決勝が2回のサスペンデッドを経て延長50回で決着。これをひとつの契機として、採用への気運が高まりつつあった。そしてこの13日、高野連の技術・振興委員会の会合で、甲子園での春のセンバツと夏の選手権にタイブレーク制を導入することを提案する方針が固まったようだ。

今春のセンバツ。延長15回引き分け再試合が2試合続いた。1大会で2試合が延長引き分けとなるのは春夏通じて史上初めてで、これが導入を加速する。5月に実施した各都道府県連盟へのアンケートでは、47連盟のうち「おおむね賛成」が38だった。タイブレーク制の採用には、高校野球特別規則の改正が必要だが、どうやら11月の理事会で承認されそうな見込みだ。

人為的な決着の誘導は興ざめだけど

タイブレークとはそもそも、延長回で得点が入りやすくするため、たとえば一死満塁などから攻撃を開始するものだ。社会人野球の都市対抗では03年から実施されており、両軍とも延長12回一死満塁の状態で、好きな打順から攻撃を開始する。WBCやオリンピックなど、大会実施期間に厳格な大会では、すでに採り入れられている方式だ。かりに甲子園でも導入となれば、WBCと同様に「無死一、二塁」という状況で運用される可能性が高い。過去5年の春夏甲子園、昨夏の地方大会を参考に、「12回までに終了する試合が80パーセント」というデータがあるため、13回から開始する案が検討されている。

なるほど、これまでの春夏の全国大会通算5562試合(春2264、夏5562)のうち、延長13回以降まで進んだのは123試合と全体の2.2パーセントだから、97.8パーセントは12回までに終わっている。タイブレークといういわば例外的な決着は、50試合に1試合という計算だ。ただ個人的には、ドラマチックな延長戦を人為的なお膳立てで結末に導く方式は、いかにも興ざめ。14年9月には、この欄で「甲子園には、味気ないタイブレークは似合わない」(https://news.yahoo.co.jp/byline/yonobuyuki/20140930-00039539/)などとしてきたが、そんなささやかな抵抗が聞き入れられるわけもない。現場の指導者は、決定を受け入れて対応するのが現実的だろう。

そこで、だ。すでに運用されている都市対抗を参考に、タイブレークの戦い方を考えてみる。12〜16年の5年間、157試合のうちタイブレークにもつれたのは9試合。およそ18試合に1試合という計算になる。タイブレーク初回の12回で決着したのが7、13回が2だから、早期決着を促すのは確かなようだ。先攻・後攻の勝敗の内訳は先攻が5勝。これまで野球界では、延長になると後攻が有利といわれてきたが、サンプル数は少ないとしても、ことタイブレークではほとんど五分といっていい。

タイブレーク初回の12回表に2点以上を取った先攻チームは4勝1敗、逆に12回表を1点以下に抑えた後攻チームは3勝1敗と、勝率が高い。まあ、当然か。都市対抗の場合、「一死満塁、好きな打順から」の運用である。表に2点以上を取ったら、その裏の守備で1点はあげてもいいから、内野陣は前進守備ではなく中間守備で併殺を狙える。逆に表に1点以下だったら、内野は前に守らざるを得ず、ヒットゾーンが広がる。つまり都市対抗のタイブレークでは、表に2点以上を取れば先攻チームが、表が1点以下だったら後攻が有利になるわけだ。

先攻の先頭打者が勝敗を分ける

打順を見てみると、9試合のべ18チーム中三番から始めたのが8、四番が6(代打1含む)、五番が2、一、二番がそれぞれ1。俊足あるいは走塁カンのいい走者を置き、主軸から始めるのがいちおうのセオリーといえそうだ。おもしろいのは、先攻の5勝はすべて先頭打者がヒット、もしくは四球などで打点をあげていること。もともと12回表の先頭打者は、9試合中6安打と1四球でいずれも打点を記録するなど、驚異的な勝負強さを見せるが、逆に凡退した2試合はいずれも敗退。先攻の場合、先頭打者で点を取れないと次打者に大きな重圧がかかり、1点以下に終わってしまうことが多いからだ。

都市対抗のタイブレークが、無死一、二塁ではなく一死満塁から始めるのは、こんな理由が考えられる。無死一、二塁ならまずバントして一死二、三塁とするのが常道だ。となると守備側は、併殺を狙いやすい満塁策を取ってくるのも、やはり常道。どうせ一死満塁になるのなら、最初からそうしたほうが効率がいいというわけだ。これが高校野球になると、「無死一、二塁」からの開始が有力だ。同じバントが考えられる場面でも、社会人とは技術の格差があるためだろう。

バントといえども、高校生なら百発百中というわけにはいかない(まあ社会人でもそうだが、成功の確率は格段に高い)。たとえば、一死二、三塁に進めるはずのバントが野手の正面に飛んだら、併殺もありうる。あるいは逆に、守備側がバントと決め込んで極端なシフトを敷いてきたら、バスターの強攻策もある。無死一、二塁という設定には、そういう勝敗の機微というドラマ性が多少は含まれているかもしれない。

まあ無死一、二塁だとすれば、二番、あるいは三番あたりを先頭打者に設定するのがいいのではないか。むろん、その試合での調子も考慮に入れる。その場合、塁上の走者は九、一番(もしくは一、二番)になるが、能力次第では当然、代走の起用もありだ。いずれにしても、方式の詳細は今後の議論を待つことになる。そして……いざ来春のセンバツで採用となったら、タイブレークゆえのドラマを期待しよう。そういえばかつて、社会人野球のクラブ選手権では、タイブレークの表に5点を取られ、裏に満塁本塁打で1点差に追いすがる、なんて試合も見たことがあったなあ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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