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日本が学ぶべきロシアの敗戦。「大国意識」のサッカーが不幸を招く

杉山茂樹スポーツライター

グループリーグ2週目に突入したユーロ2016。大会のアウトラインは、これを機に一歩、鮮明になっていく。

ロシア対スロバキアはその口火を切る形で行なわれた一戦だ。初戦でイングランドに終盤追いつき勝ち点1を得たロシアと、ウェールズに惜敗したスロバキア。スロバキアは分離独立後、ユーロ本大会に初めて駒を進めた国だ。過去の実績を見れば、ロシアにとって、勝たなければならない相手だった。

政治、経済においても、両者は強国対小国の関係にある。だが、政治、経済的にはともかく、サッカーにおける差はわずかにすぎない(最新のFIFAランキングでは24位のスロバキアが29位のロシアを上回っている)。それでもロシアには、先輩風を吹かさなければならない立場で、試合に臨まなくてはならないつらさがある。

サッカー界で似た立場にいるのがアメリカだ。しかし、彼らはロシアと違い、チャレンジャー精神みなぎる戦いを繰り広げることができている。アメリカという名前の割に、サッカーは偉そうではない。毎度、好チームで通っている。

サッカー界では強国ではないにもかかわらず、偉そうなムードを漂わせるロシア。スロバキアを相手にするとなおさらそれが鮮明になる。「絶対に負けられない戦い」をしていたのはロシア。宿命的というか潜在的に、彼らが背負い込んでいる不幸を思わざるを得ない試合。特に前半はそんな感じだった。

前半33分、ウラディミル・バイスの先制弾に続き、前半終了間際にマレク・ハムシクに追加点を許し0−2で折り返した後半、ロシアはさすがに反撃に転じた。基本的にパス回しは得意だ。サッカーそのものはカウンター的ではない正統派。洗練されたものではないが、後半に入ると、それを前面に押し出しながらスロバキアを圧倒した。攻めるロシア、守るスロバキア。

得点差は2点。にもかかわらず、スロバキアは守ってしまった。前半のはつらつとした勢いはどこへやら。ロシアを大国と認めるかのように、引いてしまった。蛇に睨まれたカエルではないが、萎縮しているようにさえ見えた。 

ロシアには同点、逆転さえ狙えそうなムードもあったが、反撃は後半35分に挙げたデニス・グルシャコフのゴールだけに終わった。1点差として残り10分、スロバキアが「どうぞ攻めてきてください」と言わんばかりの、弱気のサッカーをしたにもかかわらず、攻め切ることができなかった。

試合は2−1でスロバキアが勝利を収めたが、今後に期待を寄せたくなるような勝ち方ではなかった。終わり方はよくなかった。守り切ったというより、焦りをともなうロシアの拙攻に救われたというべきである。最後まで見たかったのは、小国ならではのチャレンジャー精神だ。たまたま偶発的に決まった2発のゴールを、ロシアの拙攻に助けられ守った恰好だ。

ロシアは欧州サッカーの中で、あるいは世界のサッカーの中でどう立ち回ればいいのか。考えさせられる試合となった。スペインやドイツのようになれればいいが、それが難しいなら、やはりチャレンジャーに徹することだ。

成功例として思い出すのはユーロ2008だ。ベスト4入りしたその時は、まさにケレン味のない、チャレンジャーのサッカーだった。そんなムードを自己演出していたのが、当時の監督のフース・ヒディンクだ。オランダの国土は、隣国のライバル、ドイツの8分の1しかない。「我々は小さい。だから……」。ヒディンクに限らず、ヨハン・クライフをはじめとするオランダの指導者は、自分たちがやりたいサッカーを、必ずやこうした言い回しをイントロに使って説明しようとする。

「だから、考える」。彼らは小国ならではのアイデアマンだ。ロシアとの相性はよかった。ヒディンクに率いられた当時のロシアは、レオニド・スツルスキー監督率いる今回とは、違う国の代表チームのようだった。大きな国ではなく小さな国のサッカーだった。

無欲。邪念なく純粋にゲームに没頭していた。言い換えれば、反応の鋭いサッカーだ。

かろうじてロシアをかわし勝利したスロバキアも真似したいサッカーだ。今回の勝利は番狂わせの方法論からは外れていた。狙って勝ったというより、出会い頭の勝利。たまたま勝ったという印象だ。前日、サンテチエンヌでポルトガルに引き分けたアイスランドのほうが、好チーム度では勝っていた。無欲であり、チャレンジャー精神に富んでいた。

ウェールズ、イングランド、ロシア、スロバキア。小国対大国の対決となったB組の戦いには、立ち位置に鈍感な、日本サッカーが学ぶべき要素が詰まっている。

(初出 集英社Web Sportiva 6月16日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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