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『ドラゴンボール』において、悟空の「かめはめ波」は、どうエスカレートしていった!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

牧歌的な雰囲気で始まった『ドラゴンボール』が、途中から大きく雰囲気を変え、緊張感あふれるバトルマンガになっていったのは、周知の事実である。

話がスタートした頃、悟空は12歳で、車を運転していたブルマに向かって「お おのれ怪物め!!! さてはオラの獲物をよこどりしようってんだな!!!」と本気で怒ったりしていた。

それが物語の途中で、悟空はサイヤ人だったことが明かされ、コミックス第22~27巻にかけて超サイヤ人になり、さらに超サイヤ人2になり、超サイヤ人3になり、超サイヤ人4になり、超サイヤ人ゴッドになり、超サイヤ人ゴッド超サイヤ人になり……! もうどんどんエスカレートしていったのだ。

敵キャラも強力になっていき、20年後の未来からやってきたセルに至っては「すでに地球どころか 太陽系すべてが吹き飛ぶほどの気力が溜まっているぞ!!!」と言い放つ。そして、本当に地球消滅の危機に陥ってしまう。

まさかそんなハードな展開になるとは、亀仙人がエロさをダダ漏れにしていた頃(第13話とか)には、予想もできませんでした。

――という具合に激変する『ドラゴンボール』世界にあって、気になるのは「かめはめ波」の使われ方だ。

このワザは悟空の代名詞でもあるが、コミックスの第2巻で亀仙人が初披露して以降、物語の終盤までいろいろなキャラたちが撃っている。

マンガのノリや雰囲気が変わっても、かめはめ波は不変なのだ。

本稿では「悟空が撃ったかめはめ波」という括りで、その威力の変遷を見てみよう。

◆意外に低い有効率!

『ドラゴンボール』のコミックス全巻を通読すると、「悟空がかめはめ波を撃った」と認識できるシーンは、全部で42ヵ所あった。

記念すべき悟空の1発目は、亀仙人がかめはめ波を披露した直後だ。

亀仙人のかめはめ波は大火事を消し(同時に山も吹き飛ばした)、その威力に感動した悟空は「オラにもおしえてくれよ!」と頼む。

だが亀仙人は「かめはめ波を会得するには 50年は修業せんとの…」と、あっさり拒絶。

そこで悟空が、見よう見まねで試し撃ちしたところ、その手から出たかめはめ波は、停車していたブルマの乗用車を「ばぼん」と破壊した!

亀仙人が50年かけて会得した技を、見ただけで再現したのである。恐るべし!

この調子で、悟空の全42発を分類したところ、以下のようになった。

「試し撃ち」3回

「攻撃」28回

脱出するための「破壊」2回

空中で軌道を変えるなど「推進力」10回

さらに細かく見ると、「攻撃」28回のうち、相手にダメージを与えたのはわずか13回。

弾かれたり効かなかったりしたのが11回。

相手のエネルギー波と押し合いになったのが4回(重複あり)。

計算すると、有効率は13÷28=46%。意外に低い!

だが、その経験のおかげで悟空は、修業を積んだり、超サイヤ人になったりして、威力を増大させていったのだ。

◆お寿司1個のエネルギー!

その威力増大の過程を追ってみよう。

前述のとおり、1発目のかめはめ波の犠牲となったのは、ブルマの愛車。

筆者の見立てだが、その車はかめはめ波を受けて「車重1tの車が時速60kmで衝突したくらい」に破壊されていた。

その場合、エネルギーは14万J=33kcalである。

33kcalとは白飯なら19gで、つまり握り寿司のシャリ1個ほどのエネルギー。

たったそれだけ!? と驚いてしまうが、かめはめ波が微弱なのではなく、「kcal」というのがそれだけ大きな単位ということだ。

また、同じくコミックス第2巻で、悟空のかめはめ波は、厚さ30cmくらいの石の壁に、直径20cmほどの穴を開けた。

そのエネルギーは0.6kcal。これも少ないが、まあ、まだ覚えたばかりだからね。

その後、武舞台を破壊したり、メタリック軍曹の首を吹き飛ばしたりしたが、それぞれダイナマイト1発分くらいの威力で、するとエネルギーは190kcal。

106gのおにぎり1個分でしかない。

このあたり、悟空の試行錯誤が続いている感じだが、第7巻で急激な進歩を見せる。

頭胴長5mほどの大ダコを丸焼きにしたのだ!

タコの推定体重は28tで、丸焼きにしたのだから、タコの温度を20度から100度に上昇させたと考えよう。

その場合、エネルギーは224万kcal。なんとガソリン270L分! 飛躍的増大だ!

また第16巻では、天下一武道会でピッコロに上空から撃ち、直径10m、深さ3mほどのクレーターを作った。

これが2万5千kcal。

見た目にはハデだが、エネルギーとしては、大ダコの丸焼きのほうがずっと大きいのである。

◆威力最大のかめはめ波とは!?

大ダコを上回るのは、意外にも「推進力」だ。

コミックス第11巻、天下一武道会でクリリンと対戦した悟空は、猛スピードでジャンプするや、空に向かってかめはめ波を放ち、その反作用で折り返してクリリンにパンチを見舞った。

かめはめ波が、その名のとおり「波」であるとしたら、これはスゴイ行為だ。

エネルギーを運ぶ波の代表は光で、「光子ロケット」が検討されているように、光も推進力を持っている。

その推進力で自分の軌道を変化させるためのエネルギーは「質量×速度の変化×光速」で求められる。

これがかめはめ波にも適用できたら、どうなるか?

天下一武道会で戦う悟空もクリリンも、高度50mほどジャンプしていた。これには秒速31mの速度が必要で、同じ速度で折り返すと、「速度の変化」は秒速62mになる。

このときの悟空の体重を30kgとして、光速=秒速3億mとともに上の式に代入し、単位を変換すると、そのエネルギーは1億3500万kcal。

ガソリン12.5t分であり、タコ焼きの60倍だ! だいぶ激しいエスカレートになってきた……! 

威力最大のかめはめ波は、第34巻のセル戦で放たれた。

そのとき悟空は「超サイヤ人を超えた超サイヤ人」=「超サイヤ人2」になっていた。

地上にいるセルに向かって、悟空が上空で構えに入ると、クリリンが「う 撃つわけないさ…!!」と期待を込めて言う。

続けて「あんな位置関係で撃ったら こ この地球がぶっこわれちまうぞ……!!」。

そう、この段階のかめはめ波は、もうそれほどの威力を持っているのだ。

セルも悟空が撃たないと思っていたようで、「ま…まさか………!!」と青ざめる。

だが、悟空は撃った!

ただし、寸前に地上まで瞬間移動し、地球に当たらないように、下からセルに向かって撃ったのである。

セルは上半身を吹き飛ばされ、これで勝負は決したと思われたが……。

このままストーリーを紹介するとキリがなくなるから、本題に戻って科学的に考えよう。

このときの悟空のかめはめ波は、クリリンだけでなく、セルもベジータも「地球を破壊できる」と認めていた様子である。

だとしたら、そのエネルギーはどれほどなのか!?

地球を跡形もなく破壊するエネルギーは、「3/5×地球質量×重力加速度×地球半径」で求められる。

重力加速度とは重力の強さを表す数字で、地球の場合は9.8m/秒²。

よって、上の式を計算すると、答えは「5万3600×1兆×1兆kcal」。

全世界で消費するエネルギーの、なんと3600億年分である!!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

あまりにすごい。

出発点は、見よう見まねの「ばぼん」だったのに、あれよあれよという間に地球をぶっ壊すほどの威力に……!

かめはめ波は、これほどすごい勢いで増強していった。

それと同時に、『ドラゴンボール』の世界観も面白さもどんどんエスカレートしていったのだ。

やはり、かめはめ波はすごい。『ドラゴンボール』も本当にすごい。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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