レアル・マドリーを支える精密機械。クロースの「効果性」に刮目せよ。
今季、ジネディーヌ・ジダン監督率いるレアル・マドリーに訪れた大きな変化のひとつは、中盤の序列の変更だ。
2019-20シーズン、マドリーはフェデリコ・バルベルデが台頭した。ジダン監督の中で、ルカ・モドリッチとバルベルデの優先度が逆転した。一方で、カゼミーロとトニ・クロースに関してはポジションを守り続けている。
ジダン監督にとって、最重要なのはカゼミーロだ。ただ、カゼミーロが「マドリーのプレーリズムを決めているのはクロースだ」と語るように、攻撃面でクロースの存在は欠かせないものとなっている。
■エリート街道
クロースは2006年に、16歳でバイエルン・ミュンヘンの下部組織に入団した。順調に成長した青年は2007-08シーズンにトップデビューを飾る。17歳265日でのトップデビューは、当時クラブ史上最年少記録となった。
だがクロースは2009年夏にレヴァークーゼンにレンタルで移籍する。出場機会を求めての決断だった。そして2010年夏にバイエルンに復帰すると、バスティアン・シュバインシュタイガーと共にバイエルンを中盤の底から支えた。
2013-14シーズンからはジョゼップ・グアルディオラ監督の指導を受けた。しかしながら、2014年夏にドイツ代表のワールドカップ優勝に貢献した後、再び移籍を決意した。移籍金固定額2500万ユーロ(約30億円)+ボーナス500万ユーロ(約6億円)を準備したマドリーが、クロースを引き入れた。
マドリーでは、移籍一年目から活躍した。カルロ・アンチェロッティ監督の下で、公式戦53試合に出場。出場時間4441分で、エースのクリスティアーノ・ロナウド(52試合出場/出場時間4402分)以上の数字を残した。
■淡々とプレー
ドイツでは、正当な評価を得ていなかったのかもしれない。その証に、クロースのドキュメントが制作され、この夏に発表されたが、それまでは彼のキャリアを語るような本さえ存在しなかった。
シンプルなプレー。それがクロースの信条だ。精密機械のように、淡々と、正確なパスを繰り返す。時に、そのプレーは退屈に見える。スペクタクルなパフォーマンスを披露するわけではない。即時的な結果ではなく、ミドルスパン、ロングスパンでの効果をもたらす選手なのだ。
クロースは今季、公式戦32試合に出場して5得点8アシストを記録している。パス成功率は93.5%で、これはキャリアハイの2015-16シーズンのパス成功率(94.09%)に迫る勢いだ。
また、クロースはテニス選手であるロジャー・フェデラーの大ファンで、『WhatsApp』というチャットアプリのアイコンには、自身の息子とフェデラーの2ショット写真を載せているという。ポーカーフェイスでプレーに集中するクロースとフェデラーの姿には、どこか似たところがある。
F・バルベルデの成長で、左インサイドハーフに入るクロースの守備負担は減った。攻撃に専念できるようになり、それはパス本数1569本(1試合平均68.2本)、パス成功本数1470本(1試合平均63.9本)、シュート数34本(1試合平均1.48本)とリーガにおける数字にも表れている。
チャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦ファーストレグ、マンチェスター・シティ戦で、クロースはスタメンから外れた。そして、マドリーは逆転負けを喫して、厳しい状況に追い込まれている。
マドリーのプレーリズムを決める選手ーー。タイトルが懸かる今後の試合において、その重要性は明らかだ。