【慢性蕁麻疹の新たな治療法】デュピルマブの効果と安全性について
慢性蕁麻疹(CSU)は、6週間以上続く原因不明の蕁麻疹で、強い痒みやQOLの低下を伴う難治性の炎症性皮膚疾患です。日本でも人口の0.1~1%が罹患していると言われています。従来の治療法であるH1抗ヒスタミン薬やオマリズマブ(抗IgE抗体)では十分な効果が得られない患者さんも多く、新たな治療選択肢が求められてきました。
そんな中、注目を集めているのがデュピルマブです。デュピルマブはIL-4/IL-13シグナルを阻害する抗体医薬で、アトピー性皮膚炎や喘息など他の病態でも有効性が示されています。今回、慢性蕁麻疹に対するデュピルマブの効果と安全性を検討した2つの第III相臨床試験(LIBERTY-CSU CUPID試験)の結果が報告されました。
【H1抗ヒスタミン薬不応のCSU患者へのデュピルマブの効果】
CUPID試験Aでは、H1抗ヒスタミン薬で効果不十分なオマリズマブ未投与の慢性蕁麻疹患者138名を対象に、デュピルマブとプラセボの比較が行われました。その結果、24週時点でのUAS7(蕁麻疹重症度スコア)とISS7(痒みの重症度スコア)の改善が、デュピルマブ群で有意に大きいことが示されました。
UAS7のベースラインからの変化量は、プラセボ群が-12.0なのに対し、デュピルマブ群は-20.5でした(群間差-8.5、p=0.0003)。ISS7の変化量も同様に、デュピルマブ群でより大きな改善が認められました(群間差-4.2、p=0.0005)。
さらに、蕁麻疹のコントロール達成率(UAS7≦6)は45.7% vs 23.5%、完全寛解率(UAS7=0)は31.4% vs 13.2%と、いずれもデュピルマブ群で2〜3倍高い結果となりました。痒みスコアの5点以上改善率も72.9% vs 42.6%とデュピルマブの優位性が示されました。
【オマリズマブ不応・不耐のCSU患者に対する効果は限定的】
一方、オマリズマブに不応または不耐容の慢性蕁麻疹患者108名を対象としたCUPID試験Bでは、デュピルマブの上乗せ効果は限定的でした。主要評価項目のUAS7は統計学的に有意な改善が認められたものの(群間差-5.8、p=0.0390)、ISS7については有意差が得られませんでした(群間差-2.9、p=0.0449)。
試験Bの結果から、オマリズマブで十分な効果が得られない難治性の患者群に対しては、デュピルマブを追加しても症状改善が小さい可能性が示唆されます。ただし、今回の試験では症例数が限られていたことから、今後より大規模な検証が必要と考えられます。
【IL-4/13を標的とした治療の意義と安全性】
慢性蕁麻疹の発症メカニズムにはまだ不明な点が多いものの、IL-4やIL-13を中心とするTh2サイトカインが病態形成に関与していることが近年明らかになってきました。実際、皮膚生検ではこれらの炎症性サイトカインの発現増加が確認されています。デュピルマブはIL-4/13シグナルを阻害することで、2型炎症を抑制し、結果として蕁麻疹症状を改善すると考えられます。
安全性については、デュピルマブ群とプラセボ群で有害事象発現率に大きな差は認められませんでした(57.3% vs 56.6%)。最も多かったのは鼻咽頭炎と注射部位反応で、重篤な有害事象はデュピルマブ群で4.0%、プラセボ群で5.7%と同程度でした。全体として、デュピルマブの安全性プロファイルは他の適応症と同様に許容可能なものと考えられます。
慢性蕁麻疹は、原因不明の皮膚の慢性炎症であり、強い痒みにより日常生活に大きな支障をきたします。患者さんの中には、既存治療に抵抗性を示す方も少なくありません。今回のCUPID試験の結果は、難治性慢性蕁麻疹に対する新たな治療選択肢としてデュピルマブの可能性を示すものです。特にオマリズマブ未投与例では顕著な症状改善効果が期待できそうです。一方、オマリズマブ不応例への効果は限定的であり、投与対象の選定には注意が必要と言えるでしょう。
参考文献:
Maurer M, et al. Dupilumab in patients with chronic spontaneous urticaria (LIBERTY-CSU CUPID): Two randomized, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trials. J Allergy Clin Immunol. 2024.