日本代表ジェイミー・ジョセフヘッドコーチが浅原選出、山沢落選など語る。【ラグビー旬な一問一答】
日本ラグビー協会は10月1日、今秋のツアーに挑む日本代表メンバー35人を発表した。来年のワールドカップ日本大会に向けた強化期間に際し、2016年秋に就任のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが会見した。
ジョセフは以前、母国ニュージーランドのハイランダーズでヘッドコーチを務め、現日本代表アタックコーチのトニー・ブラウンとの二人三脚で2015年のスーパーラグビーを制覇。ナショナルチームを指揮するのは2016年秋に着任の日本代表が初。
今回のセレクションおよび会見での注目点は、キャプテン経験のある堀江翔太と立川理道の落選、酒に酔って路上に横たわり車にひかれた浅原拓真の選出、8月からのトップリーグでの活躍ぶりが買われた堀越康介、梶村祐介らの抜擢、同じくトップリーグで好調を維持しながら選外となった山沢拓也への見解など。ジョセフがどう語ったか。まずはメンバーリストを紹介する。
・左プロップ
稲垣啓太(パナソニック/186/116/22)●▲★
三上正貴(東芝/178/111/33)★
山本幸輝(ヤマハ/181/118/5)■
・右プロップ
浅原拓真(東芝/179/113/12)●▲
具智元(ホンダ/183/122/5)●▲
ヴァル アサエリ愛(パナソニック/187/115/3)▲
山下裕史(神戸製鋼/183/118/49)■★
・フッカー
坂手淳史(パナソニック/180/104/10)●▲
庭井祐輔(キヤノン/174/95/6) ●▲
堀越康介(サントリー/175/100/1)■
・ロック
アニセ サムエラ(キヤノン/198/118/10)●
ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモ/188/106/6)●▲
ヘル ウヴェ(ヤマハ/193/113/9)●▲
中島イシレリ(神戸製鋼/186/120/―)■
・フランカー
徳永祥尭(東芝/185/100/10)●▲
西川征克(サントリー/181/95/1)●▲
リーチ マイケル(東芝/190/110/56)●▲★
布巻峻介(パナソニック/178/98/6)●▲
・ナンバーエイト
ツイ ヘンドリック(サントリー/189/108/40)■★
姫野和樹(トヨタ自動車/187/108/6)●▲
・スクラムハーフ
茂野海人(トヨタ自動車/170/75/6)●▲■
田中史朗(パナソニック/166/72/67)●▲★
流大(サントリー/166/71/12)●▲
・スタンドオフ
田村優(キヤノン/181/92/51)●▲★
松田力也(パナソニック/181/92/13)●▲
・センター
ウィリアム・トゥポウ(コカ・コーラ/188/101/3)●▲
中村亮土(サントリー/178/92/13)●▲
ラファエレ ティモシー(コカ・コーラ/186/98/11)●▲
梶村祐介(サントリー/180/93/―)■
・ウイング
福岡堅樹(パナソニック/175/83/27)●▲★
山田章仁(パナソニック/182/88/24)●▲★
レメキ ロマノ ラヴァ(ホンダ/177/92/8)●▲
ヘンリー ジェイミー(トヨタ自動車/184/99/―)■
・フルバック
野口竜司(パナソニック/177/83/13)●▲
松島幸太朗(サントリーサンゴリアス/178/88/30)●▲★
※=現時点では日本代表資格を持っていないがワールドカップ日本大会までに資格を取得する見込みのある選手
●=2018年6月の日本代表ツアーに参加した選手
▲=サンウルブズ2018年スコッドに加わった選手
■=8月以降新たにワールドカップトレーニングスコッドに追加された選手
★=2015年ワールドカップイングランド大会に出場した選手
以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。
「まずは35名。通常は33名ですが、それより多い人数です。怪我で11月に復帰できるのかどうかが不明な選手もいるため35名を選びましたが、欧州遠征前には33名に絞りたいです。悪いタイミングで怪我が多発しましたが、逆に捉えれば新たに入ってきた選手、若手に機会を与えるということ。今回新たに入ったメンバーは、トップリーグ第4節までのパフォーマンスで自らチャンスを作ってきたと言えます。
日本では常々、層の薄さが課題に挙げられていましたが、若手が日本代表で活躍することで層を厚くできるためわくわくしています。梶村、堀越などトップリーグでいい働きをした選手が入っています。彼らには我々のスタンダード、戦い方を理解して欲しいと思います。
堀江は疲労骨折で選ばれませんでした。このような状況下で彼に頼るのは、チームにとっても彼にとってもよくない。怪我の治療、回復に向けて取り組んでもらう。そこで堀越が新たな機会を得た。カバーしてもらいたいと思っています。
立川は、彼のパフォーマンスが我々の求める基準に達していなかったということです。彼には個別にフィードバックをしています。彼のことを選手としてリスペクトしますし、今回の決断は苦渋の判断ですが、タフな判断をしなきゃいけないのが自分の任務だと思っています。彼は次の試合や今後の活躍で逆境を乗り越えてくれると信じています。
2年前の会見で当時の代表メンバーを発表したことを思い出していますが、その時は堀江と立川が共同キャプテンでした。その2人が不在ということで、いまはどれくらいチームが成長しているか、リーダーシップが芽生えたかがわかると思います。1年間のブランクを開けてリーチ マイケルが戻っている。ここまで選手が成長し、リーダーシップが強くなっている。流、姫野、田村がチームを引っ張れるようになったし、彼らがこのままチームをけん引してくれると手ごたえを感じています。これがチームの成長の兆しだと思います。このチームで、世界の強豪としっかり戦いたいと思っています」
――堀江選手の怪我の状況は。
「疲労骨折。状態からいって、6か月ほど治療に時間がかかる。オールブラックス戦はそれより先にやって来る。専門医によると(復帰までに)ふた通りの方法がある。ひとつは自然治療からの復帰、それが実現できない場合は手術ということです。堀江本人も悔しい思いです。コーチも今回のことは残念に思っています。彼が非常にいいプレーをしていたこともあり、なおさら悔やまれます。前回2度のツアーでずば抜けたパフォーマンスを見せてくれました。今回、他の選手にチャンスが舞い込んできた。層が厚くなるチャンスだと思っております」
本稿掲載準備中の10月1日18時54分、日本ラグビー協会から「日本代表メンバー発表記者会見の質疑応答の際に、今回、日本代表メンバーから外れましたパナソニック ワイルドナイツ所属の堀江翔太選手の怪我につきまして、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチから「怪我は疲労骨折。全治6カ月。足だと聞いている」との回答がありました。このジェイミー・ジョセフヘッドコーチの回答の内容に誤りがありました」
と発表。堀江の選外となった理由は「コンディショニング不良」とされ、怪我の名称、部位、治癒期間などは不明とされた。
――箇所は。
「足ですけど、詳しい状況はちょっと。また後日、詳細をお知らせします」
――立川選手について。
「率直に我々の思うことを彼に伝えました。本人はそれを理解、把握している。彼は現状、(クボタやサンウルブズで)10番でプレーしていますが、私たちは彼を12番として見ています。12番に求められるフィジカル、ディフェンスのキーエリアが不足していると伝えました」
――11月。どんな戦いを見せたいか(筆者注・対戦相手については後述)。
「大幅な戦い方の変更はないですが、過去最強の相手との対戦。オールブラックスは勝率9割超。イングランド代表も含め手ごわいことは承知の上ですが、日本のセットピースをアタックしようと思っていると思います。ワールドカップでのアイルランド代表、スコッドランド代表も同じようにしてくると予想しています。我々はキックを駆使してチャンスを作る。ストラクチャーからもトライを取れますが、6月はアンストラクチャーからも8つのトライを取っていて、それが最も勝率の上がる戦い方だと思っています」
――キッキングゲームをするなら、パナソニックの山沢拓也選手がその領域を得意としているのでは。山沢選手を選外にし、センターの梶村祐介選手を選んだ背景は。また、梶村選手には12、13番(それぞれインサイドセンター、アウトサイドセンター)のどちらを任せるのか。
「キックを駆使するのは大事ですが、田村優が長いことこのチームの10番ですし、戦い方も理解しています。彼が日本で一番いい10番だとも思っています。その次が松田力也。彼は所属のパナソニックで10番をしておらず(インサイドセンター、12番でプレー)、だからこそジャパンで先発起用ができていません。ただ、彼は素晴らしいラグビー選手。キック力もあります。山沢も、ジャパンファミリーの一員です。(2017年の)アジアラグビーチャンピオンシップや秋のツアーでも経験を積ませました。彼は(今季)怪我などでの離脱から戻って2~3試合、いいプレーをしています。重要な選手だと捉えています」
――改めて、梶村選手には12、13番のどちらを任せるのか。
「どちらかはまだ判断しかねています。他に経験豊富な選手がそろうため、4番手のセンターとして考えています。チーム入りは今回が初めてで、トップリーグも今季が初年度。機会を与えて成長させたい」
――堀越選手について。
「ふたつのポジションができるのは貴重。フッカーとしてのポテンシャルも高いです。現状では1番(左プロップ)でプレーすることで彼の優位性が活かせていないと思っています。大きな体格ではないが、タフでスキルを兼ね備えています。我々のやりたいスタイルでプレーする能力がある。彼がワールドカップのメンバーには入るかどうかは今後の機会をどう自分のものにしていくかにかかってきます」
※上記箇所、初出時に誤りがありました。お詫びして訂正します。
――改めて。「重要な選手」という山沢選手をツアーメンバーに入れない理由は。
「先ほど答えた通り、他の選手の能力が上だと判断したからです。(一瞬、笑みを浮かべながら)他の選手の方がテストマッチでの経験値が高いです。田村はもちろん、松田力也もワラビーズ戦(昨秋のオーストラリア代表戦)に出ている。より多くの時間を過ごしてきました。山沢は非常にいいパフォーマンスを、トップリーグ、で、見せていますが、トップリーグとオールブラックスとではレベルの差があります。
皆さまに認識いただきたいのは、10番(スタンドオフ)の育成には時間がかかる。忍耐力も必要です。そして山沢のような若い選手にいきなりこのような高いレベルの試合をぶつけることは、彼の成長にとってもあまりよくない。いままで私も本当に色々な10番を指導してきましたが、本当に花が咲くのは20台中盤から。彼は、将来、有望な選手だと捉えています」
――6月のツアーからフォワードを7名、入れ替えた。
「何名かは怪我で入らなかった選手で、怪我がなければ入っていたでしょう。まず理解していただきたいのは、セレクションには現状のパフォーマンスや入ってくる選手の状態というものがあります(考慮される)。誰が誰より劣っているというわけではなく、誰が誰より勝っているというところがあればそれを見ます。近々の試合を見たところでコーチ陣の目を引くパフォーマンスをすれば、コーチの持っていた印象を変えることもできると思います。あとは選手の学ぶ意欲、アティテュードなどを考慮して、今回のメンバーを選んでいます」
――路上で寝ていたところを車で引かれた浅原選手の選考について。
「(苦笑して)話題になっている件だと思います。浅原は東芝所属であり、サンウルブズ、日本代表でもプレーをしてくれている選手です。チームにとっては貴重です。この件に関しては東芝が対応しています。彼は、プレーするのにフィットした状態で、6月のツアー(日本代表)、サンウルブズでのパフォーマンスを見て評価しました」
――暴行容疑が報じられているアマナキ・レレイ・マフィ選手について。裁判所の判決などが間に合い11月に競技復帰した場合も、今回は呼ばないのか。
「全ては裁判所の判決次第。そこがクリアにならなければ、私は彼を選考しません」
(上記2つの質問が出た折は、ジョセフと同席者である薫田真広・強化委員長と通訳の佐藤秀典さんの3名が顔を見合わせるようなしぐさがあった)
――スクラムハーフで茂野海人選手が復帰。
「9番は我々のチームにとって大事なポジションです。その大事なポジションに5人の有能な選手がいてありがたく思っています。それぞれが、違うものをチームに提供できる。そして我々が求めるのは、スキル、スピード、混とんとした状況での素早い判断です。アンストラクチャー、スピード。茂野が他選手と比べると、本当に僅差だと思います。今回は彼に機会を与えたが、(トレーニングスコッド入りも今回選外の)日和佐篤、内田啓介もいいパフォーマンスをしている。誰も安泰ではないと伝わったと思います。前回おこなった合宿で全員を見る機会があり、今回の決断に至りました」
チームは国内トップリーグ期間中の14~24日に宮崎合宿、26日に世界選抜との強化試合(大阪・東大阪市花園ラグビー場)をそれぞれおこない、11月3日に世界ランク1位のオールブラックスことニュージーランド代表と(東京・味の素スタジアム)、18日に同4位でエディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチ率いるイングランド代表と(ロンドン・トゥイッケナムスタジアム)、24日には同19位でワールドカップの初戦の相手でもあるロシア代表と対戦する。会見内容のレビューは別途、本欄で掲載予定。