嗚呼、アトレティコ 。君たちに戦術など必要はない。
エピックな夜だった。
チャンピオンズリーグ・グループステージ最終節、最も劇的な展開を迎えたのはグループBだろう。主役になったのは、アトレティコ ・マドリーだ。
アトレティコは敵地でポルトに勝たなければいけなかった。そして、他会場でリヴァプールがミランに勝利することを願う必要があった。退場者を2人出すという壮絶なゲームを終え、笑っていたのはディエゴ・シメオネ監督でありアトレティコの選手たちだった。
Nunca dejes de creer
ヌンカ・デヘス・デ・クレール、「信じることを諦めるな」というのは最早シメオネ・アトレティコの代名詞だ。そのフレーズに違わぬ戦いぶりで、アトレティコはポルトを破り、CLベスト16進出を決めた。
■追い込まれていたアトレティコ
決して良い状況で迎えた試合ではなかった。
C LグループB第5節、0−1でミランに敗れた。リーガエスパニョーラ第16節、アディショナルタイムに久保建英に得点を許してマジョルカに逆転負けを喫した。いずれも本拠地ワンダ・メトロポリターノで、終盤の失点での敗戦だった。マドリード・ダービーを直前に、首位レアル・マドリーとの勝ち点差は10ポイントまで開いていた。
終盤の失点は、アトレティコスにとって、嫌な記憶だ。2013−14シーズンのCL決勝では、ビッグイヤーに手が届きそうな場面で、93分のセルヒオ・ラモスのゴールで同点に追いつかれ、延長戦の末に力尽きた。
マドリディスタからすれば、それはノベンタ・イ・ラモス(90分とラモス)と呼ばれる伝説の一端だ。しかし、あの時でさえ、信じることを諦めないアトレティコの選手たちは戦い続けた。ただ、最近の試合では、逆転された時やリードを許す展開で下を向く選手が散見される印象があった。シネオネイズム(シメオネ主義)の浸透に、どこか危うさを感じるところがあった。
近年のアトレティコの躍進を支えたのは、間違いなくシメオネだ。
ペップ・グアルディオラ、トーマス・トゥヘル、ユリアン・ナーゲルスマン…。稀代の戦術家は、存在する。だがシメオネのように個性が強く、そしてそれを選手たちに伝播させる指揮官は皆無に等しい。
シメオネが2011年12月に就任して以降、アトレティコはリーガエスパニョーラ優勝(2回)、ヨーロッパリーグ制覇(2回)、コパ・デル・レイ優勝と数々のタイトルを手にしてきている。それだけではない。何より、この10年で、アトレティコがリーガでトップ4フィニッシュを成し遂げられなかったシーズンはない。今季のバルセロナの不振に顧みれば、いかにアトレティコとシメオネが優秀であるかが分かるはずだ。
■急造のコンビと敢闘精神
ポルト戦では、ホセ・ヒメネスとステファン・サビッチが負傷で、フィリピが累積警告で出場できなかった。ジョフレイ・コンドグビアとシメ・ヴルサリコという急造のセンターバックが、最終ラインでコンビを組んだ。
想像以上のパフォーマンスを見せたのが、ヴルサリコだ。試合後に「後半は顔に痛みを抱えながらプレーしていた」と指揮官が語ったように、頬骨弓骨折の状態で戦っていた。その敢闘精神は、シメオネをして「普段出場機会が少ない選手が、試合に出なければいけない時がある。グループの重要性、全選手が大切だという言葉を、シメは体現してくれた」と激賞するものだった。
今夏、アントワーヌ・グリーズマンがアトレティコに復帰した。
シメオネは昨季の【3−1−4−2】を捨て、再び【4−4−2】を使い始めた。グリーズマン、ルイス・スアレス、ジョアン・フェリックスの共存のために、【4−3−3】を試してもきた。
グリーズマンの加入は、決定力という意味ではプラスだったが、戦術的観点ではマイナスだったかもしれない。とはいえ、復帰を望む者を拒まないというのもまたシメオネらしい。
このチームは、戦術だけでは語れない。アトレティコのCLベスト16進出は、我々に多くの示唆を与えてくれる。信じることをやめない彼らの挑戦は、このような時代で、とても尊いものである。