「本物のモンスターだ」パッキャオを破った元2階級制覇王者が語る井上尚弥の強さ
10月31日、MGMグランドガーデン内のカンファレンス・センターで行われた井上尚弥(大橋)対ジェイソン・マロニー(オーストラリア)戦の試合後、この一戦をESPNの解説者としてリングサイドで見たティモシー・ブラッドリーが日本メディアの質問に応えた。
現役時代はスーパーライト級、ウェルター級の2階級を制し、マニー・パッキャオ(フィリピン)と通算1勝2敗というライバル関係を築いたブラッドリーの目に日本のモンスターはどう映ったのか。
疑いを吹き飛ばすパフォーマンス
井上の強さは信じられないくらい。疑っていたが、本物のモンスターだ。
一般的に選手は居心地がいい環境ではいい動きをする。これまでの戦いの多くは日本で行われ、2万人の観客にエネルギーをもらってきた。でも、きょう目にした技術、パワー、スピード、相手に詰め寄るスピードは異常なくらいだ。間違いなくモンスターだ。
スピードとパワー、リング上でのIQの高さから、オーソドックスなパッキャオを彷彿とさせた。信じられないよ。本当に楽しませてもらった。
モロニーは簡単な相手じゃない。井上を手こずらせるものを持っていると思ったけれど、そうはならなかった。パワーが凄すぎたし、リング上のIQ、スピードがありすぎた。バンタム級で井上に対抗できる選手はいない。今夜の試合を見たら、対戦したいと思う選手が今後出てくるかも分からない。モロニーもいい選手で、自信と技術を持っていたが、井上は何光年も先をいっているようだった。まるで赤ん坊からキャンディーを奪い取っているかのようだった。
モロニーは出来る限りのことはやったし、可能な限り決着を引き延ばした。あれだけ強打をもらい続け、採点でもリードされていたのだから、私がモロニーのセコンドについていたら、試合をストップしていただろう。
あの最後の右は圧倒的だった。練習してきたのだろうし、ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)がパッキャオに放ったパンチを彷彿とさせた。体を傾け、懐に入ってボディーを打つかのように見せて、実際には顔面を狙う。タイミングも完璧だった。彼がアメリカに来て興奮しているし、今夜の出来からすると、とてつもないスーパースターになると思う。
パッキャオのようになるには
パッキャオは階級を上げて戦い、唯一の8階級制覇王者(注・正式には6階級)となった。井上はすでに3階級を制したが、骨格は小さく、リーチの長さはない。パッキャオは下の階級からスタートして、ウェルター級まで上げた(実際にはスーパーウェルター級)。井上はまだ27歳で全盛期は始まったばかり。今、やっている通りに、今後も自身への挑戦を続け、階級を上げていくべきだ。
井上はパッキャオのように多くの人々から愛されるチャンピオンになれるだけの能力があるし、そのメンタリティもある。すごい選手だよ。今後もベストファイターたちと戦い続けて欲しい。
テレンス・クロフォード(アメリカ)は素晴らしい選手で、尊敬している。サウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)も含め、多くを成し遂げてきた選手たちのことはリスペクトしている。ただ、井上は速く、クイックネスがある。あんな選手はパッキャオ以来、お目にかかっていない。
テオフィモ・ロペス(アメリカ)、今夜すごいKOで勝ったジャーボンテ・“タンク”・デービス(アメリカ)も素晴らしい才能を持っている。デービス、クロフォード、カネロに加え、シャクール・スティーブンソン(アメリカ)、ロペスのようなリスクを恐れない若手もいる。すでに多くを成し遂げたワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)もまだ素晴らしい選手だ。現代にはすごいタレントがたくさん揃っているよ。