批判を受け、フェイスブックが裸の歴史写真の投稿を許可 ノルウェー首相も投稿を削除され大騒ぎに
ベトナム戦争で投下されたナパーム弾から、裸で逃げる少女の写真「戦争の恐怖」(1972年、ニック・ウット氏撮影)。ヌード写真だとして、フェイスブックは投稿された写真や、写真付きの批判記事を続々と削除していた。
投稿を削除された、ノルウェー全国紙最大手アフテンポステンが、7ページに及ぶ抗議文や特集記事を9日に掲載。
Aftenposten
ノルウェー首相の投稿も削除、首相は負けずに再投稿して反撃
ノルウェーのアーナ・ソールバルグ首相(冒頭写真)は、自身のフェイスブックページで、フェイスブックを批判する文章を問題の写真付きで投稿。フェイスブックは、首相の投稿を数時間に削除。首相の投稿をシェアしていた、ノルウェーの各大臣たちやフォロワーの投稿も同時に削除された。
これまでの詳細は「フェイスブックがノルウェー首相からの批判投稿を削除。裸の戦争写真「検閲」に報道機関や政治家たちがNO」
ノルウェー首相は、すぐさま反撃し、少女を黒塗りして加工した写真付きで、再び批判文章を投稿。左翼・右翼に限らず、政治家たちも一斉に応援にまわり、他国のメディアでも報道が続いた。
「この写真は私たちが共有する歴史。編集・削除されるべきではない」
首相は、所属する保守党のインスタグラムなどでも、問題の写真を両手で掲げて訴えた、批判動画を掲載。「これは私たちが共有する歴史です。フェイスブックは歴史を編集・削除することはできず、変更されるべきは、フェイスブックの編集政治です」と述べた。首相は、国内メディアでも積極的に取材に応じ、政府として対応に動くことを示唆。
マーク・ザッカーバーグ氏に抗議の手紙を英語で掲載した、アフテンポステン紙の編集長も、CNNなどの取材に応じていた。
写真を投稿する政治家や関係者たちが続々と検閲される
同時に、事の発端となった、問題の写真を最初に投稿し、アカウントを24時間停止されたノルウェーの著者は、首相の投稿や写真を再投稿。フェイスブックによる新たな検閲で、同氏はアカウントを13日間、使用不可能になった。ノルウェーの一部の政治家は、「フェイスブックはもう使わない」とし、自身でアカウントを削除した。
突然、フェイスブックが方針転換、写真を許可へ
大騒ぎが続いた同日、19時30分頃、Guardian紙などの外国メディアからの速報で、フェイスブックが問題となった写真の掲載を許可することを発表。
「私たちのコミュニティからの声に耳を傾けた結果」、「今回のケースの場合、特定の時代を記録した、この写真が持つ歴史とグローバルな重要性」を考慮して、「削除してコミュニティを守ることより、共有を許可することが重要だという結論に至った」と発表した。
首相「声をあげることには、意味がある」
フェイスブックが態度を急変させたことに対して、ノルウェーの首相は、ノルウェー国営放送局に、「とても良いことだと思います。ソーシャルメディア上での動きは、ソーシャルメディア自身にも影響を及ぼすということです。自らの声を使って、変化を望むと声をあげることには、意味があり、改善へとつながります。そのことを、私は嬉しく思います。フェイスブックを支配しているものは、機械だけではないということでしょう」。
アフテンポステン紙のハンセン編集長は、「フェイスブックが進路を変更したことは、良いと思う」と同紙でコメント。「間違いをしたことを認め、方向性を変えることは、時に編集長がやらなければいけないこと」だとし、「マーク・ザッカーバーグ氏は、自身の絶大な権力について、議論するステージに出てくるべきだ」としている。
同編集長は、ザッカーバーグ氏を、「世界で最も力のある編集長」としている。しかし、フェイスブックはそもそもメディアハウスではなく、民間のテクノロジー企業で、新聞社などの常識を押し付けることには矛盾があるとする意見もある。人口520万人のノルウェーのような小国や、1か国と比較して、「フェイスブック住民」の規模は巨大だ。文化や価値観が異なる、世界中のユーザーや写真の管理をフェイスブックに期待することには、無理があるのではとする声もある。
追記
9日夜、ノルウェー首相は、一連の出来事を受けて、英紙ガーディアンに英語でコラムを寄稿した。
Facebook had no right to edit history
現在、削除された首相のフェイスブック上の投稿は復活している。
アフテンポステン紙でのインタビューで、首相は、フェイスブックは影響力を持ちすぎている側面があり、企業としての果たすべき社会的責任を果たし切れておらず、これからも議論を続ける必要があると語る。
Text:Asaki Abumi