ノート(53) 舞い込む手紙と面会希望者 ダメな取材要請とはどのようなものか
~達観編(3)
勾留21日目
レーザー照射
朝食後、刑務官から手紙の束をドサッと渡された。逮捕以来、前日までに拘置所に到着し、既に担当職員が検査を終えていたものの、接見禁止中だったため、拘置所の方で「留め置き」にしていたものだ。
僕を誹謗中傷し、「早く死ね!」などと罵倒する手紙もあったが、中には「全ては政府の陰謀だ」「自分も政府からレーザー照射を受けて困っている」などと、およそ理解不能な内容のものもあった。
――ああ、電波系だな。
こうした手紙を見て、懐かしさを覚えた。
告訴や告発の受理
特捜部には、日々、「告訴状」とか「告発状」といったタイトルの付けられた書類が大量に送られてくる。しかし、そのほぼ大部分が、およそ刑事訴訟法の「告訴」「告発」として正式に受理できない内容のものばかりだった。
検察が正式に受理すれば、告訴・告発された側も逆に告訴・告発した側を「虚偽告訴罪」で告訴できることになり、泥仕合の展開となる。捜査員や予算が限られている中、休日返上と深夜勤務を繰り返しつつ疑獄事件の内偵や強制捜査を進めているわけで、一般の告訴・告発事件にまで対応できる十分な余裕はなく、起訴できそうもない事件にまで手を広げることなどできない。
そこで、特捜部では、「告訴状」「告発状」と名付けられた書面が届いても、各刑罰法規の要件を充たしているか否か、事実を裏付ける証拠があるか否か、その入手を期待できそうか否かなど、慎重に審査した上で受理するか否かを決めている。
大物ヤメ検による告訴や告発であれば話は別だが、まずは形式面を中心に特捜事務課で審査し、次いで「直告受理係」と呼ばれる担当検事が審査し、最後に副部長や部長の決裁を経て正式受理に至る、というのが基本的な流れだ。
例えば、既に時効が成立している事件であれば、結論は不起訴以外にあり得ないから、告訴人やその代理人である弁護士に事情を説明し、受理前に時効成立部分に関する告訴を撤回してもらっていた。長年にわたる横領事件のうち古い時期のものなど、告訴されている一連の事実の一部のみ既に時効が成立している、といったケースが目立つ。
敗訴した民事訴訟崩れの事件であれば、自分たちにとって不利な事実を隠したままシレッと告訴してくることもある。民事訴訟が続いている場合でも、準備書面に「特捜検察が告訴を正式に受理し、捜査を開始した」などと記載することで、自らの主張に公権力のお墨付きが与えられたかのように装うことを狙った不純な告訴も多い。
それでも、記載している内容が理解可能なものであれば、まだましな方だった。
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