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東京ヤクルト入りするパトリック・キブレハンは“あのスラッガー”が認めた好打者だ

横尾弘一野球ジャーナリスト
2015年のパン・アメリカン競技大会で四番に座ったパトリック・キブレハン。

 連覇に向けて、まずまずのスタートを見せた昨年の王者・東京ヤクルトは、4月29日に新外国人の獲得を発表した。昨年の東京五輪ではアメリカ代表の一員として銀メダルを獲得し、今季はシカゴ・ホワイトソックス傘下のAAA級シャーロッテ・ナイツでプレーしていた右打ちの外野手パトリック・キブレハンだ。

 キブレハンは、ラトガーズ大ではアメリカン・フットボール部に所属していたが、4年生の春にシーズンを終えると野球にトライ。すると、6月に実施されたメジャー・リーグのドラフトでシアトル・マリナーズから4巡目で指名され、この年はA級で72試合に出場して12本塁打を放つ。2014年にはAA級までステップアップし、三塁手としてスタートした守備面でも内外野をこなすユーティリティとなる。

 アメフト仕込みの加速のいい走塁、センスのよさを感じさせる守りと長打力で、2015年にはAAA級で22本塁打14盗塁。7月にカナダで開催された第17回パン・アメリカン競技大会ではアメリカ代表に選出され、四番を担って準優勝している。

 ちなみに、この大会にはキューバ代表で、当時は千葉ロッテのアルフレド・デスパイネや巨人のフレデリク・セペダが出場。元福岡ソフトバンクのビセンテ・パディーヤはニカラグア代表、元東京ヤクルトのクリストファー・ラルーはカナダ代表でエース格を担った。そんな大会ゆえ、日本のプロ球団も国際スカウトを送り込んでおり、その中にフェルナンド・セギノールもいた。

センター中心に打ち返すのが日本で活躍するポイント

 2002年からオリックス、北海道日本ハム、東北楽天で計8シーズンにわたってプレーしたセギノールは、左右打席本塁打9回の日本記録を持ち、通算172本塁打のスラッガーだった。当時は巨人の国際部駐米スカウトを務めており、セペダらの世話をしながら日本でも活躍できそうな選手をリサーチしていた。

「左右のライン際に引っ張り込むよりも、センターを中心に打ち返そうとするバッティング。それと、変化球への対応力の高さが日本で活躍するポイントかな」

 そう言ったセギノールが「来日する意思があるか確認したい」とピックアップしたのが、ドミニカ共和国代表で23歳の遊撃手ロニー・ロドリゲス、アメリカ代表で31歳の外野手ブライアン・ボグセビック、そして、25歳のキブレハンの3人だった。

「ただ、ロニーとキブレハンは20代前半と若く、メジャー昇格目前だ。交渉がスムーズに進むのはボグセビックだろうね」

 そんなセギノールの見立て通り、ボグセビックは翌2016年にオリックスと契約した。「打線の上位でチャンスメイクしたい」とボグセビック自身が語ったように、春季キャンプでは鋭いライナーを左中間、右中間へ弾き返すバッティングが印象に残った。だが、ペナントレースが始まると主に五番を任され、ポイントゲッターとして期待されたものの持ち味を発揮することができなかった。

 また、ロドリゲスは、この年の11月に開催された第1回プレミア12でも代表入りし、日本戦では小川泰弘(東京ヤクルト)から一発を放ったが、AAA級で足踏み。2018年にようやくメジャーへ昇格するも定着できず、昨年、北海道日本ハムと契約した。しかし、セギノールに評価された頃の勢いは感じられず、1年限りで退団した。

 では、阪神が獲得候補に挙げていると報じられるなど、最近は数球団から注目されていたキブレハンはどうか。開幕早々に自由契約となり、プレーする場を求めて来日するだけに、必死にプレーするのは間違いない。それに加え、セギノールが「ナイスガイだし、日本にも興味があると言っていた」と笑顔を見せていたように、日本のスタイルにも早く順応してくれるのではないか。かつての助っ人を国際スカウトとして登用している球団が多い現在、彼らが太鼓判を押す選手には期待したい。

(写真提供=小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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