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卓球女子シングルスで金メダルの陳夢に中指立てた孫穎莎ファン その行為に中国人が激しく怒るワケ

中島恵ジャーナリスト
卓球女子シングルス決勝で戦った陳夢選手(左)と孫穎莎選手(写真:ロイター/アフロ)

8月3日に行われた卓球女子シングルス決勝戦。陳夢選手と孫穎莎選手の中国人対決は、4-2で陳夢選手が勝利をおさめた。陳選手は東京五輪に続き、2大会連続の金メダルを獲得するという快挙を成し遂げた。

大ベテランの陳夢選手の冷静な技が光り、世界ランク1位で大本命だった孫穎莎選手はまさかの敗退となったが、試合中、観客席からの声援は明らかに孫選手に向けられたものが多く、ベテランの陳選手には冷たかった。

同じ中国人同士の対戦なのに、大きな差があるように見えた。人気、実力ともにナンバーワン、卓球の世界王者である孫選手の金メダルを期待していたファンが多かったのだろう。

しかし、まさかの光景が見られたのは試合直後のことだ。陳選手が勝利をかみしめ、観客席に向かって手を振って挨拶しているとき、前方の席に座っていた女性が中指を立てるしぐさをしたのだ。このときの写真や動画が中国のウェイボーなどSNSで拡散されると、中国のファンから非難の声が沸き起こった。

優勝した陳夢選手の後方の観客席を映し出した動画が、中国のウィーチャットで拡散された、写真は「貼小君」氏の投稿(筆者によるスクリーンショット)
優勝した陳夢選手の後方の観客席を映し出した動画が、中国のウィーチャットで拡散された、写真は「貼小君」氏の投稿(筆者によるスクリーンショット)

中指を立てたファンに対する猛批判

「(あの行為は)到底理解しがたい。なんという恥ずかしいことだ。自分が好きな選手を応援するのはかまわない。でも、勝った選手を称賛せず、あんなことするなんて、信じられない」「彼女は自分がテレビにはっきり映るなんて、夢にも思わなかったのだろうな」といったコメントが次々と書き込まれたのだ。

そして、優勝した陳選手と抱擁し、陳選手を祝福した孫選手について触れたものも多かった。

「負けた莎莎(孫穎莎選手の愛称)はどんなにか、つらいだろう。今度こそ金メダルを取ろうとがんばってきたのに……。でも、先輩の陳選手を祝福する姿を私たちも見習おう」

「孫選手のファンは、孫選手のことを思うなら、あんな大人げない態度を取るべきではない。同じ中国人選手ではないか。どちらが勝っても中国の誇りだ」

このような声が多く、中指を立てた“犯人”は一体誰だ、といった犯人捜しの声も増えていった。

中国メディアも批判

試合中、会場だけでなく、SNS上でも、孫選手を応援する声が大きかったことは確かだ。しかし、いざ試合が終了したら、両者の健闘をたたえるべきであり、それがファンや観客席に座る人のマナーというものだろう。それを多くの中国人も感じていたが、ごく一部のファンの暴挙が、それを台無しにした。

中国メディア『捜狐』は「このようなことが起きるのは本当に恥ずかしい。選手たちは栄光を勝ち取るために最善を尽くしているのに、ファンが同胞を傷つけるのは本当に不可解だ」と批判した。他メディアでも同様のことを述べ、批判しているが、中国人のSNSの中にも冷静な意見があった。それは以下のコメントだ。

「中国はとにかく人口が多い。このような分別のない、恥知らずの人間も、この国にはいる。このような素質(マナー、民度の意味)の低い人間は上辺の虚栄心だけで、ただ他人を批判するだけ。とても残念なことだ」

中国は男女ともに卓球が強い卓球王国であり「勝って当たり前」というプレッシャーを背負いながら、選手たちは戦った。そこに水をさす行為は残念だが、それをまた批判し、冷静で分別のある中国人が多いこともまた事実だ。

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ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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