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米政府、ハンバーガー包み紙などで脱PFASを推進 ダイキンやAGC、一部製品の使用中止を通告

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:イメージマート)

ダイキン工業やAGCなど日系企業を含む大手化学製品メーカーは、米食品医薬品局(FDA)の要請を受け入れ、特定の有機フッ素化合物(PFAS)を含んだ食品包装容器向け製品の米国内での販売を中止した。

米国や欧州では人体に有害なPFASをサプライチェーンから追放する動きが急速に広がっており、この問題をめぐる日本の規制当局との温度差が鮮明になりつつある。

テイクアウト用の紙製容器も

食品安全行政を担当するFDAは2月28日、「PFASを原料とした耐油性の製品が食品の包装容器向けに使用されることは金輪際なくなった」と発表した

包装容器とは具体的には、ハンバーガーの包み紙や電子レンジで調理するタイプのポップコーンの入った袋、テイクアウト用の紙製容器、ペットフード用の袋などを指している。これらには油分や水分が染み出すのを防ぐためにPFASが使われてきた。

PFASは1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物の総称で、調理器具から半導体まで幅広い用途がある。

しかし、発がん性のほか、免疫機能の低下や脂質異常、胎児の発育不全などを引き起こす恐れがあることから、欧米を中心に規制強化や使用禁止の動きが広がっている。米国では製造元を相手取り巨額の損害賠償を求める訴訟も相次いでいる。

最新の研究で有害の可能性が明らかに

ハンバーガーの包み紙などにはもともとPFASの一種であるPFOAやPFOSが使われてきた。しかし、それらが「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)で製造や使用が原則禁止になるなどしたため、比較的安全とみなされ規制の対象外だった「6:2 FTOH」が代わりに使われるようになった。

ところが、最新の研究で6:2 FTOHが食品包装容器に使われた場合、食べ物に移行して体内に取り込まれ、残留する可能性があることが動物実験で明らかになった。

FDAは2020年、6:2 FTOHの毒性に関してはまだわからない部分が多いとしながらも、国民の健康を守ることを最優先し、化学製品メーカーに対して2023年までに6:2 FTOHを使用しない製品に切り替えるよう要請した。欧州連合(EU)の食品安全行政でよくみられる「予防原則」を取り入れた形だ。

「消費者を守るための重要な一歩」

一部メーカーはすでに自発的に使用を止めていたが、ダイキン・アメリカAGCケミカルズ・アメリカ、アークロマ・マネジメントなどはFDAの要請を受けて2021年から切り替えに向けた取り組みを開始。今年1月、FDAに使用を中止したことを伝えた。また、数社が6:2 FTOH以外のPFASの使用も中止したと伝えた。

ジム・ジョーンズFDA副長官は「今回の成果は、食べ物に混入して人に悪影響を与える恐れのある化学物質から消費者を守るための重要な一歩にほかならない」と強調するとともに、「FDAのリーダーシップと業界の協力なしには起こり得なかった」と述べた。

CNNテレビの報道によると、自治体レベルではすでに12の州が食品包装容器へのPFASの使用禁止や使用制限に向けて動いている。

また、包装容器だけでなく様々な身の回り品へのPFASの使用を禁止する州法が昨年、ミネソタ州やメーン州で成立するなど、米国では脱PFASの動きが加速している。バイデン大統領もPFASの規制強化に積極的だ。

欧州も同様で、EUは現在、すべてのPFASを原則禁止する方向で議論を進めている。

日本は動き見られず

日本は、EUが全面禁止に踏み切ると輸出が大打撃を受けるとの懸念から各メーカーが個別に代替品の開発を急いでいるが、欧米のように国民の健康を最優先し、国内での使用を大幅に規制しようという政治や行政の具体的な動きは今のところ見られない。

農薬や化学物質などのリスク評価を行う内閣府の食品安全委員会は1月26日、PFASに関する初めての「健康影響評価案」まとめた。健康影響評価は国が当該物質を規制する際の科学的根拠となる。

だが、欧米の評価機関と比べるとPFASの危険性を過小評価するような印象を強く抱かせる内容となったことから、汚染地域の住民らから規制強化は見送られるのではないかと懸念する声が出ている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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