残暑と8月の反動が足を引っ張る。物価高への懸念続く…2024年9月景気ウォッチャー調査
現状は下落、先行きも下落
内閣府は2024年10月8日付で2024年9月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落となる47.8を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で下落して49.7となり、基準値の50.0を下回る状態に。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。
2024年9月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス1.2の47.8。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「よくなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは47.6。
→詳細項目は「小売関連」「サービス関連」「住宅関連」「非製造業」で下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でプラス2.0ポイントの50.3。
→原数値では「ややよくなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「変わらない」「やや悪くなる」が減少。原数値DIは49.2。
→詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「住宅関連」「非製造業」が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「製造業」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年9月では8月に生じた自然災害への備え特需の反動や、高気温による季節物商品の売上が振るわず、物価高騰による節約志向の高まりもあり、前月比ではマイナスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年9月では現状判断同様に商品価格の値上げへの不安がマイナス要素としてあり、特にお米の価格上昇をきっかけとした節約志向の高まりで、前月比では下落した。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに円安で悪影響を受ける企業も多いが、人流増加のプラス影響は力強い。しかし前回月で生じた自然災害への備えに対する特需の反動があり、高気温の影響で秋物商品が伸びず、今回月では多くの部門で前月比プラスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」のみ。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」。物価上昇、具体的には電気料金の値上げや、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争、さらには円安が足を引っ張っている。今回月では特にお米の高騰が影響し、多くの項目で前月比マイナスを示している。
人流増加の流れと、物価高と
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・商品単価が上がっているなか、来客数は100%前後を維持しており、単価が上がった分だけ売上にしっかり跳ね返ってきている(コンビニ)。
・国内観光客が好調をキープしていることもあって、8月以降、来客数が高止まりしている。連休中の入込も好調に推移した。インバウンド需要が増加していることもプラスである(高級レストラン)。
・前月は地震や台風といった災害への準備として、食品を中心に大きく売上が伸びた。今月は動きがやや落ち着いたことから、再び買い控えがみられ、販売点数も伸び悩んでいる(スーパー)。
・気温の高い日が続いており、秋物商材の売上が振るわない。物価高騰による節約志向の高まりもみられる(衣料品専門店)。
■先行き
・酷暑から若干涼しくなることで、生活必需品の購入で外出するようになり、現状よりもやや良くなると考えている(商店街)。
・賃金が上昇するなど、物価の上昇を吸収するだけの環境がある(スーパー)。
・10月からの商品値上げにより消費の鈍化が見込まれ、来客数の回復はますます望めない(コンビニ)。
・米の値段が3割から4割ほど上がっており、主食がこれほど値上がりすると、なお一層財布のひもは固くなる。この状況では購買意欲が上がるはずもなく、社会のムードもあまりよくない(商店街)。
8月では南海トラフ地震臨時情報が消費の観点ではプラスとなり、その恩恵を受けた話が目にとまった。その分、9月では反動のために買いひかえられても仕方がない。また秋の厳しい残暑を受けて、マイナスの声も聞かれる。さらにお米の価格が急騰したことで、消費者の財布のひもが締まるとの話があるが、購入して自宅で炊飯するためのお米の消費量は減少の最中で、外食や中食としてのお米はほぼ今まで通り確保できていたことから、社会のムード云々との話に首をかしげる人もいるかもしれない。
企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。
■現状
・商品の販売価格の改正と賃上げが共に進んでいる(繊維工業)。
・契約後の建設資材価格の上昇や、納期の不安定化が続いている。また、技能労務者の不足もあり、厳しい状況に変化はない(建設業)。
■先行き
・AI関連製品の受注拡大が見込まれ、今後徐々に我々の景気に直接的な影響を与えることになると予想している(電気機械器具製造業)。
・この頃は商材の動きが鈍っている。継続した値上げが響いているのではないか。この先がやや不安である(窯業・土石製品製造業)。
商品価格の引き上げとともに賃上げを実施しているとの頼もしい声が見受けられる。一方で原材料費の高騰が企業側の頭を痛めている。「継続した値上げが響いているのではないか」との声も聞こえる。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・企業の求人数は微増傾向であるが、既出の求人数が充足しないまま、新規求人数が積み上がっている。求職者数は一定数いるものの、マッチングが難しく、充足できていない企業が増加している(求人情報誌)。
■先行き
・製造業については受注は順調で、求人募集をしている。若年者を雇用、育成したいが、若年者の応募者が少ないという話をよく聞く(職業安定所)。
「マッチングが難しい」とはよく聞く話ではあるが、すれ違いを見せているのは技能だろうか、就業形態だろうか、それとも給与だろうか。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、むしろ増加の傾向にあると表現してもよいのが実情。後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。すでに世の中は「そうなってしまっている」にもかかわらず、その現実を認めたくない人が多すぎるのが実情ともいえる。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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