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ネリ来日近し。「日本人に謝りたかったわけではない。謝りたかったのはヤマナカだけだ」

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
トレーナーとのミット打ちに励むネリ(写真:サンフェル・ボクシング)

日本人の90パーセントは計量失敗を期待している

 5月6日、東京ドームでスーパーバンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)とのビッグマッチを控えた挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)。以前、ネリの陣営に確認したところ、キャンプ地の米国テキサス州エルパソから日本へ出発するのは19日か20日という話だったから近々、彼は4度目の日本の土を踏むことになる。来日間近の“パンテラ”(豹の意味)ネリを彼のプロモーター「サンフェル・ボクシング」が現地でキャッチ。そのもようをフェイスブックで発信した。

 昨年12月下旬から始動したというネリはコンディションの良さをアピールすると同時に不気味な静けさを漂わせる。ネリ自身も「俺は沈黙の中で練習に没頭している。しゃべるのはリングの中だ」、「トレーニングの成果はリングで発揮されるだろう」と調整の充実ぶりを強調する。エルパソのジムには自身と井上の顔が大きく描かれ、対決ムードの高まりを感じさせる。

 とりわけネリが最重要課題と位置づけるのがウエート管理。そして、こうウソぶく。

 「日本人の90パーセントが計量で俺が失敗することを望んでいる」

エルパソのジムには井上と自身の顔が描かれた(写真:サンフェル・ボクシング)
エルパソのジムには井上と自身の顔が描かれた(写真:サンフェル・ボクシング)

 井上のプロモーター、大橋ジム大橋秀行会長が発表したように、ネリは1グラムでも体重オーバーすればリングに上がれない。だからネリが再度、失態をさらすことは考えにくく、そんなことは絶対に起こってほしくないが、ネリはそう言って自身を奮い立たせている。そして「まず計量をクリアすることが一番。続けてビッグサプライズを起こす」とクールに言い放つ。

ドーピングは完全にクリーンだった……

 試合の成立に尽力したという理由でサンフェル・ボクシング社長、フェルナンド・ベルトラン・プロモーターに感謝の意を表したネリは「いつか日本へ戻れると考えていたし期待していた。実際(発表会見で)戻れた。その席で俺は謝罪した」と発表会見で見せた殊勝な対応に関して触れた。しかし次に発した言葉でネリはやっぱりネリだと思い知らされた。

 「俺は謝らなければならなかったからそうした。でも日本のファンに対して謝罪したわけではないよ。体重をつくれなかったからヤマナカ(元WBC世界バンタム級王者)だけに謝りたかった」

 山中慎介との第2戦で大幅にリミットオーバーだったことに頭を下げるネリだが、もう一つのスキャンダル、ドーピング違反については「完ぺきにクリーンだった」と無実を主張。「問題が大きくなったのは事実だけど、俺が犯した罪は体重超過だけ。その理由をいくつかのインタビューで説明したし、出場停止処分も受けた。すべてはもう過去の出来事だ。だから今、ウエート管理に集中して取り組んでいる。繰り返すけど、起こったことは変更が利かない。でもまったく異なったルイス・ネリを披露できると信じている」と力説する。

フィジカルトレーナーとストレッチを行う(写真:サンフェル・ボクシング)
フィジカルトレーナーとストレッチを行う(写真:サンフェル・ボクシング)

俺が出場するから満員になる!

 だんだん調子に乗ってくるネリ。インタビュアーが“身内”にしても、井上や日本人ファンが聞いたらムッとするようなことを平気で言う。

 「全部の日本人とアメリカ人はチケットを売るためにメキシコ人ボクサーを必要としている。俺は“その”メキシコ人だ。イノウエが熱望する巨大なイベントはフルトンやタパレスでは実現できなかった。俺を待っていたんだ。東京ドームのような会場を満員にできる俺を。俺は日本へ遊びに行くのではなく、俺は試合をしに行き、勝ちに行く。東京ドームで1990年にマイク・タイソンが初黒星を喫した。今回、もう一人のモンスターが誰も予想していなかった初の敗北を喫する。そんな予感がしないか?」

 本場米国でもスーパーミドル級4団体統一王者サウル“カネロ”アルバレスをはじめ、井上vs.ネリの2日前にカネロに挑戦するハイメ・ムンギア、アグレッシブなスタイルで人気急上昇中のWBA世界スーパーライト級王者“ピットブル”イサック・クルスなどメキシカンは興行収益を上げる上で欠かせない存在となっている。自身も好戦的なスタイルを売り物にするネリはイベントの盛り上がりに大きく貢献していると吹聴して止まない。

入念なサンドバッグ打ちで備える(写真:サンフェル・ボクシング)
入念なサンドバッグ打ちで備える(写真:サンフェル・ボクシング)

俺の勝利を期待するのは10パーセント

 さらに比類なきチャンピオン(4団体統一王者)という大目標に奮い立つ。「達成すれば2人目のメキシコ人になる」と。ただムンギアがカネロに勝つと、3人目となる。そしてムンギアは同じティファナの同郷人。「ほぼ同時達成で歴史的な出来事になる」といっそうモチベーションを高める。

 そして「イノウエをリスペクトしているか?」と聞かれたネリは「ヤマナカとの第1戦から彼のことをリスペクトしていたし、どんな対戦相手にしてもそれは変わらない。でもリング上では下品に振る舞うよ」と言って大笑いした。

 最後にこう、つけ加えた。「たとえメキシコ人の10から15パーセントしか俺の勝利を信じていないかもしれなくても、彼らに心から感謝したい。約4ヵ月のトレーニングの結果を発揮してメキシコに巨大な勝利をもたらしたい」

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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