米金融政策のタカ派評価は、ドル高再開につながるのか
欧州中央銀行(ECB)、そして日本銀行の金融政策正常化を巡る思惑から1月の外国為替市場ではユーロ高と円高が進行し、米長期金利が急ピッチに上昇したものの、ドルは相対的に弱含む展開になった。米金利上昇に伴うドル高圧力は分かりやすいテーマだったが、米金融政策よりも日欧の金融政策見通しの変化度の方が大きくなる中、投機筋はユーロ買いと円買いに劇的ともいえる資金変動を行い、相対的にドルは押し下げられる展開になった。
一方、前週は1月30~31日に米連邦公開市場委員会(FOMC)、2月2日に1月米雇用統計発表と二つの大きなイベントを迎えたが、ここで漸く米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策環境にも関心をシフトさせる動きが見られ、足元ではドル安圧力が一服している。ドル/円相場の場合だと、年初の1ドル=112.65円に対して1月26日には昨年9月11日以来の円高・ドル安水準となる108.27円を付けていたが、足元では110円水準までのリバウンドを見せている。
1月のFOMCでは年内のインフレ環境改善見通しを示すと同時に、「経済情勢はさらなる緩やかなFF金利引き上げを正当化する形で進展すると予測する」として、パウエル次期FRB議長の下でも着実な利上げ政策が展開される可能性を強く示唆した。イエレンFRB議長の下では最後のFOMCとあって無風通過も広く予想されていたが、昨年12月時点の声明文にはなかった「さらなる(further)」の文言を付け加えたことで、2018年の利上げサイクルは本物だとの評価が急速に広がっている。
各種インフレ指標をみてみると、総じて昨年9月以降にインフレ低下圧力が上昇圧力に転換していたことが確認されており、その意味では現状追認に過ぎないとも言える。ただ、今年のインフレ上昇と期限を区切ってインフレ環境の改善見通しを示したことにはサプライズ感もあり、日欧に続いて米国の金融政策見通しも修正を迫られている。具体的には、パウエル新議長の下での最初のFOMCとなる3月利上げがほぼ規定路線となり、2018年中の利上げ回数に関しては、3回は堅く場合によっては4回もあり得るとの評価に変わっている。
昨年12月のFOMC時点で、当局者のコンセンサスとして3回の利上げ見通しが示されていたため、米金融政策要因のみで断続的な金利上昇が可能かは不確実性も強い。ただ、インフレ環境の改善が本物であり、かつ、大型減税などの影響で逆にインフレが過熱した状態になるのであれば、最終的な利上げの終着点を引き上げていくことも可能になる。現在、フェデラル・ファンド(FF)金利誘導目標が1.25~1.50%に対して、昨年12月時点では18年2.1%、19年2.7%、20年3.0%、長期2.8%といった数値が示されていたが、仮に20年に入っても現在と同ペースの利上げ、もしくは18~19年中の利上げ加速が可能になるのであれば、米長期金利は現在の2.8%台中盤からいち早く3%台に乗せていくシナリオも浮上する。3月20~21日の次回FOMCにかけては米金利上昇圧力が継続し易い環境になっており、これまでの「米金利低下+ドル安」が「米金利上昇+ドル高」に転換する可能性も浮上している。
もっとも、ここにきて注目が高まっている米金融政策見通しの変化を促している背景は、経済活動の過熱化に伴うインフレ圧力の顕在化というグローバルなテーマが存在しており、その影響は米国に限らず欧州や日本に対しても及ぶことになる。こうした観点からは、今後もECBや日銀の政策調整を巡る議論も、FRBの政策見通しの変化を巡る議論と同様に活発化することになり、米金利上昇に伴うドル高圧力が一方的な相場展開になる可能性は低そうだ。特に、ECB当局者からは資産購入の早期停止を織り込むことをマーケットに要求するようなアナウンスメントが目立っており、膨張したユーロ買い(ドル売り)の投機ポジションに本格調整を迫るのは難しそうだ。
それと比較すると、日銀は緩和縮小に議論に対して未だ及び腰だが、1月の会合では複数の委員が緩和策の見直しに言及したことが確認されており、黒田総裁の「(緩和縮小は)検討局面にはない」との発言と距離を置くメンバーも増えている。円高圧力にも本格的な修正を迫るのは難しい状況にある中、米金融政策のタカ派姿勢にマーケットの評価が集まっているものの、米金利上昇とドル高の共存環境を作り出すことは、簡単なことではないのかもしれない。