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攻める。武器を背負う。日本協会・清宮克幸副会長の描くビジョン【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
「攻める」を強調(著者撮影)

 6月29日に就任した日本ラグビー協会の清宮克幸副会長が7月1日、都内で取材に応じた。国内リーグのプロ化を示唆し、懸念される国際交渉や代表強化についても話した。

 

 早稲田大学、サントリー、ヤマハの監督として名将と謳われてきた清宮副会長は、同協会の大幅な体制刷新に伴い現職に就いた。新体制下では、国内リーグの改革が期待される。

 その他検討すべき課題についても、見解が求められていた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「おはようございます! 先週土曜の理事会後に皆さんとお話ができればよかったのですが、ワールドカップを盛り上げるイベントに参加していましたので、きょうになりました。改めまして、清宮です。よろしくお願いします。

 いまの自分に求められること、自分にできること、自分にしかできないことをしっかり受け止めて、日本のラグビーの未来を作っていける仕事をしたいと思っています。

 よく、ノブレス・オブリージュ(身分の高さに応じて果たすべき社会的責任)という言葉が使われますが、この1か月で私に新しいノブレス・オブリージュができたと思っています。この1か月、嵐のように色んな出来事がありました。私の使命だと思って頑張ります」

――打診を受けた経緯。

「自分からやらせろと言ってできる話ではないので、自分に期待する働きをシゲさん(森重隆新会長)から口説かれました。きっと僕にしかできないと、快諾をしました。

 ずっとこういう話については、皆さんも僕にしてきたと思うんです。『清宮さん、(日本協会の要職を)やってよ』とか。そういう類のものには、完全に否定してきていました。それは私の仕事ではない、と。ただこの1か月は、それを全て変えてしまう時間だった。高校野球の応援にも、プロ野球の応援にも行かなきゃいけないんですけど、しっかりここで、日本のラグビーの未来を作っていきたいです」

――トップリーグ改革が期待されているようですが、何に着手しますか。

「日本ラグビーの全体を考えないといけないと思うんですけど、攻めるべきものは攻め、守るべきものは守るというバランスです。守るべきものを守るには、先に攻めないとだめ。この攻める部分で、僕がリーダーになっていきたいと思っています。

 しっかり攻めて何かを得ればそれが次の守るものに活かされるだろう、なんて、抽象的ですけど、そんな感じですね」

――攻めるべき点とは。

「攻めるべきは、いまないものを獲りに行くこと。守るべきものは守られるべきものがいま守られていない現実。そういったところじゃないですか。

 もう少し簡単に言うと、上からけん引していかないといけないということですね。もちろん下からの活動も大事なのですけど」

――次のトップリーグのフォーマットの方向性が示されているが、実際どうなってゆくのか。

「いまあるものに関してはしっかり粛々と準備を進めていくんじゃないでしょうか。決まっていることはやっていく。新しいことがもしできれば、それができた段階で調整していくということじゃないですか。

 これは僕にとってもチャレンジですし、僕が思い描いていることがもしできなかったとしても既定路線がある。守りながら攻めるということでいうと、ありかなと思います」

――もう少し具体的に…。

「いまないものを作れるかどうかのチャレンジをするというのが、正確な言い方だと思います。時間軸が僕のなかでは決まっていて、ワールドカップが終わるくらいまでの約5か月で、皆さんに提示できるものが作れるかどうか。それにチャレンジする期間が、4~5か月です。それがラグビー協会のやろうとしていることということではなく、僕に与えられたミッションということで、可能性を追求していくことです」

――「ないものを作る」とは、ラグビーのプロ化か。

「それもそのうちのひとつですね」

――森会長からの打診を受け、「僕にしかできない」と感じたのは。

「皆さんもラグビー協会の懐具合は理解していると思うんですけど、競技を発展させるならお金を稼がなきゃいけない。どうやって金銭的部分でいままでにないものを作れるかだと思います。

 …ただね、これ以上の中身に関してはこれから作るもので、これ以上のことは発表できないですね。いま思っていることが明日変わるかもしれないし。ただ、いま言えることは、今月末ぐらいに僕の第1回の旗揚げと言いますか、そういったイベント、ではないな。シンポジウム? ちょっと、そういった形のものを計画しています。観衆の前で日本ラグビーの未来を語り合う場を設けようと思っていて、第1セッションとしては、そこまでの間にどういう絵を描けるかというチャレンジをしています。7月28日の日曜です。27日が日本代表対フィジー代表戦なので」

――清宮さんが思い描く日本ラグビー未来像とは。

「『面白そうだな、これ!』っていうやつです。『こんな風になるの?』って。ラグビーのワールドカップがおこなわれるまでの間にどのように変化するか。それはたぶん皆さんも『(大会での盛り上がりは)これくらいだろう』と想像すると思いますが、僕にも想像がつかない。ただ、それを次にどう活かすか(という視点での準備)はいましかできない。ワールドカップが『これ』くらい盛り上がって、何倍もの価値を生み出した時に、僕が『こんな話があるんです』と話せるために頑張る。そんな感じです」

――普及育成について。

「1から100まで全てをコントロールできないので、まず、僕は攻めてから。普及育成については協会のなかでもしっかりやっていらっしゃる方はいらっしゃいます。僕も日本協会の組織図を見させてもらって、『こんなことをやっていたのか!』と思うところもあります。そういった方々の苦労、努力…。プラスに向かうアドバイスはするかもしれませんけど、いま僕が担当しているところではないです」

――森会長との業務分担。

「…二人三脚。皆さんも接してよくわかったと思いますが、明るくて、一緒にいてこの親父を支えてあげようというタイプの方なので、しっかりお支えしていきたいと思います」

――男子15人制の強化委員長はどうするか。

「日本代表と連動したものが望ましい。いま日本代表の強化担当理事の藤井(雄一郎・現強化副委員長)が見ることになるでしょうね。

 上から下まで一本の筋を通すというか、そういう形になると思います。彼もアイデアマンで、攻めるか守るかで言うと攻めるタイプ。これから面白い提案が出るんじゃないですか。まだ理事の職務の発表は、していないですよね? 僕は、そう思っていますけど。

 おそらく、岩渕(健輔専務理事)、藤井、私、あとは渡瀬(裕司)さんが、新しい日本ラグビーの中核を担うメンバーになっていくと思います。次の理事会以降なのですが。相当、若返る組織になると思います」

※理事たちの業務分担は7月17日の定例理事会で正式に決まる。

――2020年限りでスーパーラグビーから除外されるサンウルブズについて。

「新しい価値は、私にもわかります。サンウルブズは、弱かった、赤字だったとか、そういう言い方を僕はしたくない。全て一体として考えるべき。新しい価値を作ったのは事実なので、そのあたりはしっかりとした大岡裁き…古いな、そういうものを作っていけたらいいです」

――統括団体サンザーなど海外との交渉は、早めに行うべきとの見方もあります。

「理事会では皆さんに発表できるレベルの…(話のみが出る)。ただ、僕らに時間がないのは認識しています。岩渕が海外との交渉を担当して、やるべきこと(交渉など)はしっかりやっている」

――では、もう交渉に動いていると見ていいですか。

「ただ、何もない状態で(先方へ)新しい提案はできない。このワールドカップが終わるまでの時間で、僕たちがどういう武器(相手へ与えられるメリットなど)を背負えるかにかかってくると思います。武器を持たずに戦いに行くことはない。岩渕が頭を下げに行ったって何かが変わるわけではないですし」

――バスケットボールで集客が増えた背景には、サッカー界の川淵三郎さんの影響が大きかったとされる。今後、外部識者の登用はあるのですか。

「それは理事を見ればわかるんじゃないですか。川淵さんを後ろで支えた境田正樹さん(プロバスケットボールのBリーグ創設に携わった)には、私の要請で理事に就任していただきましたし。何よりも力強いパートナーです。

 谷口真由美さん(清宮氏が代表理事を務めるアザレア・スポーツクラブの広報担当理事を務める)はもともと関西協会から支持されて理事になりましたが、彼女もイノベーション担当ということで、私、境田さん、谷口さんとイノベーションします。そういう意味で、『外部の…』という質問に対しては、僕の後ろに境田さんと谷口さんをつけて出ていくよ、というイメージですね」

――現在のトップリーグの集客力を踏まえ、プロ化を検討する際の課題はどこにあると考えるか。

「いまのトップリーグをプロ化するとは思っていないので。いくつもの道筋があると思います。間違いなく言えることは、戦いに行くのに武器も持たずに行かないのではないですか。そこをこの4か月で作っていくということです。それにはラグビーのワールドカップももちろんプラスでしょうし、あるいは僕が色んな識者たちと一緒に作り上げてゆくものに『それ、面白い!』と言ってくれるパートナーがどれくらい出てくるか。そんな感じでしょうね」

――まったく新しい枠組みを作るイメージですか。

「そうですね。ただそれは、僕がチャレンジをするということなので。チャレンジをした形ができたうえで理事の方、いままで日本ラグビーを支えた皆様に問うというか。誤解をしていただきたくないのは、僕はそのチャレンジをしに来ていると。『日本ラグビーがそう(この日の発言通りに)なる』というわけではない。そこは押さえていただきたいですね」

――比較的、多くの権限が与えられそうです。独走して物事を進めたいこともあろうかと思われますが、どのくらい協会内で情報を共有してゆくのでしょうか。

「例えば、この話の結末について言うと、従来なら色々なステークホルダーに説明をして、了解を取ったうえでの発言をするところですが、今回はそんな時間もないので、『こんな絵が描けそうなんだけどどうだろう』というやり方をすると思います。『初めて聞いたよ』というラグビー協会の仲間も出てくる可能性はあります」

――「武器を携えてゆく」。サンウルブズで言えば、ただサンザーに「復帰させてくれ」というだけでなく、新たな価値を提案するイメージですか。

「まぁ色々あるでしょうね。何かあったら教えてください」

――代表理事を務めるアザレア・スポーツクラブについて。

「向こうはもう船は出ているので、できるところのサポートはやりますし。優秀な人間は向こうにもいますのでね」

――その他、いま引き受けている仕事について。

「すでに僕が受けている仕事はたくさんありますが、そこを変える(辞任する)のは色んな人に迷惑がかかるので、(協会の仕事は)合間、合間を縫いながらの業務になると思います。ただ僕の話している内容を形にするためのプロジェクトチームを立ち上げます。10名前後になると思いますが。可視化と言えば、そこにどんなメンバーが入るかはオープンにするでしょうね」

――それは協会公式のチームになるのですか。

「公式でしょうね」

――そのプロジェクトチームでは、フルタイムスタッフも必要にならないですか。

「一緒にやっていただくパートナーたちは『それは面白い! ウチから何人出す!』という人的サポートをしていただく話も出ています。そういう形になるでしょうね」

――トップリーグの予定されるシーズンは変えずにいくのですか。国際リーグに参加するとしたら、シーズンのストラクチャー構成に大きな影響を及ぼすような。

「どういう絵になるか次第でしょうね。A、B、Cと色々あると思います。未来がどんな色になるか、大局を見て答えを決めていくと思います。いまどうですかと言われたら、決まっていない、しかないですね」

――日本代表へのエールは。

「おいしいもの食べに行かなきゃと。日本代表が力を出すのに一番やりやすいという部分でも、本音で語れるという部分でも、僕はそういう窓口の担当になるわけじゃないですが、いい間に入る役目はできるかなと」

――大会の盛り上がりに向けては。

「各自治体の努力は皆さんより僕が詳しいくらい。色んな開催都市から応援依頼が来ていますし、私もできる限り参加しようと思って動いています。これまで各自治体が積み上げたもの、これから準備、計画していくものを皆さんが拾い集め、もっとPRできたら『こんなことやってたんだ!』というニュースって、たくさん作れる。実は結構、いろいろやっています。是非、広めてください」

――それらの事象をメディア向けに伝え広めてもらえれば。

「そういうところがあるんですよね。そういったことを、組織委員会(ラグビーワールドカップ2019組織委員会)がやってくれればいいんですよね」

――組織委員会と日本協会との連携度合いは。

「色々と教えてください」

――大会PRのための発信力はもっと高められると。

「それを組織委員会がやるのか、協会がやるのかという話はありますが、例えば僕が関わってきた静岡でいうと、チケットが欲しい人はたくさんいるんですよ、目の前に。実際、会場に100人、200人いて、『観たい人?』と聞いたら皆手を挙げる。ただ静岡(で開催される試合)のチケットは現状、が余っているんですよ。余っているんだけど、手に入らない。そういうところはありますよね。観たい人と連携が取れたらいいと思います」

――ワールドカップ後の日本代表の指導体制をどう作るかについて。指揮官の続投か否かなどを決めるのは大会前か、大会の結果を受けてかか、どちらが妥当ですか。

「結果を見ず(が出る前)に決めるべきだと思います。結果を見て次の人を探すとなると、2年間ほど空白が生まれるので。僕はジェイミー・ジョセフをそのまま継続すべきだと考えますけど」

――理由は。

「理由…。タイガー・ウッズの復活(一時スキャンダルで非難され今年マスターズで優勝)を見て、スポーツって、こういう人の心を動かすんだと思わなかったですか? 日本でこんなこと起きるかな、という感覚を持ったんです。アメリカが素晴らしいとかそういうことを言うつもりはないのですが、過ちを犯した彼がチャレンジし続け、それを応援し続けた人がいて、そしてああいう優勝という感動を。あの流れでラグビーを考えると、ワールドカップは優勝しても失敗しても、どちらの結果が出ても次に繋がるストーリーを用意しておかないと…。そんなことを、思ったんですよね。レジリエンスって、言うんですか? そういう言葉はこれからのスポーツ、これからの社会に必要なのかなと思っています」

 混とんとした状況をシンプルな言葉で表現するのに長けた清宮副会長。国内リーグの改革案をファンにシンポジウム形式で提示すると予告し、日本代表の体制維持を支持する理由に「ストーリー」という文脈を用いた。今後の動向も注目される。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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