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ペリオスチンが鍵?最新研究が示すアトピー性皮膚炎のメカニズム

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎研究の新展開:ペリオスチンの役割】

アトピー性皮膚炎は、多くの人々を悩ませる慢性的な皮膚疾患です。最近の研究により、この疾患のメカニズムについて新たな発見がありました。特に注目されているのが「ペリオスチン」というタンパク質です。

ペリオスチンは、アトピー性皮膚炎の重症度と密接に関連していることがわかっています。血清中のペリオスチン濃度が高いほど、症状が重くなる傾向があるのです。

この発見は、アトピー性皮膚炎の診断や治療に新たな可能性をもたらす可能性があります。例えば、血液検査でペリオスチンの濃度を測定することで、症状の重症度を客観的に評価できるかもしれません。

【T細胞-線維芽細胞-表皮細胞の相互作用:アトピー性皮膚炎のメカニズム解明】

最新の研究では、アトピー性皮膚炎における細胞間のコミュニケーションについて、興味深い発見がありました。特に、T細胞、線維芽細胞、表皮細胞の3つの細胞タイプの相互作用が注目されています。

この相互作用は、以下のような流れで起こると考えられています:

1. T細胞がIL-4やIL-13というサイトカイン(細胞間の情報伝達物質)を分泌します。

2. これらのサイトカインが線維芽細胞を刺激し、ペリオスチンの産生を促します。

3. 産生されたペリオスチンが表皮細胞上のインテグリン受容体と結合します。

4. この結合が引き金となり、表皮細胞が炎症を促進するサイトカインを分泌します。

5. 分泌されたサイトカインがさらにT細胞の反応を加速させます。

この一連の過程が、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる「悪循環」を形成していると考えられています。

【最新技術が明らかにする皮膚細胞の多様性】

今回の研究では、最新の単一細胞RNA解析技術を用いて、健康な皮膚、アトピー性皮膚炎の皮膚、乾癬の皮膚を比較しました。この技術により、個々の細胞レベルで遺伝子発現を調べることが可能になりました。

解析の結果、皮膚には17種類の主要な細胞タイプが存在することがわかりました。さらに、アトピー性皮膚炎と乾癬の皮膚では、健康な皮膚と比べて細胞の構成比が大きく異なることが明らかになりました。

例えば、アトピー性皮膚炎の皮膚では、T細胞や樹状細胞、マクロファージなどの免疫細胞の割合が増加していました。これは、アトピー性皮膚炎が免疫系の異常と深く関連していることを示唆しています。

また、線維芽細胞の中にも、アトピー性皮膚炎に特有のサブタイプが存在することがわかりました。これらの細胞は、COL6A5という遺伝子を発現しており、ペリオスチンの産生に関与している可能性があります。

この研究結果は、アトピー性皮膚炎の新たな治療法開発につながる可能性があります。例えば、ペリオスチンの作用を抑制する薬剤や、特定の線維芽細胞サブタイプをターゲットにした治療法の開発が期待されます。

しかし、この研究にはいくつかの限界もあります。例えば、遺伝子発現の解析だけでは、タンパク質の翻訳後修飾や細胞の動的な変化を捉えることができません。また、異なるRNA解析プラットフォームを使用したデータセットを統合しているため、解析結果に影響を与えている可能性も否定できません。

今後は、これらの限界を克服するための追加研究が必要です。例えば、タンパク質レベルでの解析や、時系列での細胞変化の観察などが求められるでしょう。

また、この研究結果を臨床応用するためには、さらなる検証が必要です。例えば、ペリオスチンを標的とした治療法の安全性や有効性を確認するための臨床試験が求められます。

アトピー性皮膚炎に悩む多くの患者さんにとって、この研究は希望の光となるかもしれません。しかし、新たな治療法の開発には時間がかかります。それまでは、現在推奨されている治療法を適切に続けることが大切です。

参考文献:

Tran, N. Q. V., Kobayashi, Y., Nakamura, Y., Ishimaru, K., Izuhara, K., & Nakao, A. (2024). Transcriptomic evidence for T cell-fibroblast-keratinocyte axis via IL-13-periostin-integrin in atopic dermatitis. Allergy, 00, 1-5. https://doi.org/10.1111/all.16352

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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