ウクライナ情勢、新変異株、原材料不足への不安…2022年2月景気ウォッチャー調査
現状は下落、先行きは上昇
内閣府は2022年3月8日付で2022年2月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIは上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、持ち直しに弱さがみられる。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、ワクチン接種の進展などによる持ち直しへの期待がある一方、ウクライナ情勢による影響も含め、コスト上昇などに対する懸念がみられる」と示された。
2022年2月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス0.2ポイントの37.7。
→原数値では「よくなっている」「変わらない」が増加、「ややよくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは36.6。
→詳細項目は「サービス関連」「雇用関連」以外が下落。「飲食関連」のマイナス3.7ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「雇用関連」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でプラス1.9ポイントの44.4。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは46.5。
→詳細項目は「飲食関連」「製造業」「非製造業」が下落。「製造業」のマイナス4.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年1月では新型コロナウイルスのオミクロン変異株が猛威を振るい、新規感染者数は激増を示し、複数の地域でまん延防止等重点措置が発出されるようになったこともあり、人や物の動きは大いに減退。さらにウクライナ情勢の緊迫化が景況感の低迷に拍車をかける形となり、下落を示している。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2022年2月では新型コロナウイルスのオミクロン変異株にかかわる国内外情勢への懸念や、原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足、ウクライナ情勢のさらなる悪化に対する不安はあるが、まん延防止等重点措置の解除や3回目のワクチン接種率の高まりとともに減るであろう新規感染者数減少への期待から、上昇を示している。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2022年2月は新型コロナウイルスのオミクロン変異株の影響によると思われる新規感染者数の大幅増加や、それに伴い複数の地域で発出されたまん延防止等重点措置が継続されており、人や物の動きが減少、さらにウクライナ情勢の緊迫化という実情を反映する形で、全体では前回月比でマイナスを示している。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「雇用関連」のみ。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の猛威への不安は強く、さらに半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰による懸念、そしてウクライナ情勢のさらなる緊迫化・悪化への懸念が足を引っ張る形となっている。
現状の大きな影響、先行きの不透明さ、そして物不足の足かせ
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・大雪により買物に行けないこと、3月からの食料品の値上げが報道されていることなどにより、カップ麺、小麦粉、パスタなどのまとめ買いが増加している(スーパー)。
・前月同様に受注は堅調だが、自動車の生産遅れによる納期の長期化により、今期決算には収益を反映できない見通しとなっている(乗用車販売店)。
・まん延防止等重点措置の期限が延長されたことで、来客数やレジ客数が前年比で約5%減少し、売上も前年並みの推移となっている。ただし、バレンタインフェアは好調で、アクセサリーやチョコレート類は好調に推移するなど、売上の確保につながっている(百貨店)。
・まん延防止等重点措置の適用による自粛要請に伴い、短縮営業および休業などの対応を進めている。売上の柱である法人関連の宴席は皆無となり、個人客のレストラン利用も低調が続いている(高級レストラン)。
■先行き
・3回目のワクチン接種並びに経口治療薬の普及で新型コロナウイルスの新規感染者数や重症患者数が減少し、客の自粛が緩和することを期待する(都市型ホテル)。
・現状が変わるのはまん延防止等重点措置が解除されてからになると思うが、一気に外食が増えるとは考えにくいので、しばらくは厳しい状況が続くと予想される(その他飲食[居酒屋])。
・まん延防止等重点措置が継続中で、新規感染者数も高止まりしており、新型コロナウイルスの感染がいつ終息するのか見込めない(コンビニ)。
・ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格、食料品価格の高止まりは続き、食品の値上がりは継続する。そのため、客の財布のひもが固い状況は続く(スーパー)。
新型コロナウイルス流行の影響が、特にまん延防止等重点措置の発出の点で出ていることがうかがえる。また、気象環境という特殊要因が景況感に影響を与えていることも確認できる。そのため先行きでは、ワクチン接種の浸透による新規感染者数の減少やまん延防止等重点措置の解除への期待も大きいが、ウクライナ情勢という新たなマイナス要因が足を引っ張る形となっている。
企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
■現状
・年始当初より受注量が増加し、年度末を迎えても非常に活発に推移している。特に事務関連機器の設備投資が旺盛である(通信業)。
・原材料価格が値上がりし、ここに来て、フィルム、パック、添加物といった製品原価にかかわる物が全て値上げとなっている。商材自体はまだ値上げができていないので、かなり大変な事態になってきている(食料品製造業)。
■先行き
・客先の生産は現状より増加計画であるため、景気は若干よくなる見込みであるが、半導体の供給不足を懸念している(輸送用機械器具製造業)。
・ロシアのウクライナ侵攻により、燃油価格の更なる高騰が現実的なものになってきた。業界だけを見ても軽油だけではなく車両、タイヤ、オイル、尿素水など運送にかかわる全ての物が値上がりをしている。景気がよくなると予想できる要素はほとんどない(輸送業)。
原材料費の高騰・不足が大きなマイナス要素となり、さらにウクライナ情勢の悪化がそれに拍車をかける形となっている。
雇用関連では興味深い動きが見られる。
■現状
・新規求人数は前年同月比で8.0%増加している。慢性的に人材が不足している建設業、運輸業、小売業、医療・福祉で求人数が増加しているものの、宿泊業、飲食サービス業、娯楽業などは減少している。減少の大きな要因は、まん延防止等重点措置の適用である(職業安定所)。
■先行き
・ITリテラシーが高い営業、人事、マーケティング、品質管理など専門的知識や経験がある人材はどこでも不足しており、ニーズがある。依頼は堅調だが、スキルの見合う求職者は不足しており、成約しにくい(人材派遣会社)。
企業の事業状況が悪ければ人手が足りなくなることは無いのだが、現状では人手不足が生じているようだ。ただし単なる人手ではなく、役立つ人材への需要が高まっているもよう。また人手不足ではない業種もあるようだ。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。さらにウクライナ情勢は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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