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J3から日本サッカーの維新を目指すレノファ山口。戦いぶりはハリルホジッチのメッセージに通じる。

河治良幸スポーツジャーナリスト
イラスト:りおた

創設から2年目をむかえるJ3リーグは第12節を終えた。シーズンの3分の1に差し掛かるところだが、大方の予想を覆す躍進ぶりで首位に立っているのがレノファ山口だ。

昨季のJFLで昇格資格の4位となりJ3に参戦したレノファ山口だが、上野展裕監督に率いられたチームは開幕から5連勝を飾り、第6節では長野パルセイロに初黒星を喫したものの、そこから再び5連勝で快走している。

レノファとは長州藩の志士達が主翼を担った明治維新にちなんだ「renovation(維新)」の「レノ」と「fight(戦う)」や「fine(元気)」の「ファ」を合わせた造語であり、維新百年記念公園陸上競技場をメインのホームスタジアムとしている。

筆者が講演会で山口を訪れ、第8節のFC琉球戦を取材した時に実感したのは監督、選手、サポーターの意識の高さだ。

日本代表のハリルホジッチ監督は代表チームに限らず日本サッカーをあげてのレベルアップを掲げ、様々な形でメッセージを発信しているが、細かい技術面はともかくとして、レノファ山口の特徴の多くが代表指揮官の求めるものに通じているのは注目すべき点だ。

■素早い切り替えが生む“カウンターのカウンター”

現代サッカーのベースとなる要素ではあるが、攻撃から守備、守備から攻撃に切り替わった時のリアクションと連動がJ3では1つ抜けたレベルにあり、セカンドボールを奪ったところからの速攻でゴールを奪うシーンが実に多い。

セカンドボールと言っても、対戦相手がいる以上は簡単にフリーで拾える場面より、ほとんどイーブンでボールを奪い合う場面の方が多い。そこでレノファの選手が素早く、厳しくアプローチして奪い取るシーンが目立つのは普段からそうした意識を持って試合に臨む姿勢を上野監督がトレーニングから植え付けているからだろう。

基本的には中盤の小塚和季と庄司悦大を中心にボールを回してワイドに攻めるスタイルだが、J3はどの相手もプレッシャーが厳しく、奇麗につないでフィニッシュまで行くことはレノファでも容易ではない。

しかし、相手がパスカットあるいはクリアしたセカンドボールを攻撃陣が奪い返すと、周囲の選手が素早くギアを入れ直してゴール前に攻め込むシーンはかなり迫力がある。

逆に相手の攻撃に対して網を張った形でのカウンターはJリーグの中で特筆するほど多くはなく、基本はしっかりボールをつないで攻めることをメインとしながら、セカンドボールからの二次攻撃や”カウンターのカウンター”とも言える前線のボール奪取から積極的にゴールを狙っていく姿勢とビジョンが相手の脅威になっているのだ。

■どこからでも得点を狙える攻撃と競争意識

攻撃陣はシチュエーションによって自分でゴールを狙うのか、味方に取らせるのかを判断していくものだが、レノファ山口はその両面が高いレベルで両立されている。

第12節までの得点者を見ると左MFの島屋八徳が9ゴールで得点王争いの首位を走っているが、CFの岸田和人とセカンドトップの福満隆貴が7得点と、上位3人をレノファの選手が占めている。

さらに右MFの鳥養祐矢とCBの宮城雅史が3得点、ボランチの小塚和季が2得点を記録しており、セットプレーを含む全員攻撃をベースに、どこからでも得点を狙える攻撃意識を裏付けている。

「以前は自分が自分がという気持ちが勝っていたが、レノファでチームプレーを覚えた」と語る岸田の献身的なポストワークが高い効果を発揮しているが、それぞれの選手が自分で行くべきところと味方をサポートするべきところをうまく使い分けている。

第8節で対戦したFC琉球の薩川監督が語った通り、タレント力がJ3の中では1つ高いレベルにあるのは確かだが、競争意識とチームワークが相乗効果を生んでいることは間違いない。

加えて攻撃の時に全員が攻撃に参加し、守備の時に全員が守備に参加するという意識をかなり高いレベルで持っていることも、攻守の厚みをもたらしていることは確かだ。

■J2昇格、さらに上を目指す戦いに向けて

ここまでの戦いぶりは意識とビジョンの視点からJ3のチームとしては賞賛に値するが、2回目の対戦では相手もレノファ山口を研究して挑んでくるし、もともと失うものが無い挑戦者の立ち場が変わり、首位のプレッシャーも出てくる。

第7節では長野パルセイロにロングカウンターとセットプレーで2点を奪われ、守備面での明確な課題が出たが、GWの連戦を終えたところからディフェンスを引き締め、ここまでうまくリスク管理をしている様子だ。

パススピードやそれに伴う精度はJ2、J1の基準に照らし合わせれば劣るが、向上心やプレー環境が育てる部分もある。できれば今年の天皇杯でなるべく勝ち上がり、J2、J1との戦いで通用するものと課題を見極めてほしいものだ。

主力選手はほとんど20〜26歳の選手で占められており、大卒1、2年目の選手も多い。関西トレセンや新潟ユースなど、育成畑で名の知れた上野監督をしたって来た選手もいれば、J3での出場チャンスを期待してきた選手もいるが、概ね伸びしろがありそうだ。

J2に昇格すれば選手の補強も行われるはずだが、選手たちを成長させながら結果と両立させるのが上野監督の哲学だ。J3の試合を通して鍛え抜かれた選手たちがJ2でどこまで戦えるのか、という部分は非常に興味深い。

エースの岸田は「自分はまだまだ伸びると思っているし、J1で常に出場できるぐらいにはなりたい。それがレノファ山口であれば理想です」と語っていた。

本格的なJリーグ参戦を目指し、クラブを株式会社化した2013年の当初は2018年のJ2昇格が目標とされたが、チームの急成長にともない、2年前倒しでのJ2基準のインフラや予算を満たすための準備が急務になってきている。

ハード・ソフトの両面で色々な課題はあるが、上野監督は近未来のJ1昇格を目標として公言している。“維新の地”からレノファ山口が、現在のスタイルを成長させる形で躍進していけば1つの大きなインパクトになることは間違いない。

その道の先はJ1、そして日本代表の輩出へと続いている。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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