夏映画とポケモンGOとオリンピック
6月までは好調だった映画興行
毎年、夏は大作の公開も多く、映画興行にとって書き入れ時である。
関東で梅雨が明けた7月最終週には本格的に暑い夏の到来とともに『シン・ゴジラ』が火を噴くような大ヒットスタートを切った。しかし、映画興行全体では7月に入ってから活況とは言えない状況が続いている。毎週実施している劇場公開映画の浸透度調査において「これから一週間以内に映画館で映画を観る」と答える人の割合を示す、映画鑑賞意向指数の推移を示した以下のグラフからもそのことがわかる。オレンジ線が今年2016年の動き、緑線が2015年である。月の下に表示されているのは2016年の調査日で、2015年の同時期と比較できるようにした。
2016年上半期は、昨年よりも映画鑑賞意向指数が高かった。洋画・邦画、実写・アニメともヒット作が数多く生まれたからである。年明けはまだ『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が公開中で、邦画実写『映画 信長協奏曲(ノブナガコンツェルト)』の興行収入は40億円を超えた。例年興行収入が落ち込む2月にも洋画実写『オデッセイ』がヒットして、同じく40億円近くを記録。さらに、4月下旬から5月にかけて邦画アニメ『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』が60億円を超える大ヒットとなり、ロングランヒットとなった洋画アニメ『ズートピア』も最終興行収入が80億円近くまで伸びた。
7月に入って例年より「涼しい」夏興行、ポケモンGOも影響あり
ところが、7月に入って昨年と比べて劇場鑑賞意向の伸び悩みが目立ってきた。上記の図のグレーのエリアである。
昨年夏の映画興行は、95億円を超える最終興行収入となった『ジュラシック・ワールド』を筆頭に、50億円を超えた『バケモノの子』『ミニオンズ』『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』などヒット作が相次いだ。この夏の動員が映画業界を活気づけ、昨年はここ10年で最高の年間興行収入を記録したのだ。
一方、2016年の映画興行は「涼しい」夏となりそうな見込みである。今後される各作品の浸透度調査に基づいたシミュレーションも踏まえても2015年比で70%ほどにとどまっている。これまでの興行結果の推移も、7月に入って落ち込みが目立つ。
7月の興行収入が少なくなった要因のひとつとして考えられるのが、社会現象となったスマホゲーム「ポケモンGO」だ。映画は「おでかけ消費行動」「時間消費型サービス」で、「ポケモンGO」とその特徴に共通点がある。
実際の数字を見てみよう。通常、個別の映画の週末土日二日間の興行収入は、週を追うごとに、前週比で平均25%減っていく。ポケモンGOがリリースされた7月23日の週末は、上位作品も含めて軒並み前週比50%減少した。最も減少率が低かったのは『ファインディング・ドリー』のマイナス35%。最も熾烈な顧客の取り合いになっただろう『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z ボルケニオンと機巧のマギアナ』は前週からマイナス55.9%と大きく落ち込んだ。
もうひとつの要因として、参議院選挙や都知事選という大規模選挙が続いたことも影響している可能性がある。夏興行の劇場鑑賞意欲が上がりきらない現象と同期するように、7月に入ってからテレビの番組内露出量が減少気味であることがデータからわかっている。
8月は例年興行収入のピーク、オリンピックの影響は
8月5日に開幕し、8月19日まで続くリオデジャネイロオリンピックの存在も、今後の映画興行にとってマイナス要因になりうる。日本選手の活躍という喜ばしい事態は、テレビ番組内での映画の紹介・宣伝の量を押し下げる可能性があるためだ。実際、前回の2012年のロンドンオリンピックの際も、映画宣伝に関するテレビ番組内露出は大きく落ち込んだ。
以下は各年の映画宣伝に関するテレビの露出量につきCMと番組内露出に分けて、総量の週別推移を推計したものである。青線がロンドンオリンピックが開催された2012年、オレンジ線が今年、グレーの線は2011年から2015年の平均値である。
テレビCMは大作公開が集中する8月のお盆の時期にピークを迎える。グラフをみると2012年の映画に関するテレビCMは例年より多めであったが、テレビ番組内露出は大きく落ち込んでいる。2016年も低めで推移していて、今後の日本選手の活躍によってはさらに減少する可能性がある。
大作がそろうお盆到来「熱い夏」になるか
今後のカギになるのは、1年を通じて最も劇場の動員が伸びるお盆の1週間の興行だ。そのタイミングに合わせて、今年も期待作の公開が集中する。昨年夏休みに大ヒットした『ミニオンズ』の製作者による『ペット』やディズニー製作の『ジャングル・ブック』、人気アメコミシリーズ最新作『X-MEN:アポカリプス』に加えて、80年代のヒット作のリメイク『ゴーストバスターズ』の先行公開など、注目度が高い。
上記の通り、2016年夏の映画興行をめぐるこれまでの状況は「冷夏」だ。2014年もお盆前は今年ぐらいの「冷夏」興行の見込みだったが、8月上旬に公開された「STAND BY ME ドラえもん」がロングラン大ヒットすることで、「冷夏」を脱した。こうした公開後大きく伸びるサプライズヒットが登場するかに注目したい。また、今年はテレビによる宣伝よりもデジタルマーケティングに大きく舵を切って大ヒットとなった『デッドプール』の例もある。テレビCMや番組内露出のようなマスメディアだけでなく、ターゲットを絞った丁寧なマーケティングが多くの人の心をとらえることができるか。
夏はその年の映画興行の象徴的なシーズンとなる。ここで大きな動員に成功すれば秋以降から冬にかけての劇場予告編を多くの人に見てもらうこともできる。2016年の映画興行にとってどのようなものになるかは、このお盆休みから夏の終わりにかけての熱次第と言える。