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性犯罪者はなぜ反省できないのか(2):質問に答えて:認知の歪みと更生プログラム

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

性犯罪やいじめ問題などの話題で、私たちはしばしば冷静さを失いがちです。しかし、冷静に議論することは大切です。

■性犯罪者はなぜ反省できないのか:示談と不起訴と社会のあり方

前の記事「性犯罪者はなぜ反省できないのか」は、多くの方に読んでいきました。この記事では、一般に性犯罪者が心から反省することの難しさについて解説しました。

今回は、いくつかの質問疑問にお答えしていきたいと思います。

■不起訴となった人を更生プログラムが必要な性犯罪者と断定していないか

今回の件で私たちが分かるのは、当人が公に謝罪したこと、示談が成立し、不起訴処分となって、釈放されたことです。前の記事でも書いたように、真相は闇の中です。

性犯罪者の更生プログラムについては、その方個人のことではなく、一般論として、性犯罪者には更生プログラムが必要だと書きました。

■有罪とならなければ「犯罪者」でない

たしかに、裁判で有罪にならなければ、犯罪者とは呼べません。逮捕されれば被疑者(容疑者)、裁判になれば被告。逮捕されても起訴されず釈放されれば、一般の市民です。

有罪になって刑務所に入っても、刑期を終えて出所すれば、元犯罪者ではありますが、今は犯罪者扱いされるべきではない市民です。

ただ、たとえば実際に強姦行為が行われたのに、示談等で刑事事件にならなかった場合でも、更生プログラムは受けたほうが良いとは思います。

再犯を防止するのは、誰にとっても必要な事でしょう。

■更生プログラムの費用は誰が支払うのか

有罪になった人が刑務所で更生プログラムを受けるときには、費用は税金です。刑務所外では、民間施設を利用することになるかと思いますが、その場合は、自費です。保険もききません。

再犯防止のために税金を使うのは、有用な使い方だと思います。ただ、様々な理由から刑務所内で更生プログラムを受ける人が少ないのが、問題です。ましてや、自腹を切ってプログラムを受ける人は少数です。

■記事内容が偏っていないか。「更生こそが社会のため」の意識が先行して、被害者がそっちのけではないか

前回の記事は、加害者の更生を中心にしていますので、被害者保護に関してはあまり書いていません。「強姦は魂の犯罪」とか、性犯罪は客観的には小さな犯罪でも、被害者の人生を左右することさえあるほど被害者を傷つけるなど、被害者の心の傷について少しだけ述べただけです。

事件発生時にまず必要案なことは被害者保護であり、犯人逮捕、類似事件の防止となると思います。刑法自体の目的は、市民の権利を守り、社会秩序を維持することで、被害者保護ではありませんから、被害者保護は別の法律や市民の活動が必要だと思います。

次の機会に、また性犯罪被害者保護をテーマに書いてみたいと思います(とても難しいテーマですが)。

■心の中は分からない。不起訴になった芸能人や性犯罪者の認知に歪みがあると決めつけるべきではない

たしかに、心の中はわかりません。不起訴になれば裁判が開かれませんから、記事にも書いたように心の中はもちろん、事実関係もわかりません。

前の記事では、特定個人のことではなく、犯罪心理学で一般に言われている性犯罪者の認知のゆがみについて、書きました。

たとえば、「女性は『嫌だ』と言っても本当はそんなに嫌がっていない」と答えたのは一般男性(対象688人)の2・5%でしたが、性犯罪の容疑者(対象553人)は21・1%。でした。

また、「女性は襲われたいと思っている」「関係を持てば女性は自分のものになる」などの誤った認識を持っている性犯罪の容疑者は、一般男性に比べて7~15倍いました。

性犯罪者の多くは、女性や性犯罪について、様々な認知のゆがみがあるという研究がなされています。

■性犯罪者の更生プログラムに効果はあるのか

性犯罪者への更生プログラムの効果を表す実証的な研究はあります。認知行動療法等を使った性犯罪者更生プログラムによって再犯率が低下したことなどが、報告されています。

性犯罪も、DV加害者なども、その行為を許されては反省も更生もできません。一方、罰を受けるだけでは反省も更生もできない人々も多くいます。

頭ごなしに叱りつけても、形だけの謝罪や反省に終わり、心からの反省と更生にはつながりません。言い訳がうまくなるだけです(岡本茂樹著『反省させると犯罪者になります』) 。そうではなく、彼らの言い分を聞いた上で、彼らの認知の歪みに気づかせ、正しい人間関係スキルを身につけられるようなアプローチが必要です。

■虚偽の訴えでDV加害者や性犯罪者に仕立て上げられることもある

悪意があって陥れる人もいれば、誤解から人違いされることもあるでしょう。性犯罪は、他の犯罪以上に、世間の目が厳しくなります。けれども、冤罪は許されません。DVも、性犯罪も、男性が被害者となることもあります。予断や偏見を持たないことが大切だと思います。警察による慎重な捜査も求められるでしょう。

性犯罪者はなぜ反省できないのか(1)

*不起訴からすでに日数が経っていますので、個人名ならびに関連写真は削除して修正しました。9月16日21:50

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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