韓国で執拗なまでに「富士山噴火説」が多く読まれる理由
韓国で日本はどういう風に関心を持たれているのか。
日々これをウォッチングしているが、1月は「富士山爆発説」が強いインパクトを与えた。
大手ポータルサイト(NAVER、Daum)で日本関連記事がほとんどアクセスランキング上位に入らないなか、「Daum」では1月15日に関連記事がその日の記事全体のデイリーランキング1位となった。
媒体ごとのデイリーランキングを発表しているNAVERでは、10日に「ソウル経済」の「超巨大火山爆発で日本消滅:1億2000万人死亡」がアクセス数で2位を記録。20万2048アクセスを集めた同記事はメインの写真が富士山だった。
関連記事数も多く、1月1から2日にに関連記事が16本、10日から12日に同じく16本、19日から23日の間に23本などが掲載された。
日本でも29日頃に話題となった「佐渡金山世界文化遺産登録」の話題は、はじめてこの話題が韓国で報じられた2021年12月16日以降、じつに1050近い関連記事がアップされているが、両ポータルサイトでアクセス数上位に入るものは見当たらない。
日本のメディア記事を引用した内容が「バズる」
では、韓国側は何をもってこの「爆発説」を報じているのか。
日本の「アエラドット」の報道を引用しているのだ。以下の記事の日付と、韓国で関連記事がアップされるタイミングが一致する。
1月1日 富士山噴火「すでにスタンバイ状態」と京大名誉教授 南海トラフと連動する可能性
昨年12月に山梨県東部に2度地震が起きた。気象庁は「富士山の活動とは無関係と見ている」とするが、専門家の見立ては少し違う、という主旨だ。同媒体は続けてこの関連情報を報じている。
1月9 日【独自】富士山より大規模噴火Xデーの可能性が高い16活火山「マグマだまり、兆候ある」と専門家
1月10日 首都直下型地震より危険値が倍以上高い「超巨大噴火」「1億2千万人が餓死」と専門家試算
富士山は活火山だから、爆発する可能性はある。災害への警戒は必要。これは歴然たる事実だ。
- 該当ニュースを報じる東亜日報系「チャンネルA」
韓国で関心を集める理由その1…「心配」
ではなぜこれが韓国で大きな関心を集めているのか。日本国内での関心度よりも、韓国でより多く取り上げられている感すらある。
ひとつには、韓国に影響が及ぶことを考えてのことだ。1月19日、「イーデイリー」の見出し。
「300年以上静かだった富士山、韓半島(朝鮮半島)を襲うか?」
記事では韓国への影響は「間接的なもの」とし、火山灰が航空機の運航に影響を与える可能性などを指摘している。過去の富士山の噴火時に韓国まで火山灰や噴石が届いた記録が残っていない点が根拠のひとつだ。
Google トレンドで地域を「韓国」に定め、この1ヶ月の「日本」の検索関連ワードを調べたところ、「津波」が関連トピック、キーワードともに1位。「地震」がキーワードで3位だった。
確かに韓国側にはこれを大きく心配する背景はある。
地震が少ないのだ。地理学的には日本は地殻変動の多い「新期造山帯」、朝鮮半島は「安定陸塊」に属する。要は日本の地盤の方が若々しくて、動きが多い。一方、地震の少ない韓国では2016年9月の「慶州地震」が1978年の観測以来最大のマグニチュード5.8、翌2017年11月の「浦項地震」が2位の同5.4。震度でいうと「4」に近い数値だったが、建物の崩壊が相次ぎ、社会に大きなショックを与えた。
そういった違いもあって、日本のイメージとして「火山」「地震」は上位に入ってくる。火山性の温泉である「別府」は90年代後半まで日本の観光地の代名詞と言えるほどに有名だった。おじいちゃん、おばあちゃんが「日本に行ったことがあるの」というと、多くは「別府で温泉に入った」と。
また、今月は太平洋側のトンガで大型の海底噴火があった影響も多いにあるだろう。
ふたつめの理由は「対日観」
もうひとつは「面白がってる」。
今回の件では、はっきり言ってこの雰囲気を感じる。
「ソウル経済」は16日、「日本沈没は現実化? ”お金持ちが日本を捨て始めている」という記事を掲載し、冒頭にこう記した。
「日本では自国の沈没を心配する声が大きくなっている。火山爆発など自然災害により日本が消滅しうるという分析が出ているなか、経済と産業分野でも危機が高まっているという忠告が続いているのだ」
は? 日本国内で「沈没」というフレーズをもって状況を憂う話がどこにあるだろうか。声が大きくなってる? 災害に関しては専門家による情報発信が行われているのだから、もっと多くの関心をもたれてもよいくらいではないか。
経済の問題を、韓国にはあまりない”奇妙な自然現象”である火山に例えて記す。そういう手法が用いられているのだ。この「ソウル経済」では「週刊ダイアモンド」最新号での記事「日本を見捨て始めた富裕層、没落ニッポンを襲う『七重苦』」の内容を紹介している。
- 昨年の年末にも「爆発説」が報じられた
要は好きなのだ。筆者自身、コロナ前までは月1回ペースで渡韓してきたなか、幾度も「富士山爆発説」を見聞きしてきた。
97年9月28日、フランスW杯アジア最終予選の東京での日韓戦で韓国が勝った際には「富士山大爆発」とスポーツ紙にデカデカと見出しが出るのを目にした。自らの自尊心を満たし、相手を貶めるに適した表現なのだ。
その他にも…日本列島の「沈没説」、「日本の天災は天罰説」などなど。最後の「天罰説」に関しては、韓国で50代の男性に言われ、ホントにブチ切れたこともある。
拓殖大学教授の呉善花氏が定義する「侮日」を想起させる現象、と言えば言い過ぎか。
氏は「侮日」を「反日の根底にあるもの」とし、日本統治時代以前からの古い歴史があるものと論じている。それが反日民族主義を生み出した。そこには三つの要素があるといい、そのうちのひとつをこう記している。
「二つには、中華主義思想である。日本は中華世界秩序の周縁に位置する野蛮な夷賊だという、伝統的な世界観である。ここから、韓国が日本を侮辱して見下げるという伝統的な『侮日感』が出てくる」(呉善花「韓国 『反日民族主義』の奈落」2021年文藝春秋 99ページ)
日本に対してなら、言いすぎても大丈夫。そういった考え方でもある。そこに当てはめるならば、今回の話は「大陸から離れた島国は辺境」とし、「地殻が活発に動き、火山爆発や地震、沈没の可能性がある地域は自分たちとは違うから異質」という見方だ。
この文脈に「富士山」は間違いなく登場するものだ。
つい最近、1月にもこんなことがあった。イングランドでプレーする南野拓実が、14日(日本時間)のイングリッシュ・カラバオカップ準決勝第1レグのアーセナル戦にて、試合終了間際の後半45分にシュートを大きく外した際のことをこう記している。
「日本のサッカー選手がシュートミスをした際に冷やかされる『富士山大爆発シュート』、これが思い出されるほどだった」(スターニュース)
日本と韓国たるや、やるときゃ大いにバチバチやればいいと思う。歴史や国際条約の解釈の議論、おおいに結構。しかし韓国内で「火山大爆発」「沈没」といった話を面白がってるなら、それはほどほどにしたらどうですか。今回は「日本側が言っている」という話の引用だから韓国側とすれば都合も良かったか。
※くれぐれも災害へのアラートにはご関心を。日本の専門家が情報発信している点は事実です。