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専門家が教える「婚活がうまくいかない時」に知っておくとうまくいく言葉3選

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

婚活がうまくいかない時はどうすればいいのかというティップスなど、手垢にまみれすぎており、いまさら記事化するのもどうかなと思いましたが、哲学界の大先輩である内田樹氏のご著書に素晴らしいことが書かれてありましたので、今回は婚活がうまくいかないときに知っておくとうまくいく言葉を3つご紹介したいと思います。引用はすべて『困難な結婚』(内田樹/アルテスパブリッシング/ 2016)に依りました。

結婚は「病気ベース・貧乏ベース」で考えるものです。

病気と貧乏の共通点は、自分がなってみなければ、それがどれほどしんどいことなのか分からない点にあります。だからなのか、多くの女性は結婚相手の条件に「安定した高収入」を第1に挙げます。それはなんとなく理解できます。「危機管理」をしたいと思っているのだろうと――。本当は夢追うヤンチャな男に恋しているけれど歯医者の彼氏と結婚しましたとか、そういう報告を受けるたびに、私は「だよね」と思います。

しかし、その危機管理は頭で考えることのできる範囲の危機を管理することを指しています。つまり、言語化できないなんらかを計算に入れていない。

私たちの心の中には、なんらか言語化できないものが宿っており、それこそが私たちの人生を支配していると洞察したのはキルケゴールです。彼の哲学はその後、フロイトやジャック・ラカン(精神分析医かつ哲学者)などに受け継がれます。

年収1000万円の男性がいつ年収200万円に転落するのか誰もわかりません。本人にもわかりません。貧乏は現実的ななんからの「失策」が私たちにもたらすと一般的には考えられていますが、しかし精神分析の権威であるラカンなどは「言語化できない何らか」がいわば勝手に、暴力的に私たちにもたらすと主張します。

病気も同じです。「なぜ私が癌にならなくてはならないのですか?」お医者にそう尋ねる患者がいるといいます。

言語化できない何かをひとりじっと見つめる――そんな婚活の時間も必要ではないでしょうか。

「え、こんなのやだ」とか言っている人は、「こんなの」と釣り合う配偶者だとあなたは外部から評価されているという事実を噛みしめた方がよろしい。

私たちは自分に欠けているものを無意識のうちに脳内で補完して「わりと完全な自分」を「想像」し、それを「自分」と呼んでいます。だから「鏡に映る自分の顔を凝視したら他人みたいに見える」のであり、「思っている以上に猫背」なのであり「思っている以上に歯が黄ばんでいる」のです。つまり自己評価はあてにならないとか、他人の評価のほうが正確だという人口に膾炙した言説は、哲学的に正しいのです。

しかし、それでも安定した高収入男性と結婚したいのなら、先に述べた「言語化できない心の領域」にどのようなものが眠っているのかを洞察しようと努めるほかありません。そこには悪魔的な自分と崇高な自分がいます。その両者とよく相談したうえで自己評価を定めること。

両者とも他人に理解されない存在です。自分でもそれが何なのかよくわからないのだから、他人になどわかるはずがありません。しかし、両者とよく対話することで、あなたが安定した高収入男性にこだわる理由が見えてきます。それは祖父母や父母も巻き込む壮大な物語の一端です。とどのつまり、自分探しとか自分を知るというのは、自分のルーツを知ることなのです。

結婚式の誓いの言葉における「病めるときも貧しいときも」にもう一つ「海外旅行のときも」を加えておきましょう。

思い通りにいかない時、その人がどのようなふるまいをするのかにその人の本質があると内田氏は言います。まさにそのとおりでしょう。

しかし、このことは単なる処世訓に終わりません。思い通りにいかない時の彼のふるまいと、あなたのふるまいは共に、心に宿るなんらか言語化できない存在を浮き彫りにするからです。ふだんは善良な市民のつもりの私(彼)は、思い通りにいかない時、相手を見下す人なのか……。イヤな自分(相手)を見つめることが、心に宿る言語化できない何者かとは何者なのかを知る手がかりになります。

それを知ることが真の自己理解です。

いかがでしょうか。

私のもとには就活や転職がうまくいかない人が相談に訪れますが、話を聞いていると就活も婚活も根本は同じだと気づかされます。つまり、キャリアコンサルタントや結婚相談所の人の言う表層的な自己理解の奥に潜んでいる「自己」を知った人から順に、「いいこと」が起こります。すなわち、本文で何度も申し上げた、あなたの心に宿っている言語化できない何者かが何者なのかを知った人から「成果」をあげています。

今一度、あなたの心の中をゆっくり広く旅してみてはいかがでしょうか。(ひとみしょう/哲学者)

哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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