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故・石原慎太郎氏の幻影を利用?~次期参議院選で猪瀬直樹元東京都知事を擁立した維新の狙いは何か~

安積明子政治ジャーナリスト
出馬会見で、ガッツポーズをとる藤田幹事長、猪瀬氏と馬場代表(左から)

8年半ぶりの表舞台

 日本維新の会は5月26日、次期参議院選で元東京都知事で作家の猪瀬直樹氏を比例区で擁立することを発表した。猪瀬氏は国政に復帰した故・石原慎太郎東京都知事の後継として、2012年12月に知事選に出馬。史上最多の433万8936票を獲得して当選したが、徳洲会グループから選挙費用として提供された5000万円を選挙運動費用収支報告書、都知事資産報告書、政治資金報告書に記載しなかったことが問題となり、2013年12月に辞職した。

 猪瀬氏の知事としての在職期間はわずか1年だったが、石原都政の副知事としては5年半も勤めている。その間、週に2、3度しか登庁しなかった石原知事に代わり、実務の多くをこなしていたのは副知事の猪瀬氏だった。猪瀬氏といえば、「日本国の研究」で道路公団など特殊法人改革を問題を論じたことで有名だが、2002年に道路関係四公団民営化推進委員会の委員に就任。名実ともに小泉改革を先導し、改革の旗手として知られるようになった。

 そのような猪瀬氏を石原氏が副知事に就任させ、2012年に国政に復帰した際に知事として後継指名したのは、猪瀬氏の腕力と実績に注目したからに他ならない。この度の猪瀬氏の日本維新の会からの参議院選出馬も、そういう意味では感慨深い。石原氏が目玉候補として、2012年の衆議院選で東京ブロック1位で出馬当選した構図と重なるからだ。

日本維新の会を全国政党にしたのも、猪瀬氏を都知事に就任させたのも、石原慎太郎氏だった
日本維新の会を全国政党にしたのも、猪瀬氏を都知事に就任させたのも、石原慎太郎氏だった写真:Natsuki Sakai/アフロ

衆議院で躍進後、伸び悩む維新

 日本維新の会は昨年の衆議院選で、11議席から41議席に躍進した。「大阪での身を切る改革の成功が全国的に評価された結果」と彼らは主張するが、実際には立憲民主党など野党が地盤沈下したことが主な原因だろう。だから支持率が安定していない。たとえばFNNと産経新聞の共同調査を見ても、日本維新の会は昨年11月の政党支持率は11.7%で、9.0%の立憲民主党を抜いて野党トップとなっていた。しかし今年4月には5.6%と約半減し、7.3%の立憲民主党に負けている。

 原因は安倍政権や菅政権では与党でもなく野党でもない「ゆ党」的な性格を見せていた日本維新の会が、岸田政権では完全に野党化したこと、そしてウクライナ問題で党内からロシア擁護の主張が出たことが、国民の反感を買ったことも原因だろう。いずれにしろ日本維新の会にとって、次期参議院選が正念場であることは間違いない。

 そうした意味において、対策は万全か。本拠地である大阪の維新人気は盤石で、隣の兵庫県でも勢力を着実に伸ばしつつあるが、国民民主党との連携は京都選挙区しか実現していない。3年前に議席を獲得した東京選挙区では、大阪市議の海老沢由紀氏を擁立したものの、乙武洋匡氏や山本太郎氏など知名度のある候補が手を挙げたため、議席獲得はますます困難になっている。

 そもそも3年前の参議院選はブロガーとして有名だった都議の音喜多駿氏が同じく都議の柳ケ瀬裕文氏とタッグを組んで出馬。山手線内を自転車で走行するなどして、「選挙区は音喜多、比例は柳ケ瀬」を有権者に強烈にアピールして2人とも当選した。要するに「維新」として戦った選挙ではないのだ。

3年前の参議院選
3年前の参議院選写真:アフロ

東京では維新の惨敗が続く

 さらに日本維新の会は今年2月の町田市長選で、元都議の奥澤高広氏を公認候補として擁立したが、3万1011票しか獲れず3位に甘んじた。なお奥澤氏は2017年の都議選で都民ファーストの会から落下傘候補として出馬した時、5万5784票も獲得している。

 また5月22日に行われた中野区議補選は、日本維新の会の公認を得た斉藤けいた氏の得票は1万940票で、共産党の広川まさのり氏(1万2901票)より少なかった。

 これに対して日本維新の会の藤田文武幹事長は25日の会見で、「力のなさを真摯に受け止めなければならない」と述べ、「海老沢候補は非常に良いが、いかんせん知名度が低い」と、日本維新の会が本格的に東京に進出するのは極めてハードルが高いことを吐露している。

 だからこそ、都知事だった猪瀬氏を比例候補として抜擢したのではないか。出馬会見ではテーブルに、猪瀬氏が知事を辞職してから執筆したという14冊の本が並べられた。若い論客との対談本も数冊あり、「世間に遅れまい、忘れられまい」という猪瀬氏の気持ちが伺える。

猪瀬氏に期待するも同床異夢か

 75歳の現在でも月に50キロ走り、週に1時間半はテニスをするという猪瀬氏に、日本維新の会の馬場伸幸共同代表は期待を寄せる。次期参議院選での日本維新の会の目標は改選議席6議席の倍増だが、「そうなると非改選と合わせて21議席以上になるので、参議院でも予算絡みの法案を出すことができる」と意欲満々だ。

その一方で、馬場氏は極めて現実的だ。「猪瀬さんも見ていただくとお元気だけど、そう長く10年も20年も現役でやることは難しいと思う」と、猪瀬氏は今期限りの登用であることを示唆した。

 そうした思惑と政治家の師ともいえる石原氏から「日本を頼む」と3度言われたという猪瀬氏の思いとが乖離している印象は否定できないが、いずれにしろ次期参議院選での日本維新の会の勝敗が猪瀬氏に大きくかかっているといっても過言ではない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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