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開始2日目で250万円超え。ANA国際線ファーストクラスモックアップシートをオークション販売した訳は

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
9月26日までオークションされるANAファーストクラスシートと窓枠(筆者撮影)

 海外旅行に出かける人にとって一生に一度だけでも乗ってみたい国際線ファーストクラス。ANA(全日本空輸)ではイベント会場などでのシート体験会、メディアの撮影用、技術検証用などに使用しているボーイング777-300ER型機用のファーストクラスモックアップシートをオークション形式での販売を開始した。

 9月21日(火)~26日(日)までの6日間、ネットオークションが行われる。

6日間のオークション期間の初日に100万円、2日目に200万円を突破。300万円超えの可能性も

 オークション開始初日の21日(火)に100万円を突破し、2日目の22日(水)には税込276万円(税抜き251万円)とあっさり200万円を突破するなど、驚異的なハイペースでオークションの入札価格が上がっている。23日(木)朝6時30分現在で280万6100円(税込)となっている。300万円も見えてきている。

ANAのボーイング777-300ER型機(2020年1月、筆者撮影)
ANAのボーイング777-300ER型機(2020年1月、筆者撮影)

オークションに出品されたのはイベントや検証などに使われたモックアップシート

 このANA国際線ファーストクラスモックアップシートは、現在国際線長距離路線に投入されているボーイング777-300ER型機のファーストクラスの最新シートの1つ前のシートで、現在も使われているファーストクラスシートのモデルであり、イベントや撮影、シート検証などで活躍したものである。

テレワーク、読書、晩酌など一人だけの空間を自由自在に使える

 主な特徴としては、高い壁で仕切られたスクエア型シェルになっており、シート全体が囲まれている形となっており、大型テーブルを出すことでテレワークのスペースとしての活用もできるほか、読書や勉強、更にワインを片手におつまみと共に晩酌を楽しむこともできる。

 今回オークションに出されたシートは、実際の飛行機には搭載されたことはないが、ANAによると機能面ではほとんど同じ仕様になっているとのことだ。ただ、電気製品としての国内適合性認証を受けていないことから、電動部分の動作は保証していない。

横幅も広くて快適なファーストクラスシート(9月17日、筆者撮影。以下全て同じ)
横幅も広くて快適なファーストクラスシート(9月17日、筆者撮影。以下全て同じ)

大型のテーブルがあることからノートパソコンを使ったテレワークにも使えるほか、飛行機気分でワインを飲む楽しみもある。
大型のテーブルがあることからノートパソコンを使ったテレワークにも使えるほか、飛行機気分でワインを飲む楽しみもある。

適正な販売価格はわからない。レア商品の値付け設定は困難ということでオークションでの販売に

 既に新型のファーストクラスが導入されていることから、今後イベントなどで使用する機会がなくなったことで、お客様にモックアップシートを販売することを決めたそうだ。通常であれば、自社で展開するインターネットショッピングサイトで販売することになるが、担当者もどのくらいの値段で販売するのがベストであるのかの判断が難しかったとのことだ。

 今回のシートは台座を含めて約400キロという巨大な重量で、設置するスペースを確保できないと購入は難しく、販売方法についても悩みどころであった。

 何よりも本物のファーストクラスシートが市場に出回ること自体珍しく、非常にレアものであることは間違いない。どのくらいの金額が適正価格であるかは購入希望の人でしかわからない。正直、世の中のほとんどの人はファーストクラスのシートが家にあったら邪魔であり、興味を示さない人が大勢であるが、わずか一席しか販売されない本物のファーストクラスシートをどんなに高額であっても絶対に購入したい人もいる。そこで考えられたのがオークションでの入札だった。

スーツやジャケットなどの収納も可能。まさにファーストクラスの空間を自宅でも体験できるが、スペース的にはかなりの広さが必要かつ約400キロの重量に耐えられる場所にのみ設置可能だ。
スーツやジャケットなどの収納も可能。まさにファーストクラスの空間を自宅でも体験できるが、スペース的にはかなりの広さが必要かつ約400キロの重量に耐えられる場所にのみ設置可能だ。

26日(日)の21時~22時まで入札可能。既に想定外の入札価格に

 今年5月頃から準備を進め、シートの販売を担当するANAグループの全日空商事は「SorANAka(ソラナカ)ヤフオク!店」を開設し、ヤフーが運営するネットオークションサービス「ヤフオク!」 のプラットフォームを活用し、9月21日(火)午前10時からオークションが始まった。スタートは税込7730円からスタートしたが、開始3時間で100万円を突破、そして2日目の朝には200万円を突破し、開始2日目の22日(水)23時現在で276万2100円(税込)、また3日目の23日(木)の朝6時30分現在で280万6100円(税込)となっている。

 オークション開始前に担当者に取材をした段階では、100万円以上にはなるのではないかと言う声も聞かれたが、開始2日目で250万円超えと言う状況となっており、オークション最終日の26日までには300万円を超える可能性も出てきた。仮に普通にANA側がネットショッピングで販売した場合においては、200万円以上の価格で販売することはまずできなかっただろう。

一般消費者から見ると異常な高騰だが、わずか1席しかないということでファンの心を揺さぶっている

 そういった点からも今回オークションにしたことは、オークション開始初日の段階で大成功だったと言えるだろう。これがまさに1席しかない(この型のモックアップシートは一席しかなく今後も販売される予定はない)ことで、一般消費者から見ると飛行機のシートに250万円はありえないと考えるのが普通であるが、航空ファン、ANAファンの一部にとっては250万円以上の価値がこのシートにあるということだ。

 とはいえ、まさか200万円を超えることになるとは多くの人が予想できなかったことである。26日(日)の21時~22時頃まで入札が可能となっているが、最終的な落札価格がいくらになるのかに注目していきたい。

モックアップシートではあるが、コントローラー類などもそのままの形でオークション落札者に引き渡される。
モックアップシートではあるが、コントローラー類などもそのままの形でオークション落札者に引き渡される。

配送料も最低30万円。400キロという重さがあることで高額に

 重量が台座込みで約400キロになることから配送料金も高額となる。落札金額には配送料金は含まれない。指定場所への配送については、 現在モックアップが置かれている東京都大田区からの距離となっており、23区内など片道30キロまでの平日配送で29万9200円、関東など片道200キロまでの平日配送で35万6400円などとなっている。最も距離が離れている沖縄への配送については平日配送で162万2500円となる。

 つまり、23日6時時点の280万6100円で仮に落札された場合、配送料を含めると都内での配送でも300万円超えが確定となる。

台座込みで重さは400キロを超える。当然、配送料金も高額。
台座込みで重さは400キロを超える。当然、配送料金も高額。

収益の一部は社会貢献活動の団体に寄付。今回はシート以外に窓枠もオークションに

 また今回、同時にボーイング777-300ER型機に実際に設置されていたウインドウフレーム(窓枠)もオークションの出品されており、入札開始価格は773円(税込)だったが、9月23日6時30分現在で税込43万8900円(税抜き39万9000円)と既に高額での入札価格が出ている。

 ANAではオークションの利益の一部を社会貢献活動を行う外部団体に寄付することにしている。

ボーイング777-300ER型機に実際に設置されていたウインドウフレーム(窓枠)も第1弾として出品されている
ボーイング777-300ER型機に実際に設置されていたウインドウフレーム(窓枠)も第1弾として出品されている

第2弾も10月に実施予定。ビジネスクラスのモックアップシートなどが出品予定

 第2弾も10月にも計画されており、ANA国際線ビジネスクラスのモックアップシートやジャンボ機(ボーイング747-400型機)のモデルプレーン、更には機体番号を表示している機体識別版などがオークションに出品される予定だ。

 このようにファンによって価値が大きく上昇する航空会社のレアグッズは、まさに今の時代、誰でも参加することができるネット上でのオークションでの取引に相応しい出品であり、航空会社の社員でも想像できない金額になることが今回のファーストクラスシートのオークションで明らかになった。

 コロナ禍で厳しい状況が続いている売る側の航空会社、ほとんど市場に出回らない貴重なレアグッズを入手できる買う側の航空ファンの双方にメリットがあり、まさにWin-Winの取引と言えるだろう。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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