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有名「ストームチェイサー」、竜巻追跡中の衝突事故で非業の死

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

映画「ツイスター」と「ストームチェイサー」

良きに付け悪きに付け、社会に影響を与える映画というものがありますが、1996年に公開された「ツイスター」もまたその一つでしょう。

この映画は、二人の気象学者がアメリカ南部の竜巻多発地帯で、嵐の中を果敢に車で突っ込み、危険な観測に挑むというストーリーなのですが、その中で映像を撮ることを目的にして竜巻を追跡する人々も登場します。

こうした学術目的や仕事、趣味などで竜巻や嵐を追いかける人々は「ストームチェイサー」と呼ばれています。「ツイスター」をきっかけに急増し、今となってはメディアにとっても欠かせない人々となっています。それは人里離れた場所で起きた竜巻であっても追跡して、次々と映像を提供してくれるからです。

しかしこうした良い面もある一方で、竜巻が起こると彼らの車で道路が大混雑し、救急車が駆けつけられないといった問題も生まれています。こうした問題から、州によっては法律を制定してストームチェイサーを取り仕切ろうという議論もなされているようです。

28日、交通事故で3名のストームチェイサーが死亡

竜巻追跡中に事故が起きているのも事実です。28日(火)にも、テキサス州の小さな町で衝突事故が起き、ストームチェイサー3人が亡くなりました。

死亡した2人はアメリカの大手気象会社Weather Channelで番組を持っていた有名なストームチェイサーでした。現在事故の原因を調査中ですが、今の段階では彼らの乗った車が信号無視をして、同じく竜巻を追っていた別の車と衝突したと伝えられています。

(↑事故を伝えるニュース)

竜巻の直撃で死亡したストームチェイサー

交通事故は多いものの、意外なことにストームチェイサーが竜巻に直撃を受けて死亡した例はあまり多くないようです。

しかし4年前、3人のストームチェイサーが竜巻の直撃に遭い、命を落としました。犠牲者の一人ティム=サマラス氏(享年55歳)は、ストームチェイサー界のスターとも言われるほどの人物でした。サマラス氏は、米ディスカバリーチャンネルで「Storm Chasers」という番組に出演していた一方で、竜巻調査等を専門とするTWISTEXを創設、数々の測器や観測方法なども考案しました。

非常に慎重なストームチェイサーとも言われたサマラス氏ですが、2013年5月31日、新たに開発した測器をテストするために、息子らとともにオクラホマ州の竜巻を調査中、車ごと竜巻に巻き込まれ帰らぬ人となりました。

このサマラス氏の功績の中でも特に有名なのが、竜巻の予想進路に「プローブ」という観測装置を置く手法です。これによって計測された「850hPa」という数字は、地球上で最も低い地上気圧の記録となっています。

このように竜巻は中心気圧が非常に低く、また比較的小さいため、地球上で最も強い風を引き起こす恐ろしい自然現象です。史上最も強い竜巻は、1999年アメリカ・オクラホマ州で発生した竜巻ですが、その推定風速は秒速142メートル以上とも言われています。

誰でもストームチェイサーになれるツアー

ベテランチェイサーであっても命を落とすほど、竜巻は恐ろしい現象ではあるものの、その神秘性と美しさゆえに、魅力にひかれる人が後を絶たないのも事実です。実際アメリカには、プロのストームチェイサーでなくとも竜巻を見に行くことのできるツアーがあります。約一週間の旅程で費用(飛行機代を除く)はおよそ30万円と高価なのですが、一年前から売り切れになるほど人気です。

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NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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