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7部から6年でなでしこリーグ1部昇格を。菅野将晃監督が語るFCふじざくらの強化プランとプロ化の未来

松原渓スポーツジャーナリスト
練習はオンとオフのメリハリが利いていた(写真:keimatsubara)

 山梨県初のなでしこリーグ入りを目指す、社会人女子サッカーFCふじざくら。

 2018年11月に山梨県鳴沢村を拠点として誕生し、なでしこリーグから数えて7部にあたる山梨県女子サッカーリーグ2部からスタートしたふじざくらは、初代監督となった菅野将晃監督の下、2025年までになでしこリーグ1部昇格を目指している。

「競技でも一流、社会でも一流」を目指す。FCふじざくらが創出する、女子サッカー選手の新たな価値

 また、クラブは下記のようなコンセプトを掲げ、女子アスリートのセカンドキャリアへの考え方にも一石を投じている。

「スパイクを脱いでも稼げるチーム」

「世界で通用するプレイングワーカーを育てるチームになる」

 山梨県2部を圧倒的な強さで制し、チャレンジリーグ入替戦予選大会では4日間で4連戦のハードスケジュールをわずか14人で戦い抜き、一気に3部のチャレンジリーグに参入するチャンスを得た。入替戦では敗れ、あと一歩及ばなかったものの、チームは確かなポテンシャルを示した。

 現なでしこリーグ1部のノジマステラ神奈川相模原を、クラブ創設から5年でなでしこリーグ1部へと導いた経験を持つ菅野監督は、ふじざくらをどのように導いてきたのか。また、「プレイングワーカーを育てる」というチームコンセプトや、プロリーグ参入への展望についてもお話をうかがった。

菅野将晃監督インタビュー

ーー創設1年目の昨年は、選手10人という少人数でのスタートでしたが、山梨県女子サッカーリーグ2部で優勝しました。昨シーズンを改めて振り返っていただけますか?

菅野監督:セレクションをやりましたが、ほぼ集まってくれた選手たちがそのまま入団する形でした。自分の感覚で言うと、(ノジマ)ステラが10だとしたら、「2」ぐらい(のレベル)からのスタートだったかなと思います。高校や大学で活躍していた選手たちではなく、レベル自体は高くなかったのですが、そういう選手たちと一緒にやることで成長を感じることができたし、選手たちも成長を感じてくれたと思います。それが指導者の役割だし、人間は成長欲求があるから、自分の厳しいトレーニングでもついてきてくれました。1年間で「2」から「4」ぐらいまでは行けたかなと。今年は19名になって、入ってくる選手たちのレベルが上がったので、「4」が「4.5〜5』ぐらいの感じになりましたね。新型コロナウイルスの影響で一旦活動が中断されましたが、再開してからの1カ月間で、さらに「6」ぐらいまで上がってきた印象です。

ーー去年、チャレンジリーグ参入のための入替戦では、あと一歩のところまで勝ち上がりました。

菅野監督:去年はチャレンジリーグ昇格を目標にしていましたが、3月の時点で「これはきついな」と思いました。レベルが「2」のままだったら、入替戦までは絶対にいけないなと。そこでなんとか「4」まで行って、4日間連続で4試合という入替戦の予選大会を駆け抜けることができて、目標であるチャレンジリーグに一歩近づけた。入れ替え戦は新潟医療福祉大学女子サッカー部に2試合で0-4だったので力的には及びませんでしたが、選手たちがそういう舞台に立てたことが財産です。ホームのくぬぎ平の球技場で、クラブがなでしこリーグ仕様のホームゲームを主催できたことも大きな財産になりました。500人を入れようというプロジェクトをやりましたが、実際には700人ぐらい入ったんです。

ーー菅野監督のチームは運動量が豊富で、その分練習は走りのメニューがハードな印象がありますが、ふじざくらでも、走りのメニューはかなり厳しそうですね(笑)。

菅野監督:歳を重ねて、ずいぶん優しくなりましたよ(笑)。1番の目的はけがをしない体を作ることです。

そのためにいろいろな動きを取り入れたり、走りのトレーニングを続けてきました。去年の最初は、選手たちの運動能力やパフォーマンスがすごく低かったんです。中には1年近くブランクがある選手もいたので、そのままやったらケガをするし、走れないといいサッカーはできないので、走力のベースを上げることから始めました。技術的な面では、単純に「止めて、蹴る」ことを徹底してベースを上げてきました。今年はさらにチームのスタンダードを上げる取り組みをしていて、次のステップに行くために必要な技術や動きの質、量も上がっています。

走力と技術のベースを高めて、チーム力は着実に向上している(写真:keimatsubara)
走力と技術のベースを高めて、チーム力は着実に向上している(写真:keimatsubara)

ーー前チームで指導なさっていた時は、ボールを丁寧に繋ぐことや、最後までボールを追うことを大切にされていましたが、ふじざくらでも、そういった部分は追求していらっしゃるのでしょうか。

菅野監督:そうですね。自分がやっている限り、それは変わらないと思います。育成年代の指導を見ていると、練習でパスの練習をしているのに、試合ではそれがリスクだと思って指導者が「つなぐな、蹴っておけ」とやらせないケースがあります。練習でやったことを実戦で出すのが試合なので、結果を出したいのはわかるけれど、そんなサッカーをやっていても選手が面白くないだろうなと思うんです。

ーー7月4日に行われた皇后杯の県予選では、5-0で幸先の良い勝利で今シーズンをスタートさせました。

菅野監督:練習を再開してからトレーニングマッチ を4試合やって、その内容がすごく良かったので、この間の試合は内容としてはちょっと足りなかったなと反省しました。練習試合は、自分たちよりもステージが上のチームと対戦しています。だいぶ戦えるようになってきたと思いますよ。

ーークラブの「プレイングワーカー」というコンセプトについては、どのように捉えていらっしゃいますか?

菅野監督:正社員や派遣などいろいろな形があるけれど、「サッカーをしながら食べていければいい」と与えられた仕事を機会的にやるだけでは、社会人としてのスキルアップにつながりません。たとえばプロリーグでプレーして、環境が良くても「引退したらおしまい」となってしまうかもしれない。それこそ、プロリーグのクラブは、選手が社会人としても成長できるように考えられるクラブであって欲しいと思います。自分は現場の責任者なのでプレーの質を高めなければいけない立場ですが、選手がワーカーとしての質を高めることは、サッカーにもリンクしています。たとえば仕事で何を企画して発信するか、そういう主体性がサッカーにも生かされて、相乗効果が生まれる。それがこのクラブの大きな特徴だと思います。フロントも現場も、パワーとポテンシャルが高い人たちが集まっていて、新しいものを作る想像力が豊かです。去年は、自分もメンタルコーチの辻秀一先生から多くのことを学ばせてもらいました。

ーー選手がセカンドキャリアについて多くの選択肢を持てるようになるといいですよね。キャプテンの工藤麻未選手には、どんなことを求めていますか?

菅野監督:彼女はプレーヤーとしてもワーカーとしても成長していて、みんなの手本になるような向き合い方をしています。キャプテンとして何かを要求するというよりは背中で見せてくれているし、チームの雰囲気を明るくしてくれます。自分はいつも、チームは雰囲気が大事だと思っているし、最終的には選手が自分たちで雰囲気を作ってくれるのが一番だと思っていますから。

ーークラブとしては、いずれはプロリーグへの参入も考えているのでしょうか。

菅野監督:クラブとしては視野に入れてやっています。だから、WEリーグの成功を願っていますし、このクラブが力をつけて参入できる時がきたら、新たなプロとしてのスタイルを提案できると思います。

ただ単にサッカーをするだけという契約はこのクラブはしないと思うので、プロ選手として社会人としてのスキルアップといかに融合させるか、今後に向けて方策を考えていきたいと思います。

ーークラブの発信にも引き続き、注目しています。ありがとうございました。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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