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酒さ治療薬の最新動向 - 米国10年間の変遷と新薬への期待

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【酒さ治療薬の進歩とFDAによる承認の歴史】

酒さ(しゅさ)は、顔面の紅斑(こうはん)や毛細血管拡張、にきびのような炎症性の丘疹(きゅうしん)・膿疱(のうほう)を主な症状とする慢性の皮膚疾患です。アメリカではこの10年間で、酒さの治療薬は大きな進歩を遂げ、米国食品医薬品局(FDA)による承認が相次ぎました。

2014年12月、ガルデルマ社のイベルメクチンクリーム1%がFDAに承認されました。臨床試験では、2週間目から効果が見られ、時間の経過とともに症状の改善が確認されています。メトロニダゾール0.75%クリームとの比較でも、3週目以降はイベルメクチンクリームの方が高い効果を示しました。長期の安全性と忍容性も52週間にわたって実証されています。

2017年1月には、アラガン社のオキシメタゾリン塩酸塩1%クリームがFDAの承認を受けました。2つの臨床試験で、1日1回の塗布により、酒さに伴う持続性の顔面紅斑が12時間にわたって軽減されることが示されました。

【新薬の登場とその効果】

2020年5月、メンロー・セラピューティクス社のミノサイクリントピカルフォーム1.5%がFDAに承認され、酒さの炎症性病変に対する初のミノサイクリン製剤となりました。承認は主に2つの臨床試験のデータに基づいており、18歳以上の1,522人の患者が参加しました。ジルキシは炎症性病変数と治験担当医師による全般的評価の両方で、統計的に有意な改善を示しました。

2022年4月、ソル-ゲル・テクノロジーズ社の過酸化ベンゾイル5%クリームがFDAの承認を受けました。2つの第III相無作為化二重盲検多施設12週間臨床試験の結果により裏付けられており、733人の参加者を対象としました。過酸化ベンゾイル5%クリームは、12週間の試験終了時までに酒さの炎症性病変を約70%減少させ、プラセボの38-46%減少と比較して優越性を示しました。

2023年7月、ジャーニー・メディカル社がDFD-29(ミノサイクリン塩酸塩徐放性カプセル40mg)の第III相試験であるMVOR-1およびMVOR-2の良好なトップラインデータを発表しました。DFD-29は、炎症性病変の総数の減少と治験担当医師による全般的評価の両方において、ドキシサイクリンカプセルとプラセボの両方に対して統計的に優れていました。

【日本における酒さ治療の現状と課題】

日本でも、酒さは比較的よくみられる皮膚疾患の一つです。しかし、海外と比べると治療薬の選択肢は限られています。海外で使用されているイベルメクチンやオキシメタゾリン、ミノサイクリンの外用薬は、日本ではまだ承認されていません。

日本の酒さ患者さんが、より効果的な治療を受けられるようになるためには、新薬の導入と並行して、疾患に対する正しい理解を広めていく努力が必要不可欠です。皮膚科医を中心に、患者さんやご家族、さらには広く一般の方々に向けた啓発活動が求められます。

酒さは慢性の経過をたどる疾患ですが、適切な治療とスキンケアを継続することで、症状をコントロールし、生活の質(QOL)を大きく改善することができます。海外で承認されている新薬への期待とともに、日本における治療の選択肢が広がっていくことを願ってやみません。

参考文献:

1. Galderma Laboratories, L.P. News release. Galderma receives FDA approval for novel treatment option for rosacea patients. December 23, 2014.

2. Allergan. News release. Allergan announces FDA approval of Rhofade (oxymetazoline hydrochloride) cream, 1% for the topical treatment of persistent facial erythema associated with rosacea in adults. January 19, 2017.

3. Menlo Therapeutics. News release. Menlo Therapeutics receives FDA approval of Zilxi (minocycline) topical foam, 1.5%, the first topical minocycline treatment for rosacea. May 29, 2020.

4. Sol-Gel Technologies Ltd. & Galderma. News release. Sol-Gel Technologies and Galderma Announce FDA Approval of Epsolay. April 25, 2022.

5. Journey Medical Corporation. News release. Journey Medical Corporation announces positive topline data from phase 3 study of novel treatment for rosacea. July 11, 2023.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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