Yahoo!ニュース

アトピー性皮膚炎の子供に食物アレルギー治療は安全?経口免疫療法の最新研究

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

アトピー性皮膚炎は、乳幼児期の食物アレルギー発症の主要なリスク因子の一つです。皮膚バリア機能の低下により、食物アレルゲンが体内に侵入しやすくなるためと考えられています。一方、早期に食物アレルゲンを経口摂取することで、アレルギーを予防できる可能性も示唆されています。

しかし、アトピー性皮膚炎のコントロールが不十分な状態で経口免疫療法を開始すると、複数の食品を不必要に除去してしまい、かえってアレルギーが増えるリスクがあります。そのため、経口免疫療法開始前にしっかりとスキンケアを行い、皮膚炎をコントロールしておくことが重要です。

【アトピー性皮膚炎と経口免疫療法の関係性】

経口免疫療法中に皮膚炎が悪化したと感じる保護者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際に経口免疫療法が皮膚炎悪化の原因となっているかどうかは、慎重に見極める必要があります。

現在までに発表された研究では、経口免疫療法による皮膚炎悪化の報告はごく少数にとどまっています。Bégin らの研究では、重度のアトピー性皮膚炎と喘息を持つ7歳の男児が、複数食品の経口免疫療法中にオマリズマブからデュピルマブに切り替えることで、湿疹が改善し、経口免疫療法を再開できたケースが報告されています。

一方、Chueらの研究では、中等症から重症のアトピー性皮膚炎を有する食物アレルギー患者8例の経過が詳細に検討されています。その結果、経口免疫療法中の皮膚炎増悪は、必ずしも経口免疫療法が直接の原因ではなく、気候の変化やストレス、感染症など、食事以外の要因も考えられると述べられています。

皮膚炎の原因を特定するためには、経口免疫療法以外の要因も含めて総合的に評価する必要があります。経口免疫療法と皮膚炎の関連性については、さらなる研究が待たれるところです。

【重症アトピー性皮膚炎へのデュピルマブの可能性】

重症のアトピー性皮膚炎で、従来の治療に抵抗する場合、生物学的製剤の使用が選択肢となります。中でもデュピルマブは、生後6ヶ月以上の乳児に対する有効性と安全性が確認されています。

デュピルマブは、IL-4とIL-13というサイトカインの作用を阻害することで、アレルギー反応を抑制します。Pallerらの研究では、6ヶ月から6歳未満の重症アトピー性皮膚炎患児を対象に、デュピルマブの有効性と安全性が検討されました。その結果、デュピルマブ投与群ではプラセボ群と比較して、有意な皮膚症状の改善が認められています。

また、デュピルマブは重症喘息や好酸球性食道炎にも効果が期待されており、食物アレルギー治療への応用も検討されています。Rialらは、重度のアトピー性皮膚炎患者がデュピルマブ投与後に、以前はアナフィラキシーを起こした食品の経口負荷試験に耐えられたケースを報告しています。

重症アトピー性皮膚炎のお子さんで経口免疫療法を希望される場合は、主治医とよく相談し、デュピルマブの併用も視野に入れて検討してみましょう。

【経口免疫療法実施時の留意点とアドバイス】

アトピー性皮膚炎のお子さんに経口免疫療法を行う際は、皮膚炎のコントロールを十分に行い、保護者の方への指導も大切です。皮膚炎が落ち着いている時期に経口免疫療法を開始し、症状に合わせて段階的に摂取量を増やすなど、柔軟な対応が求められます。

医師と保護者が協力して経口免疫療法の方針を決めていくことを「shared decision making(SDM: 協働の意思決定)」と言います。Greenhawt は、食物アレルギー患者のケアにおいて、協働の意思決定が重要であると述べています。お子さんの皮膚の状態や全身の状況を見ながら、無理のない範囲でチャレンジしていきましょう。

<参考文献>

1. Chua GT, et al. The Case for Prompt Salvage Infant Peanut Oral Immunotherapy Following Failed Primary Prevention. J Allergy Clin Immunol Pract. 2022;10(10):2561-9.

2. Paller AS, et al. Dupilumab in children aged 6 months to younger than 6 years with uncontrolled atopic dermatitis: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2022;400(10356):908-19.

3. Bégin P, et al. Safety and feasibility of oral immunotherapy to multiple allergens for food allergy. Allergy Asthma Clin Immunol. 2014;10(1):1.

4. Rial MJ, et al. Dupilumab for treatment of food allergy. J Allergy Clin Immunol Pract. 2019;7(2):673-4.

5. Greenhawt M. Shared decision-making in the care of a patient with food allergy. Ann Allergy Asthma Immunol. 2020;125(3):262-7.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事