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宿題も通知表もない学校に出合って。「私もテレビの意向や大人の事情にしばられちゃいけないと思いました」

水上賢治映画ライター
「屋根の上に吹く風は」の浅田さかえ監督 筆者撮影

 10月2日(土)にポレポレ東中野で公開がはじまると満員御礼の好スタート!

 今週20日からは横浜のジャック&ベティでの公開が始まるドキュメンタリー映画「屋根の上に吹く風は」は、鳥取県の山あいにある、とある学校の日常の記録だ。

 ただ、わたしたちが思い描く「山村の学校」とはおそらくイメージがかなり違う。

 というか、そもそも、わたしたちがイメージする「学校」そのものからもかけ離れているというか。

 「生徒が一斉に登校して、教室で数十人が一律で同じ授業を受ける」といった通常イメージする学校とはまったく違う。

 豊かな自然に抱かれた、鳥取県智頭町にある「新田(しんでん)サドベリースクール」は、アメリカにあるサドベリー・バレー・スクールをモデルに、子どもたちの主体性を尊重した教育を目指すデモクラティックスクール(民主主義の学校)。

 カリキュラムやテストはなく、通知表のような学業の評価もしない。そもそも教師もいなければ、授業もない。

 子どもたちの意見が最大限尊重され、彼ら自身が好奇心に沿った遊びや体験からそれぞれ何かを学んでいく。

 スクールのルール作りから、運営、スタッフの雇用などもすべて子どもたちの同意のもとで決めら、大人はそれを見守り続ける。

 子どもたちがいろいろなことを自分で考え、自分で行動し、自分で決める。

 もちろん学校は本来、子どもが主役ではあるが、おそらくここまで子どもたちに多くが委ねられた学校はなかったといっていいかもしれない。

 新田サドベリースクールとは、どんな学校なのか?そこからなにが見えてくるのか?

 同校に約1年半にわたって通い、本作を作り上げた浅田さかえ監督に訊くインタビューの第二回へ。(全三回)

なぜ、あのような先進的といえる学校があの地に生まれたのか?

 前回のインタビューは、浅田監督自身がサドベリーに出会い、学校に対する新たな可能性を見出したところで話しが終わった。

 今回も、引き続き新田サドベリースクールについての話から。

 同校があるのは鳥取県智頭町の山あい。

 なぜ、あのような田舎から、このような先進的といえる学校が生まれたのだろう?

「あそこの場所はもともと『森のようちえん』(※北欧発祥の幼児教育や子育て支援活動。子どもたちは自然の中での自由な遊びを通していろいろなことを学ぶ)があるんです。

 そこに子どもを通わせていた親御さんたちが、『森のようちえん』で養われた子どもたちの主体性や自主性を大切にしたい、でも、既存の学校の教育の枠では実現が難しい。

 じゃあ、そういう学校を造ろうというところからはじまって、サドベリーという教育スタイルに出合って、新田サドベリースクールが立ち上がる。

 『森のようちえん』があったのが大きかったのだと思います。

 でも、確かに新しい、あのようなスクールが、あんな山奥にあるっていうのは、確かに不思議な感じはしますよね」

「屋根の上に吹く風は」より
「屋根の上に吹く風は」より

なかなか理解をえられない部分はある

 では、肝心の地元ではどう受け止められているのか。

 ひとつ気になるのは、村の長老で子どもたちと交流をもつはじめさんの発言。そこからは、あまりよく思わない人もいることがうかがえる。

「サドベリーが実践していることは自由度としては最先端といってもいいのかもしれない。

 繰り返しになりますけど、現在の義務教育とは真逆をいっているので、理解できない人もいるかもしれません。

 わたし自身は、学校にほぼ張り付いての撮影だったので、あまり地元の方と話す機会はなかったので、そういう意見を直接耳にすることはありませんでした。

 ただ、サドベリーのスタッフからは『なかなか理解をえられない部分はある』という話は聞いていて。

 スタッフや親御さんで地元のみなさんにどうすれば理解してもらえるか真剣に話し合っている場には何度か立ち合いました。

 なかなか難しいですよね」

「屋根の上に吹く風は」より
「屋根の上に吹く風は」より

テレビではなく映画で発表しようと思った理由

 その中で、この記録を映画として発表しようと思ったのはなぜか。

 というのも、浅田監督はこれまで主にテレビのディレクターとして活躍。情報番組、旅番組、報道番組、美術番組、ドキュメンタリー番組など数多く手がけてきた。

2008年の日本テレビ系列NNNドキュメント「血をこえて…“わが子”になった君へ」ではギャラクシー賞 奨励賞を受賞している。

その中で、今回の「屋根の上に吹く風は」が初の映画作品。つまり本作が映画監督デビュー作になる。

「当初は、テレビ番組にする方向で考えていました。

 ドキュメンタリー番組にできればと思って撮影を始めました。

 ただ、撮影を続ける中で、『映画で』との考えに変化していきました。

 ひとつの理由としては、サドベリーのことを言葉で説明するのはとても難しいということがありました。

 サドベリーが実践するのはまったく新しい学びのスタイルで、いわゆる普通の義務教育とは違う。

 これまでにない概念をもった学校ですから、なにも知らないでみると、ちょっと衝撃的!(苦笑)。

 前回お話しましたけど、わたし自身も最初の3カ月は『これでいいのか』と葛藤して、その間は理解するには至らなかった。

 実際にみていただければなんとなく『ああ、こういう学校なんだ』とわかっていただけると思うんです。ただ遊んでばかりではなく、子どもたちは遊びの中から自分で興味を広げ自立を養っているんだなと。

 でも、たとえばテレビ局へのプレゼンテーション用の企画書とかで『ゲームをしても大丈夫な学校なんですけど、子どもたちの自立につながるんです』と説明したとしても、なかなか理解を得られない。

 サドベリーを文字や言葉で表現するのはなかなか難しいことが理由のひとつにありました。

 それからいまのテレビは制約も増え、コンプライアンスも厳しくなってきていてサドベリーのような価値観を打ち出すのは、なかなか難しいということもありました。

 また、見せ方によっては、サドベリーのような学校はさまざまな面で誤解を受けかねない。そこを慎重に取り扱わないといけない。

 ただ、テレビは番組によってそれぞれの特色があって、多かれ少なかれそのカラーに合わせるところがある。

 そうなったとき、わたしがサドベリーの伝えたい価値観を伝えきれない可能性があるのではないかと考えました。

 そこでより自分の感じたことを素直に伝えられる、表現の自由度が高い映画の方が合っているのではないかと思いました。

 あと、カメラを向けているのは、思い思いの時間を過ごす、自由で闊達な子どもたち。

 わたし自身もテレビの意向や大人の事情にしばられちゃいけないなと思いました(苦笑)」

(※第三回に続く)

「屋根の上に吹く風は」ポスタービジュアル
「屋根の上に吹く風は」ポスタービジュアル

「屋根の上に吹く風は」

監督・撮影・編集:浅田さかえ

神奈川・ジャック&ベティにて公開中。

鹿児島・ガーデンズシネマにて11/27(土)~、

長野・上田映劇で12/4(土)~公開

公式サイト https://www.yane-ue.com/

ポスタービジュアルおよび場面写真はすべて(C)SAKAE ASADA

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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