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佐々木勇気八段、藤井聡太竜王への挑戦権獲得! 竜王戦挑決三番勝負で広瀬章人九段に2連勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月13日。東京・将棋会館において第37期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局▲広瀬章人九段(1組4位、37歳)-△佐々木勇気八段(2組優勝、30歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は22時14分に終局。結果は138手で佐々木八段の勝ちとなりました。

 佐々木八段は三番勝負を2連勝で制して藤井聡太竜王(22歳)への挑戦権を獲得しました。

 七番勝負第1局は10月5日・6日、東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂でおこなわれます。

佐々木「藤井竜王と対戦するのは久しぶりで。かつ、持ち時間が長い将棋もかなり久しぶりになるので。しっかり自分の納得いく将棋が指せるシリーズにしたいと思います。どうやったら藤井竜王と対局できるかとか、勝てるかと、ぼんやり考えていた時期だったんですけれど。それがこの七番勝負で戦うということで。勝たなくちゃいけないっていう明確な命題になったので。それに向けて取り組みたいと思います」

充実の佐々木八段、タイトル初挑戦

 第1局と先後が替わって、第2局は広瀬九段が先手。戦型は相掛かりに進みました。

 55手目。広瀬九段は相手陣の左右をにらむ角を自陣中央に据えます。ここまでの進行は一昨年の竜王戦七番勝負第5局▲広瀬挑戦者-△藤井竜王戦と同じものでした。その一局は広瀬九段が勝っています。

広瀬「予定ではなかったんですけど、まあ、成り行きでというか。あんまり流行している形でもないですし。研究で決着がつく将棋でもないと思ってるので。久しぶりですけど、やってみようかなというところです」

 56手目。佐々木八段は8筋の飛車を浮き、端9筋からの攻めに備えます。ここで前例と離れました。

佐々木「この相掛かりの相中住まいの形は、かなり難しい将棋で。広瀬先生がその先手番のスペシャリストだったのは知ってたんですけど。自分の課題図でもあったので。ちょっとのぞんでみたっていうことになりました」

 本格的な戦いが始まってからは、双方ともに長考が見られました。佐々木八段がペースをにぎったかと見られていたところで、80手目、5筋に歩をあわせていった手がわずかに疑問だったようです。

佐々木「ちょっと途中で誤算があって。△5四歩と打った手があまりよくなかったと思うんですけど。常に端に角が出られる筋が水面下であって。自信もないところでした」

広瀬「ちょっと指せるような気がしたんですけど。(87手目、1筋で)と金を引いた手が結果的に緩手になってしまったと思うので。なんかそこで代わる、気の利いた手が指せてればもうちょっと違う展開になったんじゃないかなと思いました」

 88手目。佐々木八段は夕食休憩をはさんで1時間9分の長考で8筋、広瀬陣に歩を打ちます。なんとも対応が悩ましい一手。対して広瀬九段は1時間16分考え、打たれた歩を金で取りました。この時点で、持ち時間5時間のうち、残りは広瀬37分、佐々木54分。

 両者ともに残り時間が少なくなっていく中、形勢が苦しい佐々木八段は勝負手を連発して、逆転の機会をうかがいます。

佐々木「こちらはわるいので仕方ないかなっていう感じで、勝負勝負で進めていったんですけど。ちょっとどれも足りないかなと思って進めていました」

 広瀬九段優勢で迎えた終盤の115手目。広瀬九段は王手で銀を打ち込みます。しかしこの手が疑問だったか。形勢は逆転し、佐々木八段よしとなります。

 佐々木勇気八段の師匠・石田和雄九段は、本局をずっと観戦していました。

石田「驚いたねえ・・・。この将棋が逆転するとは」

 途中までは端9筋で遊ばされていた佐々木八段の飛車が大いにはたらき始め、最後は広瀬玉の死命を制する駒となりました。佐々木八段は飛車を切り、角を出て広瀬玉に王手。128手目、角で相手の桂を取った手が、きれいな「詰めろ逃れの詰めろ」となりました。

 広瀬九段は佐々木玉に王手をかけるものの、わずかに詰まない。広瀬九段は佐々木玉に詰めろをかけて、形を作ります。

 138手目。佐々木八段は桂を打って広瀬玉に王手をかけます。長手数ながらも広瀬玉は詰み。広瀬九段が投了を告げて、終局となりました。

佐々木「指してみたい形ではあったんですけれど。やはり、この5時間の持ち時間を通して難しかったですし。また新しい、なんか発見もあったので。途中はミスはありましたけど、全体的にはよく指せたかなと思います」

広瀬「まあ、難しかったんですけど、ちょっと最後そうですね。なんか時間に追われて。ちょっときわどいながらも負けの変化なってしまったような気がしたので。中終盤のミスが多かったかな、という将棋でした」

 かくして今期七番勝負は、3連覇中の藤井竜王に対して、タイトル戦初登場の佐々木八段が挑むという構図になりました。熱戦は必至。開幕が待ち遠しいところです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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