Yahoo!ニュース

藤井聡太竜王(22)ダイレクト向かい飛車採用の佐々木勇気八段(30)に勝利 竜王戦七番勝負第3局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月25日・26日。京都府京都市・総本山仁和寺において第37期竜王戦七番勝負第3局▲藤井聡太竜王(22歳)-△佐々木勇気八段(30歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。


 25日9時に始まった対局は26日18時26分に終局。結果は99手で藤井竜王が勝ち、シリーズ成績を2勝1敗としました。

 第4局は11月15日・16日、大阪府茨木市・おにクルでおこなわれます。

 藤井竜王と佐々木八段の通算対戦成績は藤井6勝、佐々木3勝となりました。


 どんな時間設定でも強い藤井竜王。2日制の七番勝負では54勝11敗(勝率0.831)という成績を誇ります。そのうち第3局では13勝1敗となりました。



佐々木八段、意表のダイレクト向かい飛車


 佐々木八段はこれまでの対局において、ほとんど居飛車を指してきました。その佐々木八段が本局ではなんと、意表のダイレクト向かい飛車を採用したわけですから、多くの観戦者が驚きました。

藤井「あまり予想していない戦型になって。ちょっとこちらがどういうふうに攻めの形を作っていくのかが、わからなくて」

 ダイレクト向かい飛車の元祖・佐藤康光九段は、タイトル戦では2007年3月の王将戦七番勝負第7局(対羽生善治王将戦)、棋王戦五番勝負第4局(対森内俊之棋王戦)などでも採用しています。最近ではNHK杯2回戦で、豊島将之九段に勝利しました。

 また佐藤天彦九段は今期A級1回戦で永瀬拓矢九段にダイレクト向かい飛車を用いて勝っています。


 佐々木八段のダイレクト向かい飛車採用は、こうしたトレンドに乗ったものでしょうか。


藤井竜王、驚きの構想


 ダイレクト向かい飛車も多く指されるうちに、様々な指し方が試みられてきました。30手目。佐々木八段は銀冠に組み替えます。対しては藤井竜王はどのような駒組を見せるか。まだしばらくは常識的な駒組が続いていくと思われたところで、コンピュータ将棋ソフト(AI)は候補手として、一度7八に寄った玉を、元の6八へと戻す手を示していました。

 ABEMAでは高橋佑二郎四段が解説を務めていました。

高橋「初めて見る筋で勉強になりますね」


 まあ人間では指さない手・・・。高橋四段だけではなく、多くの人がそう感じたのではないでしょうか。しかし、しかし。藤井竜王はわずか7分の考慮時間で、玉を戻したのでした。

高橋「えっ!? いやあ・・・。本当ですか。いやあ・・・。普通ですか、これ?(笑)」「ちょっと皆さん、聞いてみたい。これ、普通なんですか。僕が勉強不足なだけなのかなあ」「僕、あんまりこういう実戦例、見たことないんですけど。本当に新しい定跡をやはり、作られてますね。本当に、最高峰の舞台にふさわしい・・・。身が引き締まりますね」

 局後、佐々木八段は次のように語っています。

佐々木「先手が、どういう対策になるのかな、と思ってたんですけど。(周囲に問うて)6八に寄るのは、公式戦にはない? いい構想なんですね」

見ごたえある中盤戦


 両者は互いに自陣に角を打ち合って、難しい中盤戦に入ります。


佐々木「一手一手難しい将棋かなと思っていました」

 藤井竜王は8筋から動きます。そういけるのも、自玉を戦場から遠ざけた効果です。さらに一段飛車を2筋から8筋に回って、佐々木玉に照準を合わせました。

藤井「ちょっと本譜は、つんのめったような攻め方になってしまって。1日目の時点で少し、失敗してしまったかなと思っていました」

 佐々木八段は角を成り込んで馬を作ります。55手目、藤井竜王が9筋の歩を突き上げ、局面はさらに緊張感を増したところで佐々木八段が56手目を封じて、1日目は指し掛けとなりました。

 明けて2日目。佐々木八段の封じ手は、突かれた歩を取る王道の一手でした。


 本局はお寺でおこなわれているため、1日目は対局室の外から、参拝客向けのアナウンスや、読経の音などが聞こえていました。夕方、佐々木八段は音が気になる旨を伝えて、運営側が対処。2日目は、静かなうちに対局がおこなわれました。


 58手目、藤井竜王が9筋に歩を垂らしたのに対して、佐々木八段は自陣に馬を引きつけて受けます。


佐々木「馬を作って、受けに回って。反動でと思ったんですけど」

 佐々木玉の上部で激しく駒がぶつかり、形勢不明のまま戦いは推移していきます。

佐々木「(75手目)▲5四歩って突かれたところから、ちょっと距離感がわかんなくなってしまって」

 佐々木八段は突かれた歩を取らず、桂を打って攻めていきます。対して藤井竜王も攻め合いで、5三の要所にと金を作りました。

藤井「ちょっと苦しいかなと思ったんですけど。他の手もちょっと厳しいかなと思ったので。攻め合いで勝負しようと思っていました」

藤井竜王、難解な終盤を制して2勝目


 89手目、藤井竜王はと金で相手の飛車を取ります。ここで手番は佐々木八段に。

佐々木「なんかいけそうな局面もあった気がしたんですけど。ちょっと終盤、私の力じゃわかんなかったです」

 持ち時間8時間のうち、残りは藤井34分、佐々木1時間48分。勝敗はまったく不明でした。90手目、佐々木八段からは飛車を打つ相手玉への王手、金を打つ自玉の受けなどが考えられました。佐々木八段は16分考えて、金打ちの受けを選びます。

佐々木「飛車を先に打つのか、金をどこで打つのか、難しいなと思ったんですけど。金の方が含みが多いんで。実戦的にはこっちかなと思った。飛車(の王手)で勝ちが私には読みきれなかったんで。勝ちじゃなければ金の方が、居飛車も大変なのかなと」

 92手目。佐々木八段は直接王手するのではなく、相手玉を上部から押さえる三段目に飛車を打ちます。直接王手をしない、プロらしい一手。セオリー通りの寄せにも見えました。しかし、惜しくもここでは最善ではなかったようで、局後、佐々木八段はこの手を悔やんでいました。

 藤井玉は危ないようでも詰まない。ならば佐々木玉に詰めろをかける余裕が生まれたことになります。しかしそれを読み切るのは、大変なはずです。

 93手目、藤井竜王はわずか6分の考慮時間で角を打ちました。これが痛烈かつ正確な一手。ABEMAで解説をしていた高野智史六段は「詰む、詰まないが早すぎる」と感嘆の声をあげました。この最善手で、藤井竜王が抜け出したようです。

藤井「▲5四角と打ったあたりで、形勢はわからなかったですけど、攻め合いの形になったので、楽しみもあるのかなと思っていました」

 99手目。残り16分の藤井竜王は3分考えて角を切り、佐々木玉を守る金と刺し違えます。いつもながらに、見事な決め方。長手数ながら、佐々木玉はきれいに詰んでいます。

 佐々木八段は次の手を指さずに投了。第3局の幕がおろされました。

 次の第4局に向けて、両対局者は次のようにコメントしました。

藤井「第2局とこの第3局、内容としてはかなり押されてしまっているかなと思うので。第4局は少しまた間(ま)が空くので。いい状態で臨めるように、しっかり準備をしていきたいと思います」

佐々木「やっぱり、なんか終盤は、ちょっとこちらが、気がついたら負けっていうことが多いので。そのあたりをなんとかしたいと思います」

 藤井竜王の今年度成績は20勝6敗(勝率0.769)となりました。


 佐々木八段の今年度成績は16勝6敗(勝率0.727)となりました。


将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事