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報道ステーションの「ワイマール憲法」特集を大賞に選んだギャラクシー賞に感動した

篠田博之月刊『創』編集長
ギャラクシー賞で表彰される報道ステーションのチーム

6月2日、さっきまでギャラクシー賞贈賞式を見に行っていて、そのまま帰ろうかと思ったが、わざわざ社に戻ってこのブログを書くことにした。ギャラクシー賞は、この1年ほどですぐれた番組やCMとされたものを選んで表彰しようというものだ。で、今年の受賞内容がなかなか感動的だったのでぜひ知らせたいと思った。

日本テレビのNNNドキュメント「南京事件 兵士たちの遺言」がテレビ部門で優秀賞に選ばれたというのもすごい。テレビ界が萎縮にひた走っている現状で、敢えて南京事件という虎の尾を踏みかねないテーマに真っ向から挑んだのは、私も古くからの知り合いである日本テレビの清水潔さんだが、受賞後のスピーチが拍手ものだった。

「忖度の“そ”の字もないような番組を作ってみたいと思いました」

いや、その話もすごいが、感動的だったというのは、テレビ部門の大賞というグランプリを与えられたのが報道ステーションの「特集 独ワイマール憲法の“教訓”」だったからだ。覚えているだろうか、古舘さんがまもなく辞めるという3月18日の「報道ステーション」で放送された特集だ。ドイツでナチスが台頭していく過程で結節点になったのはヒトラーが「緊急事態条項」を設け、権限を集中させて批判勢力を次々と逮捕していったことだ、と、はっきりわかる形で改憲をめぐる今の日本の状況に警告を発した内容だった。

しかもそれを無理に政権批判に持っていったわけでなく、実に丁寧に説得力ある形で番組が作られていた。萎縮ムードに支配された今のテレビ界でここまでやったというのは、テレビの現場の人たちにインパクトをもって受けとめられたはずだ。

贈賞式では、古舘さん本人は来れなかったが、プロデューサーやディレクターが檀上にあがり、賞状やトロフィーを受け取った。元プロデューサーの松原文枝さんらのスピーチが、放送がなかなか難しい時代になっているが頑張って番組を作っていきたいという、これまたなかなか感動的な内容だった。冒頭に掲げた写真はその報道ステーションのチームが表彰されるシーンだ。

松原元プロデューサーは、昨年の古賀茂明さんの爆弾発言事件の時に、古賀さんが「プロデューサーの更迭」という話をして話題になったその人だ。

その松原さんが、報道ステーションの「特集 独ワイマール憲法の“教訓”」についてスピーチをするというのは、感動的なシーンだ。また、この番組をこの1年間で最もすぐれたものと表彰するギャラクシー賞の選考側の見識もなかなかで、放送界の現場の気概や覚悟を反映したものといえる。

いやあこれには感動し、贈賞後の懇親会でぜひにと報道ステーションの番組関係者に挨拶した。松原さんは、「昨年は更迭プロデューサーとばかり言われて…」と苦笑していた。

今年のギャラクシー賞は、NHK「クローズアップ現代」のキャスターを務めてきた国谷裕子さんへの特別賞授与も含めて、全体的に充実していた。放送界が危機的だとか岐路に立たされていると言われるなかで(そう言っている一人が私だが)、テレビ人の気概があふれた良い贈賞式だったと思う。

これ、動画配信したら絶対注目されると思うのだが……と書いて、ヤフーニュースを見たら、さっそく贈賞式の話がいろいろな媒体で報道されていた。でもこれ、国谷さんと薬師丸ひろ子さんの話ばかりで、すっかり芸能ニュースにされちゃってるよ。とほほ…。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160602-00000149-sph-ent

このオリコンの報道は、最後の国谷さんのコメントがなかなかいいけれど。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160602-00000326-oric-ent

テレビ朝日やTBSは今回の受賞をどう報道するのだろうか。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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