F-35B戦闘機搭載の防御型空母と専守防衛の議論
海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」型は実質的にヘリコプター空母ですが、防衛省は新たな搭載機としてF-35B垂直離着陸戦闘機の運用が行えるかどうかの調査研究を行っている事が新たに分かりました。F-35Bの導入が現実のものとなった場合、海上自衛隊は空母に搭載する固定翼艦上機を初めて運用する事になります。そしてこれは憲法9条の理念である専守防衛に逸脱する攻撃的・侵略的な兵器かどうか、議論が始まっています。
攻撃型空母と防御型空母
航空母艦(空母)には攻撃型だけなく防御型に分類されるものもあります。現在では使われていない艦種区分ですが、過去には攻撃空母、対潜空母、護衛空母といった分類がありました。対潜空母や護衛空母は主に潜水艦対策で輸送船団の護衛を行う防御目的の空母です。日本政府が専守防衛の理念に関して過去の国会答弁で「攻撃型空母の保有は出来ない」として来たのは、逆を言えば対潜空母など防御型空母なら保有に問題無いとする意思表示だったのです。
攻撃機も防御的な役割で使用
過去のアメリカ海軍の対潜空母には対潜哨戒機や対潜ヘリコプターだけでなく、ジェット軽攻撃機A-4スカイホークも積んでいました。この軽攻撃機には空対空ミサイルを装備し、敵の長距離大型哨戒機を追い払う戦闘機としての役割を持たされていました。またイギリス海軍の小型空母に搭載されたハリアー垂直離着陸攻撃機は、フォークランド紛争で攻撃機としてだけではなく戦闘機として使用され艦隊防空任務に就いています。F-35B垂直離着陸戦闘機もこれらと同様に防御的な役割での運用を行えます。
日本政府は1989年の国会答弁で「対潜戦用のヘリ搭載空母、垂直離着機のみの搭載空母は、防衛計画大綱別表の対潜水上艦と考えられる」としており、これはハリアー搭載空母を想定していたと考えられます。
防御型空母であっても攻撃的な運用は可能
しかしアメリカ海軍はベトナム戦争で対潜空母に軽攻撃機を集中搭載し、対地空爆任務に投入した事があります。第二次世界大戦での護衛空母にしても、輸送船団に随伴する対潜護衛任務だけでなく、上陸作戦の支援に投入され対地空爆任務も行ってきました。近年でも湾岸戦争などで強襲揚陸艦がハリアー垂直離着陸攻撃機で空爆任務を実施しています。つまり艦種的には攻撃型空母でなくても、防御型の空母であっても運用次第で積極的な攻撃を実施する事は出来ます。このような運用の場合、専守防衛に逸脱した行為と見做され得るでしょう。
攻撃ヘリコプターでも空爆は可能
2011年のリビア空爆の際に、イギリス海軍とフランス海軍はヘリコプター空母として使える強襲揚陸艦で攻撃ヘリコプターを用いた空爆作戦を実施しています。ただし攻撃ヘリコプターだけで防空ミサイル網を潰しに行く事は無謀な行為なので、フランス海軍の正規空母やイタリアの地上基地から発進したジェット戦闘攻撃機で主要な目標を撃破した後の補助的な役割でした。
それでもヘリコプター空母と攻撃ヘリコプターの組み合わせで空爆は行えるという事になります。そして日本は既にヘリコプター空母を4隻保有しており、攻撃ヘリコプターを数十機保有しています。つまり日本は今直ぐにでも空母を用いた空爆が実施可能という事になります。なお海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」は既にAH-64アパッチ攻撃ヘリコプターの運用テストを済ませています。
専守防衛として許される線引きは?
海上自衛隊のヘリコプター護衛艦は実質的にヘリコプター空母です。つまり空母は既に保有済みであると考えるべきでしょう。その上で攻撃型空母は専守防衛の理念に反する憲法違反の存在で保有は許されないとするなら、一体何を以って攻撃型とするのか線引きを決めなければなりません。攻撃機を1機でも載せたら攻撃型であるとした場合、攻撃ヘリコプターを攻撃機として扱うと既に載せてしまっている事になります。ヘリコプターは問題無しとして固定翼機のF-35B戦闘機からは駄目だとするのか、あるいはF-35B戦闘機を防御的に使うなら問題無しとするのか、国会の場で積極的な議論が求められます。国民の理解を得ずになし崩しで計画が進むような事はあってはなりません。