北朝鮮「日本を核攻撃」等 17回も主張、民進・小西氏「安倍政権が危機招いた」―戦争回避の道は?
北朝鮮の核開発やミサイル実験に厳しい姿勢で臨むことで「強いリーダー」を演じる安倍晋三首相。だが、本来、米国と北朝鮮の対立である問題に、不用意に介入することで、かえって日本が戦争に巻き込まれるリスクが高まっている。
そうした安倍政権の姿勢を、小西洋之・参議院議員(民進党)は「米国に追従し、北朝鮮に日本攻撃の口実を与える亡国かつ売国の行為」と厳しく批判している。同議員に、いかに安倍政権の対北朝鮮政策が危険かについて、またその対案について聞いた。
〇「日本列島を丸ごと焦土化」日米共同訓練に憤る北朝鮮
小西議員は「実は、安倍政権以前には、北朝鮮が日本や日本国民そのものを攻撃すると発言したことは一度もありませんでした」、「しかし、トランプ大統領の軍事圧力を『日米は100%ともにある』とまで全面的に支持する安倍政権の姿勢や、違憲の安保法制による自衛隊と米軍の度重なる共同訓練などによって、北朝鮮側が日本を敵国扱いするようになってしまっているのです」と指摘する。
小西議員が防衛省に照会したところ、昨年3月から同11月にかけて、北朝鮮側は17回、日本への攻撃を示唆している。中でも小西議員が注目した北朝鮮側の変化が、昨年5月以降の主張だ。
小西議員は「それまでは、朝鮮戦争の時代から北朝鮮にとって脅威である在日米軍基地への攻撃を示唆する主張に止まっていたものが、日本という国自体への攻撃を明確に警告する主張になったのは、この時が初めてなのです」と眉間にしわを寄せる。
この北朝鮮側の変化に先立つ昨年3月、海上自衛隊の護衛艦は、米軍の原子力空母「カール・ビンソン」を中心とする部隊と東シナ海で、異例の共同訓練を行った。さらに、翌月の昨年4月も、海自と米軍の共同訓練が行われた。
小西議員は、緊密すぎる安倍首相とトランプ大統領の協力関係がいらないリスクを招いていると強調する。
「北朝鮮の核・ミサイル危機に対し、国際社会で経済圧力を掛けることは必要です。しかし、『全ての選択肢がテーブルの上にある』等と武力の行使を辞さない意思表明をしているトランプ大統領の米軍と、自衛隊とが北朝鮮の目の前で軍事訓練をすれば、日本は北朝鮮から敵国となってしまいます。また、米国と北朝鮮が戦争になった際に、日本も安保法制による集団的自衛権を行使して参戦してくるのではないかと、北朝鮮側は反発を強めているのでしょう」。
昨年4月以降も、自衛隊と米軍の共同訓練は毎月行われ、その度に北朝鮮側の主張もエスカレートしている。その一部を引用しよう。
これらの北朝鮮側の傾向から観ても、ひたすらトランプ政権に安倍政権が追従することは、むしろ北朝鮮の矛先を日本に向けさせていると言えよう。
〇安倍政権が招いた「北朝鮮の核・ミサイル攻撃の脅威」
そもそも、北朝鮮の核開発の動きが顕著となった原因は、米国のブッシュ政権による「悪の枢軸」との名指しの非難と、同じく名指しされたイラクが、大量破壊兵器の査察を受け入れたにもかかわらず、2003年3月に米国による先制攻撃を受けた、イラク戦争だ。つまり、北朝鮮が脅威としている国は米国であり、その米国に対抗するため、核とミサイルの開発・実験を繰り返しているのであって、当初、日本は北朝鮮の眼中になかった。
小西議員も「以前は、北朝鮮が日本を攻撃しても、何のメリットもなかったでしょう」と言う。「専守防衛の自衛隊は北朝鮮に侵攻するための装備や兵力は有していないから軍事的な脅威ではなかった。何よりも、平和国家である日本を攻撃したら、国際的な批判を浴び、強力な制裁で国家が崩壊するだけです」。
だが、そうした日本と北朝鮮の関係は、上述のように、安倍政権の下で大きく変わった。
「これは、安倍政権がつくりだした『国難』であり、安倍総理自身が『国難』となっています」(小西議員)。
〇主権外交で日本を守れ
北朝鮮の核・ミサイルの脅威から、日本を守るためには何をすべきなのか。小西議員は「米軍と軍事行使で一体化しない主権外交です」と語る。
「既に述べさせていただいたように、米軍への自衛隊の軍事支援が、北朝鮮が日本を攻撃するリスクを招いています。ただちに、共同訓練を取りやめ、自衛隊は米軍を守る集団的自衛権を行使しないことを明言し、米国と北朝鮮双方に自制を求める必要があります」(同)。
米空軍のゴールドフィン参謀総長は、昨年4月15日にツイッターへ、嘉手納基地に集結した戦闘機の写真と共に「戦闘態勢だ!」と挑発的な投稿をした。
「しかしそれでも、もし戦争が起きれば、嘉手納や岩国の飛行場などの在日米軍基地は北朝鮮からの攻撃対象になります。したがって、『在日米軍基地を用いて米国が戦争をする際には事前に日本政府の同意を取る』という日米安保条約の取り決めに基づき、日本が決して戦争に巻き込まれないよう徹底した協議を、米国に対して行う必要があります。私の国会での追及に対し安倍政権はこうした米国との必死の協議を何ら行っていないことが明らかになっています。これは、米軍との一体化によって緊張を高めておきながら日本国民が戦争に巻き込まれるのを黙殺しているに等しい暴挙です」(小西議員)。
確かに、日本が集団的自衛権行使などを行わず、在日米軍が朝鮮半島での戦争に直接参加しないとなれば、北朝鮮が日本を攻撃する口実を失わせることができる。
○安保法制を廃止しても日米同盟は崩壊しない
他方、米国の戦争に協力しなくては、日本が攻撃された際に米国から守ってもらえない、日米同盟が崩壊するとの主張も根強くある。こうした主張に対し、小西議員は次のように反論する。
「安保法制がなくとも日米同盟は絶対に崩壊しません。理由は二つあります。一つは、そもそも、日米安保条約第3条で日本は米国のための集団的自衛権行使が法的に免責されているからです。米国はNATOや韓国などと全て同じ内容の同盟条約を結んでいますが、日米安保第3条においては集団的自衛権行使を意味する「共同」「集団的」などの文言を削除し、代わりに『憲法上の規定に従うことを条件として』と定めて、日本が集団的自衛権を行使する必要ないということを明文化しているのです」
「日米同盟が崩壊しない二つ目の理由は、日米同盟は米国にとっても世界で最も重要で死活的な同盟であるからです。米国が軍事面で超大国である上で欠かせない存在が、西太平洋から南シナ海、インド洋、さらには中東湾岸へまで活動範囲を広げる空母機動部隊の第七艦隊。この第七艦隊の拠点・横須賀基地がなければ、米国は一気にハワイまで退き、これらの海域を中国やロシアに明け渡すことになります。しかも、日本にある多くの在日米軍基地を守る役割は自衛隊が担っているのです。在日米軍による住民被害などについては、現在のままで良いわけではなく、対応していく必要があると私も考えておりますが、米国の世界戦略の中での日本の重要性から言えば、安倍首相らの『対米協力しなければ日本は見捨てられる』という脅しは全く根拠のないものです」(同)。
小西議員は、「実は、これも私が国会答弁で明らかにしていますが、これまで米国政府として、日本に対して憲法を変えて集団的自衛権行使をしてくれと要請したことは一度もありません」と言う。「昨年の訪日時のトランプ大統領の『在日米軍を駐留させてくれてありがとう』こそが米国政府の一貫した本音なのです。つまり、安保法制は憲法にも日米安保条約にも反する、究極の売国法というべきものなのです」(同)。
〇米国ファーストではなく、日本の平和と安全を守れ
北朝鮮の核開発やミサイル実験をやめさせるためには、どうしたらよいのか。
「北朝鮮が米国を脅威として怖れ、対抗手段として核やミサイル開発を行っているという経緯から考えて、軍事的・経済的な圧力だけで核やミサイルを放棄させることは難しいでしょうね。やはり、何らかの協議を行うべきでしょう。北朝鮮と米国だけでなく、韓国や中国、ロシアも巻き込んで、互いに攻撃しないという合意を形成していき、それと同時に北朝鮮に核やミサイルを放棄させていくことが必要なのではないか、と思います。しかし、日本がこうした役割を主体的に担うことが、安倍政権によって困難となっていることに強い危機感を持っています」(小西議員)。
「私としても、北朝鮮の核・ミサイル開発は国連安保理決議への違反であり絶対に容認されるものでないと考えます。必要な自衛隊のミサイル防衛力の増強も行うべきとの考えです。ただ、日本や韓国が被るだろう被害が大きすぎることからも、武力で北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止する、あるいは北朝鮮の政権を倒すという選択は現実的でないと思います。とにかく、政治家は武力以外のあらゆる解決策を懸命に追求しつつも、日本が戦争に巻き込まれることだけは絶対に避けるようにしないといけません。安倍政権のやっていることは、国益を捨てて、ただただ米国に追従し、国民を危機にさらし、危機を煽ることで自分の政治権力を維持しようという、政治家が一番やってはいけないことです」(同)。
森友・加計問題や自衛隊南スーダン派遣文書隠ぺいなど、様々なスキャンダルにもかかわらず、安倍政権が支持率を維持している理由の一つとして、「北朝鮮に厳しい姿勢で臨むリーダー」との演出があるだろう。自民党が議席を維持した昨年秋の衆院選後、麻生太郎副総理兼財務相は「北朝鮮のおかげ」と発言した。だが、対話無き圧力の先に一体何があるのか。米ジョンズ・ホプキンス大学のプロジェクトチーム「38NORTH」の分析によれば、「ソウルと東京に複数の核兵器が使用された場合、少なくとも210万人が死亡、770万人の負傷が想定される」という。政治家達は勿論のこと、日本のメディアや有権者も、憎悪や恐怖に踊らされるのではなく、この間の経緯や現在の状況を直視した、理詰めの対応を考えていく必要があるのだろう。
(了)