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「キミの間で発砲してください」。小沢和義が明かす兄以外の“もう一人の恩人”

中西正男芸能記者
兄・小沢仁志、そして、もう一人の恩人への思いを語る小沢和義

 Vシネマから朝ドラまで幅広いフィールドで存在感を見せる俳優の小沢和義さん(55)。“顔面凶器”と呼ばれる俳優・小沢仁志さんを兄に持ち「40代までは殴り合いのケンカをしてましたけど、僕の全敗です」と苛烈な兄弟関係を語りつつ「兄貴がいないと今の自分はありません」と言葉に力を込めます。そして、兄以外のもう一人の恩人についても溢れる思いを語りました。

「キミの間で発砲してください」

 50代も半ばになってきましたけど、20代の頃はそれこそガムシャラでした。とにかく芝居に入り込んで、常にフルパワー。それってね、ものすごく体力を使うんです。

 しかも、自分の中では「これ以上ない」というところまでやっても、日々ダメ出しを食らう。極限までやってるという思いがあるからこそ、そのダメ出しは余計にズッシリくるというか。その葛藤が繰り返される日々でもありました。

 そんな中、ビートたけしさんが北野武として監督された最初の映画「その男凶暴につき」(89年)に出演することになったんです。寺島進さんと僕と佐久間哲がチンピラ3人組みたいな役柄でした。

 現場の緊張感はすごかった。でも、空気が一つになっていて、すごく透き通っていると言いますか。緊張感はあるんだけど、とても、とても、やりやすい。それは監督がお作りになっていたものだと思うんですけど、不思議な感覚でした。

 撮影が進んでいき、佐久間哲が撃たれる場面が来ました。そのシーン、僕は映ってないんですけど、彼とは私生活でも仲が良かったので、変な言い方ですけど、なんだか本当に友だちが撃たれたみたいな気持ちになりまして。自然に涙が出てきたんです。

 それを監督がご覧になってて「次のシーン、撃つまで何分かかってもいいから、キミの間(ま)で拳銃を発砲してください」とおっしゃったんです。

 実際、そのシーンになって、役として葛藤を重ねた結果、カメラの前で1分くらい逡巡した末に撃ったんです。

 役者がカメラの前で1分間、間を取るというのはなかなかありません。しかも、当時はフィルムです。ワンカットの重みが今よりあった。凄まじい緊張感でしたし、戸惑いもありましたけど、それでオッケーが出ました。

 ただ、撃つまでがあまりにも長いし、当然、編集でカットされるんだろうなと思ってたら、そのまま使われてたんです。しかも、そのシーンを監督がすごく誉めていただきまして。たけしさんらしく「よく頑張ったで賞」みたいな賞をわざわざ目録パネルまで作って(笑)、頂戴しました。

 これは多分に感覚的な話になりますけど、芝居に対してグワーッと作っていくのではなく、スッと入る。そういうきっかけをたけしさんがくださいました。この“スッ”というのは、自分ではなかなかできない。でも、たけしさんの導きで初めてできた。これは自分の中でとても大きな経験でした。

「お前には雰囲気がない」

 あと、やっぱり大きいのはウチの兄(小沢仁志)ですね。兄はたけしさんみたいな寄り添うような形ではなく、思いっきり叩きのめしてきますけど(笑)。

 「その男凶暴につき」の後、兄貴が監督した映画「SCORE2 THE BIG FIGHT」(1999年)を撮ったんですけど、その時にはボロボロにされました。「お前には雰囲気というものがない。今回は雰囲気をつけるために徹底的にしごく」と言われまして。

 例えば、カメラに背中を向けたまま鳴っている電話を取るという場面だったんですけど、そのシーンだけでも16回やり直しました。「背中に雰囲気がない」と。

 17回目でOKが出たんですけど、やっているうちに自分の中でも本当に分からなくなってきて。いったい、何が正解なのか。雰囲気とは何なのか。それはどうやったら出るものなのか…。結局、16回目と17回目で何が違ったのか、今でも分かりません。兄貴からも、そのあたりの説明や種明かしはありません。だからこそ、ずっと自分の中で考え続ける。そういう部分はありますね。

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折れた鼻を自分で治す

 兄貴が小学2年くらいまでは、むしろ、僕が守っていた側で、兄貴をいじめたヤツを蹴り飛ばしに行ったりもしてたんです。ただ、いつからか関係が変わってきまして。これまで数えきれないくらいケンカをしてきましたけど、一度も勝ったことはない。僕の全敗です。

 中学の頃からケンカが本格的になってきて、高校、そして、役者になってからも体力がつくに連れ、派手になっていきましたね(笑)。20代の頃は実家に一緒に住んでた時期もありまして、その頃が一番多かったです。

 理由は本当にくだらないことなんです。意見の相違みたいに言えばそれっぽく聞こえますけど、本当にくだらないこと。先輩に対する口のきき方がなってないとか。それに僕が言い返したら、もうパンチが飛んできてますから。僕も返すし。

 兄貴としたら礼儀を教えていたつもりだったんでしょうけど、月に一回はしっかりとした殴り合いがありました。ただね、マジのケンカなので、これより頻度が上がると、さすがに体がもたない(笑)。それは互いに分かっていたのかなとも思います。

 一番大きいというか、周りを巻き込んでしまったのは、それも20代の頃。当時は兄弟で同じ芸能事務所にいて、その事務所の忘年会があったんです。酔っぱらった僕がトイレでつまずいちゃった。バランスを崩しかけて壁に手をついた時に、壁が壊れてしまったんです。

 そこに店員さんが来て、壁を壊したということで「何してんだ、てめぇ!」みたいな感じで怒鳴られたんです。こちらはあくまでも不可抗力というか「いや、転びかけたもんで…」と話したんですけど、それでもさらに怒鳴られたので、こちらもカッとなって。店員さんにガツンといっちゃったんです。

 じゃ、そこに兄貴が飛んできて、何も聞かずにオレをぶっ飛ばして。そこからは店員さんは関係なく、兄弟のケンカです。結果、壁どころかトイレ全体がボロボロに壊れて、水道管から水が噴き出してました。二人そろって謹慎になりました。

 鼻を折られたことも何度もありました。いつだったか、撮影前日に顔面を蹴られて、鼻が折れて曲がったのを何とか自分で治して現場に行くようなこともありました。

 自分で治したといっても、鼻は腫れあがってますからね。兄貴も同じ現場だから、僕の顔を見ながら「ガイジンみたいでいいじゃねぇか」と言ってきて。そこでまたケンカになりかけるんですけど、監督はひたすら頭を抱えてました。「とにかく、撮影前日に顔面は蹴らないでください」と…。監督のおっしゃる通り、シンプルすぎる正論です(笑)。

 40代までは殴り合いもありましたけど、今はさすがになくなりました。ま、そういう感じの兄弟なので、面と向かって、兄貴がオレにアドバイスをするとか、誉めるということはないんですけど、しょっちゅう一緒に飲んでます。

 今、僕が役者としてできているのは、兄がいたからです。それは間違いないです。本当に、心底そう思っています。バラエティーに出してもらったりするのは、完全に“兄貴の七光り”ですしね。以前、番組で兄弟漫才もさせてもらいましたけど、あれは本当に楽しかったです。

 人づてに聞くと、最近は僕の居ないところでは誉めてくれてるみたいなんですけどね。「オレより、カズの方が芝居は上手い」と。ただ、すぐさま「ま、雰囲気はオレの方があるけどね」と必ず付け加えてるらしいです(笑)。

(撮影・中西正男)

■小沢和義(おざわ・かずよし)

1964年12月23日生まれ。東京都出身。ギャッツビーエンタテインメント所属。身長181cm。 Vシネマ映画などに出演多数。実兄は俳優の小沢仁志で、多くの共演作も残す。ディズニー好き、ラーメン好きとしても知られる。出演映画「東京ドラゴン飯店」が今秋公開予定。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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