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「この『罪』の罪滅ぼしはできない」。村本大輔がニューヨークで向き合う「罪」と定めた覚悟

中西正男芸能記者
2月からニューヨークを拠点にしている村本大輔さん(写真は全て所属事務所提供)

 今年2月、活動拠点を日本からニューヨークに移した漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔さん(44)。スタンダップコメディーの本場で英語ネタで勝負する日々を送っていますが、常に頭にあるのは「罪」の一文字だと明かします。「罪」と向き合う中で定めた覚悟とは。

悔しさともどかしさ

 2月からニューヨークが拠点になりました。

 日々のルーティンで言うと、朝8時ごろに起きて、カフェで昼までにネタを作る。それをGoogleとかChatGPTとかで英訳して、午後4時ごろから営業前の劇場、7時ごろからはカフェ、11時ごろからは雑多なバーのステージに立って試す。

 舞台に出ると言っても、この3つの場所はお金を払えば誰でも出られるオープンイベントで、午後4時からの劇場にはほとんどお客さんもおらず、参加者のコメディアンが4人ほど客席にいるだけ。そんな中でネタをやっています。

 言葉の壁があるなんてことはもちろん分かっていたんですけど、面白いネタを考えても発音とかで詰まっちゃうと、オチの前に展開が読まれる。日本語ならネタの核になりそうなことだけを頭に入れて舞台に出て、あとは漫才の中で肉をつけていくなんてことも日常的にやっていたんですけど、今は全て英訳しないとダメ。なので、まず全部をノートに書くところから始まるんです。そうなると、どうしても“書いたネタ”になってしまう。幾重にももどかしさや悔しさを感じています。

 ただ、良い意味ですごく変わったと感じるところもあります。日本にいた頃は人からの見られ方をすごく気にするタイプで、道を歩いていても大きなストレスになっていた。一方、ニューヨークでは僕のことを誰も知りません。

 劇場から出てくるお客さんを外で出待ちして「この劇場に出ているコメディアンとオレのネタを見比べて、どこがどう違うか教えてほしい」と尋ねたり、お金をくれと言ってくるホームレスの人にお金を渡すかわりに5ドル渡したり。夢を見ている時って「あ、これって夢だから現実世界じゃないし、好き勝手できる」と思うことが僕はあったりするんですけど、それに近いというか。

相方への思い

 ただ、相方の中川パラダイスを含め、周りに対しては本当にいろいろなことを思いもします。

 この前、スタンダップコメディーよりも漫才のほうが向いているようなネタができたので、一回これをパラダイスと合わせてみようかと思って連絡をしたんです。

 今、あいつは鳥居みゆきとユニット的なことをやっていて「夜ちょっとネタ合わせをしないか」といったら「鳥居に申し訳ないからごめん…」と言われまして。浮気相手にズバッと言うみたいな感じで。お前、女遊びしてるくせによく言うなと思いましたけど(笑)、確かに都合よくパラダイスを使っているのかなとそこで気づかされもしました。

 パラダイスからしたら、僕の都合で日本から出ていったのに、都合の良い時だけ声をかけられるというのは決して気分の良いものではないんだろうなと。その時に改めて退路がないことを感じました。良いネタを作らないとダメだし、もっとシャキッとしないといけないんだと。

 他のコンビは二人そろってYouTubeチャンネルとかをやっている中、僕は勝手に動いている。パラダイスはね、実は男気があるというか、そういうところをチクチク言ったりする人間ではないんですけど、だからこそ、自分がきちんと結果を出すしかない。当たり前のことを噛みしめました。

 僕は10人と解散して11人目に組んだのがパラダイスでした。漫才をする相手はパラダイスしかいないと思ってもいます。その漫才も、結局は自分が描きたい絵を描くことをパラダイスに協力してもらっていた。そんな漫才だった。コンビというところでも、いろいろと感じることがありましたね。ニューヨークに来て。

「罪」の意識

 ニューヨークに来て、ずっと頭の中にある文字が「罪」なんです。「ウーマンラッシュアワー」にしても自分の勝手でパラダイスを置いて来た。プライベートでは父親が亡くなって、その中で長男の自分が歳を取った母親に心配をかけながら貯金を崩して好きなことをやっている。バーのライブでスベって、泥酔して、何もせずに翌日昼まで寝てしまう。お金を節約しないといけないのに、高い洋服を買ってしまう。全てに「罪」を感じるんです。人に心配をかけているという「罪」を。

 でも、それと同時に日本にずっといたら良くなかった。これも強く思うんです。吉本興業の劇場で定期的に出番をもらって、それなりの出番順で出してもらって、安定した収入を得る。あまり大きな変化がないまま50歳、60歳を迎える。それは本当に怖いことだし、どうなるか分からないけれど変化のために外に出た。そこに後悔はないんです。

 朝から新宿のルミネtheよしもとの下に集められてみんなでバスに乗ってお笑いまつり的なイベントに行く。テレビ番組に出て、たくさんいる出演者の一人として役割を全うする。吉本興業をまわすための、テレビをまわすための、誰かの何かを成立させるために自分が消費されている。全てにおいてそんな気がしていたんですけど、今は誰のためでもなく自分の芸のために全てが動いている。余計なものがなくて、クリアで、本当に難しい中ですけど、今のほうが良いネタは作れそうな気がしているんです。

 …何をしたら罪滅ぼしになるんでしょうね。でもね、この罪は滅ぼせないというか、背負って走るものなんだと思っています。

 パラダイスの子どもにもコンビとしての最後のライブで「パパは一人じゃダメだから、いつか戻ってきてください」と言われました。結局、自分の芸のためにみんなを犠牲にしている。常に「すみません」という気持ちはあるんです。でも、罪滅ぼしはできない。本当に面白い、本当に作りたいものを作る。そこまで「罪」を背負って走るしかないなと。ただただ、本当にそう思います。

 なんかね、パラダイスはパラダイスで新宿・歌舞伎町でガールズバーをやるみたいな話も聞こえてきまして、そこから僕とは違う意味の「罪」につながらなければいいなとは思っているんですけど(笑)、とにかく僕は僕で答えを出すしかないですから。その日が来るよう、積み重ねるのみです。

■村本大輔(むらもと・だいすけ)

1980年11月25日生まれ。福井県出身。99年、22期生としてNSC大阪校に入学。同期は「キングコング」、山里亮太、「ダイアン」ら。コンビ解散を10回以上繰り返し、2008年にNSCの1期後輩にあたる中川パラダイスと漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成する。コンビとしてABCお笑い新人グランプリ最優秀新人賞など受賞多数。「THE MANZAI2013」で優勝し、一躍全国区の存在になる。自身の考えをストレートかつスピーディーに届ける独演会が話題となり、テレビよりも舞台での活動が軸となっていく。今年2月、ニューヨークに拠点を移し、日々ステージに立つ生活を送っている。12月20日には渡米後初のイベント「Call me the GOAT atニッショーホール」を東京・ニッショーホールで行う。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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