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【スピードスケート】withコロナのシーズンイン。小平奈緒、高木美帆の状態は?~今季を展望する

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
20年世界スプリント選手権でも優勝争いを演じた小平奈緒(左)と高木美帆(写真:ロイター/アフロ)

 スピードスケートのシーズン開幕を告げる「全日本スピードスケート距離別選手権」は10月23日に開幕し、25日まで3日間にわたって行われる。

 会場は長野市エムウエーブ。コロナ禍のオフシーズンを過ごしてきた中、女子の小平奈緒(相澤病院)、高木美帆(日本体育大学)、男子の新濱立也(高崎健康福祉大学)、村上右磨(高堂建設)ら主力たちは現在、どのような状態にあるのだろうか。また、新戦力の台頭はあるか。

 1976年インスブルック五輪、80年レークプラシッド五輪出場の川原正行氏(帯広スケート連盟競技役員)に展望してもらった。

■女子短距離:台頭が期待される稲川くるみ

 今季は本来ならば北京五輪のプレシーズンということで、五輪出場枠の獲得にもかかわる厳しい国際レースが繰り広げられるはずだった。ところが、20年2月下旬から本格化した新型コロナウイルス感染症問題は収束が見えず、国際スケート連盟は20-21シーズンについて年内のワールドカップをはじめ、多くの国際大会のキャンセルを決めている。

 川原氏は、「国際大会のスケジュールが不透明なため、特にベテラン選手はモチベーションを上げにくいだろう」と分析する。

 ただ、日本の国内大会は行われる予定になっており、選手たちも大会に向かって調整を続けてきた。10月に入ってからのタイムトライアルの様子から見えるのは、女子500mは小平がトップに君臨している状況に変化はなく、2番手に郷亜里砂(イヨテツクラブ)が続いている。ただ、小平と2番手以下の差は縮まっているという。

 ここで川原氏が注目しているのが3番手に割って入りそうな稲川くるみ(大東文化大3年)だ。

 稲川は身長167センチ。日本人の中では恵まれた体格の持ち主だ。元々、スタートから100メートルのスピードはあったが、スケートを滑らせる技術が足りず、走りすぎてしまうという弱点があった。しかし、今季は技術が上がった。川原氏は「以前より姿勢が低くなり、大きな体をうまく使えるようになっている。特にコーナーがうまくなった。1000mのタイムが上がっており、後半に伸びるようになっているので、500mのタイム短縮につながっている」と評価している。

 4番手争いが見込まれるのは日本代表歴10年以上の辻麻希(開西病院)や信州大卒で社会人1年目の山田梨央(直富商事)。川原氏は「ベテランの辻の踏ん張りに期待したい」とエールを送る。

■男子短距離:新濱&村上の二枚看板バトルから、松井大和を含めた三つ巴の争いへ

 一昨年シーズンから世界の上位陣と互角に戦えるようになってきた男子短距離陣。昨シーズンは新濱と村上の「二枚看板」が国際大会でロシア勢らとトップ争いを繰り広げ、タイム的にも世界記録争いに加わる充実のパフォーマンスを見せた。

 新濱と村上のダブルエースが安定して力を見せるであろう今季、川原氏が成長ぶりに太鼓判を押しているのが、日大卒で社会人1年目の松井大和(シリウス)だ。

 この3人のタイムトライアルでの記録は34秒6~8。川原氏は「現時点で松井は男子500mの3番手だが、新濱や村上に肉薄してきた」と見ており、男子500mは三つ巴の争いとなりそうだ。また、長谷川翼(日本電産サンキョー)も一発の強さがある。

20年2月、松井大和の1000mのコーナーワーク(撮影:矢内由美子))
20年2月、松井大和の1000mのコーナーワーク(撮影:矢内由美子))

■女子長距離:高校2年生の堀川桃香が台風の目。3季ぶり復帰の押切美沙紀も

 女子の長距離では、平昌五輪の後に休養していた押切美沙紀(富士急行)が3年ぶりにこの大会にエントリーした。

 押切は17-18シーズン、負傷や体調不良を乗り越えて平昌五輪出場。ここ2シーズンはナショナルチームでの活動から離れてけがを癒し、今季からナショナルチームでの練習を再開していた。

 今回は強化部追加推薦で3種目にエントリー。川原氏は「春先の陸上トレーニングではきつそうだったが、氷上では強さを見せている。滑りは以前と変わらない」と語っており、上位入りが期待されるという。

 若手には勢い満点の注目株がいる。帯広の名門・白樺学園高校2年の堀川桃香だ。昨季の世界ジュニア選手権は、高1ながら1500m4位、3000m2位、チームパシュート2位。今月上旬に帯広で行ったタイムトライアルでは、1500mですでに昨季までの自己ベストである2分2秒01を超える2分1秒台を出しており、期待が高い。

「昨季の世界ジュニアでメダルを取って、自信を持ったのだろう。若いためまだ体は絞れていないが、今年はスピードがついた。今までにいないタイプで独特な滑りをする選手。特に300-700メートルのラップが上がっている。かなり活躍できるだろう」(川原氏)

 1500mには世界記録保持者の高木美帆や小平奈緒、さらには高木奈那(日本電産サンキョー)もいる。表彰台に食い込めば快挙となる。

 その高木美帆だが、今夏は別メニュー調整を続けていたという。川原氏は「心配もあったが氷上に乗ると1000mも1500mもやはり速い」と話す。長距離は佐藤綾乃(ANA)や高木奈那も含めて混戦予想。誰が表彰台に上がるか。

■やや活気不足? の長距離男子

 昨シーズン、世界上位に手の届く好成績を連発した男子長距離。短距離から長距離の4種目総合で争う「世界スピードスケート選手権オールラウンド部門」で、日本男子として23年ぶりの表彰台となる銅メダルを獲得した一戸誠太郎(ANA)や、世界距離別選手権の1万mで日本新記録を樹立して5位入賞を果たした土屋良輔(メモリード)の活躍は、男女の全部門で日本が世界と渡り合えるようになったことを示す画期的なものだった。

 ただ、川原氏によれば今季はスロースタートになりそうだという。ナショナルチームの練習でも1周のラップが昨年の同時期と比べて遅くなっているという。

「力はあるはずなので、ここからどう上げてくるか。長距離は今のところ、土屋良輔と土屋陸(日本電産サンキョー)、伊藤貴裕(同)、大林昌仁(福井県スポーツ協会)、小川拓朗(栃木県スポーツ協会)が上位だろう。一戸の動きはまだ悪いが、彼は本番に強い選手なので、ここから上がってくるのではないか」(川原氏)

20年世界距離別選手権男子チームパシュートで銀メダルを獲得。左から土屋陸、ウイリアムソン師円、一戸誠太郎(撮影:矢内由美子)
20年世界距離別選手権男子チームパシュートで銀メダルを獲得。左から土屋陸、ウイリアムソン師円、一戸誠太郎(撮影:矢内由美子)

 男子では、今季から信州大学の結城匡啓チームと一緒に練習している近藤太郎(ANAAS)にも注目。また、山田将矢(日本電産サンキョー)と新濱の1000mの争いも見逃せない。

■モチベーションの持ち方が難しいシーズン、だからこそプラスに作用する部分もある

 前述の通り、今季はISU主催大会がのきなみ中止になっている。22年2月にある北京五輪のプレ大会と位置付けられている「世界距離別選手権」は今のところ予定通りに北京で行われることになっているが、その大会の出場資格を割り当てるレースがどうなるのかが不透明な状況だ。

 また、選手の大きなモチベーションである「世界記録」の目標に関しては、今季は高速リンクでの試合がなくなったため、記録更新が難しくなっている。ただ、この状況は決して悲観的なことばかりではないと川原氏は言う。

「世界記録を目指すには厳しいシーズンになるが、逆に今年は力を蓄え、気力をため込むシーズンにできる。来年の五輪シーズンにガツンと行くためには、良い傾向だと思う。特に、ここ数年疲れが見えていた高木美帆にとってはプラスに働くのではないか。小平もそうだが、順位に一喜一憂する必要はない」

 今季は有観客の試合でも入場者数には制限があり、スタンドから大きな声での応援ができない。しかし、通常ならば全日本距離別選手権の後は主力選手はワールドカップ転戦のため海外に向かうが、今季は「ジャパンカップ」を転戦するというので、トップ選手を生で見られる機会は増えそうだ。

 実力を精一杯発揮することに全力を尽くす選手たちに注目だ。

20年カルガリーワールドカップで優勝した小平奈緒(中央)の実力は折り紙付きだ(撮影:矢内由美子)
20年カルガリーワールドカップで優勝した小平奈緒(中央)の実力は折り紙付きだ(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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