2018年のハリウッド:アメリカで本当に儲かった映画
今年もいよいよ終わりが近づいた。今年はすでに北米興行収入が117億ドルに達成しており、最終的には昨年を9%上回ると見られている。数字が落ち込んだ昨年は、「人はもう映画館に行かないのだろうか」と関係者を不安にさせたものだが、見たいものがあれば人はやってくるのだということを、あらためて証明した形だ。
今年、北米で最も大きな数字を挙げた作品は「ブラックパンサー」で、7億ドル。2位は「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」の6億7,800万ドルだった。一般観客にはまだ馴染みの薄かった黒人のスーパーヒーローたちが、すでに有名なヒーローを勢ぞろいさせた「アベンジャーズ〜」に勝ってみせたというのは、相当にすごい。3位は「インクレディブル・ファミリー」の6億850万ドル。トップ3作品はマーベルとピクサーで、あいかわらずディズニーのひとり勝ちである。4位以下は「ジュラシック・ワールド:炎の王国」「デッドプール2」「グリンチ」「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」「アントマン&ワスプ」「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」「ヴェノム」の順で続く。
しかし、表面的には大成功していても、実はそうでもないということもある。これら10位内にランキングした作品は、「グリンチ」を除けばすベて予算1億ドル以上の超大作で、見返りも大きい代わりに投資も大きかったのだ。たとえば9位の「ハン・ソロ〜」は、撮影中の監督交代劇で製作予算が膨らみすぎてしまったこともあり、実際には赤字だった。また、「〜炎の王国」の4億1,600万ドルは立派だが、3年前の「ジュラシック・ワールド」の6億5,200万ドルに比べると落ち込んでいる。トップ3作品も2億ドル前後(『〜インフィニティ・ウォー』は3億ドルあたりと言われる)の製作費と、さらに莫大な宣伝費がかかっているが、北米だけで6億、7億ドル規模を稼げば、文句はない。だが、利益率で見るなら、同じくらい、あるいはもっと儲かった映画もあった。
一番の例は、「ハロウィン」(来年4月日本公開予定)だろう。低予算ホラーの王ジェイソン・ブラムが製作した今作の製作費は、彼にしては太っ腹な、それでもメジャースタジオでは低い、1,000万ドル。結果は、1億5,900万ドルを売り上げる大ヒットだった。単なる数字以外に、40年前に始まったシリーズに新たな息吹を与えたという意味も大きい。もともと、安く作れることからホラーはスマッシュヒットを出しやすく、今年もほかに1,700万ドルの予算で作られた「クワイエット・プレイス」が1億7,400万ドル、予算2,200万ドルの「死霊館のシスター」が1億1,700万ドルを売り上げている。
メジャースタジオがビッグスクリーンで見応えのあるスーパーヒーロー物やアクション映画にますます重点を置き、ロマンチックコメディや大人のドラマはNetflixやケーブルチャンネルに流れる中、今年はまた、これらのジャンルが力を発揮した年でもあった。その代表は、「クレイジー・リッチ!」だ。恋人が大金持ちだったとわかったはいいが彼のママは自分が嫌いという、よくある話で、キャストは全員アジア系。原作が売れていたとは言え、当然のことながらスタジオは3,000万ドルという無難な額に抑えて作らせたところ、1億7,400万ドルという、予想を大きく上回るヒットを達成してみせたのである。今作は、今年の北米興収ランキングで14位。トップ15作品の中では、12位の「クワイエット・プレイス」の次に予算が低い。
一方、大人のドラマでは、「ボヘミアン・ラプソディ」「アリー/スター誕生」の音楽関連映画がいずれも観客に温かく迎えられた。製作予算は「ボヘミアン〜」が5,200万ドル、「アリー〜」が3,600万ドル。現在までの北米興収はそれぞれ1億8,700万ドルと2億ドル。年間ランキングでは「ボヘミアン〜」が13位、「アリー〜」が11位だ。どちらもたっぷり儲かっているが、「ボヘミアン〜」の場合はさらに外国で強く、北米外で4億8,200万ドルを売り上げている。逆に「アリー〜」の北米外の売り上げは、北米興収より劣る1億8,200万ドルだった。
ほかには、「Book Club(日本未公開)」も特筆すべきだろう。ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェンという、平均年齢72.5歳の女優4人が主演するこのロマンチックコメディは、1,000万ドルで製作され、北米だけで6,800万ドルを売り上げたのである。かつて、ハリウッド女優の賞味期限は30歳だとか40歳だとか言われたものだが、必ずしもそうとはかぎらないということだ。高齢化が進み、年配女性の市場が拡大していく中、これらベテラン女優の集客力を、見くびってはいけないのである。