Yahoo!ニュース

高額で抽選販売と思われがちな23区内タワマン、6800万円で先着順販売の2LD・Kも

櫻井幸雄住宅評論家
先着順販売住戸がある「シティタワー新宿」で、実際の住戸からの眺望を筆者撮影

 6月6日に駅近の注目物件「ブリリアタワー千葉」で3700万円台1LDKが先着順販売開始の記事(有料記事)を出したところ、想像以上の反響があった。

 「そんな販売が行われることを知らなかった」というのだ。

 首都圏の新築マンションは平均価格が1億円近くまで上がったというニュースが昨年末から何度も繰り返されている。価格が高騰しているのに、抽選に当たらないと買えない、とも。「高くなって、買いにくい」では、もう買う気が失せる、との声が聞こえてくる状況だ。

 ところが、実際には、そこまで高額ではなく、しかも先着順で購入できるタワマンが想像される以上に多く、東京23区内でもみつけることができる。

 具体的に、どんなタワマンで、どんな住戸が先着順で購入できるのか。今すぐ購入できる先着順販売のタワマンを東京23区内で探してみた。

約38平米の1LD・Kが6800万円から

 たとえば、都心湾岸エリアの「シティタワーズ東京ベイ」は建物が完成し、実際に住んでいる人もいるのだが、今も新規販売が継続的に行われている。6月10日時点で先着順で購入可能だった住戸の価格は約38平米〜約82平米の1LD・K〜3LD・Kが6800万円から1億6500万円というものだった。

 同マンションは地上32階建てと地上33階建ての3棟構成で、総戸数は1500戸を超える。大規模を通り越してメガ規模となるため、すでに中古で売り出されている住戸もある。

 中古の売り出し価格をみると、約54平米の2LDKで8980万円、約71平米の3LDKで1億4000万円など。新築で販売されている住戸とは専有面積が異なるし、何階で、どの向きかによっても価格が大きく変わるため、単純な比較はできない。が、新築と中古で価格水準は大きく変わらない印象を受ける。

 つまり、新築未入居の住戸が中古と大差ない6800万円から1億6500万円で購入可能になっているわけだ。

先着順販売は、高額住戸だけのケースも

 東京23区内で、建物が完成済み、もしくは完成間近で先着順販売されているタワマン住戸は他にもある。

 たとえば、東京都江戸川区の「プラウドタワー平井」は、JR総武線平井駅から徒歩2分となる大規模複合再開発によるマンションで、総戸数は374戸。2年ほど前に大人気で販売された記憶があったが、今年11月の建物完成を控えた今、先着順で販売中の住戸が2戸あった。いずれも上層階プレミアムフロアでも特に広い約120平米の住戸であるため、販売価格は2戸ともに2億円を超える。

 東京都北区の「THE TOWER JUJO(ザ・タワー十条)」は、JR埼京線十条駅から徒歩1分に建設されている駅前複合再開発のマンションで、総戸数は578戸。その建物は今年9月末に完成する予定なのだが、ここでも先着順販売されている住戸がある。それは約93平米〜107平米の大型住戸で、価格は2億5800万円〜3億2000万円だ。

 以上2物件は、先着順で購入できるものの、2億円を超えるので、購入できる人は限られるだろう。

 その点、東京都足立区の「シティタワー千住大橋」ならば、価格が抑えられる。来年5月に建物完成予定で、約54平米〜75平米と標準的な広さの2LD・K、3LD・Kが6800万円から1億2800万円で先着順販売中だ。

 2LD・Kで6800万円という住戸が先着順で購入できるのだ。

 このほか、建物が完成してから販売を開始した「シティタワー新宿」では、約35平米〜83平米の1LD・K〜3LD・Kが8000万円から2億3000万円で販売中。このように、先着順販売が行われている23区内のタワマンは少なくなく、そのなかには、1億円を切る価格水準の住戸も多いのだ。

 その背景として、「建物が完成しても販売を継続する」マンションの評価が変わってきたことを挙げるべきだろう。

都心部で広まる「ゆっくり販売」の影響

 20世紀まで、不動産会社各社は建物ができあがるまでにマンションを売り切ることを目標とした。業界用語で「竣工完売」を目指したのである。

 当時、建物ができあがっても、まだ販売を行っていると「売れ残り」とみなされ、それはみっともないと、完成間近になると大幅値引きを行うことがあった。

 これに対し、今は建物ができあがっても販売を続けても、恥ずかしいとは思われなくなった。

 建物が完成するまで販売を行わず、できあがってから、建物内を見せながら販売を行うケースがあるし、時間をかけて売って行こうと計画されたマンションは、建物の完成を気にせず、販売住戸を少しずつ出して行くからだ。

 新築分譲マンションにはいろいろな売り方があるので、竣工完売にこだわらなくなったわけだ。

 都心部のタワマンのなかには建物が完成した後、10年かけて完売した事例だってある。なので、建物が完成しても、値引きはしない。

 もっとも、値引きをしなくても、割安感が出ることはある。

 それは、時間をかけて販売しているうちに、まわりの新規マンションの価格が上がってしまうことがあるからだ。

 ここ数年、都心部を中心に土地の値段は上がり続けているし、建設費も上昇。一向に下がる気配がないので、新築マンション価格は年ごとに上昇している。そのため、販売を長く続けていると、「付近の後発物件と比べると、安い」という状況が生まれがち。そうなると、値引きをしなくても、いずれ売れてしまう。そのことがわかったので、不動産会社はますます竣工完売にこだわらなくなったという側面もある。

 これは、建物が完成し、「先着順販売」を行っている住戸のなかには、お買い得物件があることを意味する。

 加えて、建物が完成していれば、実際の住戸内を見ることができるので、日当たりや眺望を確認できる。それも、大きな利点になる。

 一方で、建物が完成済み、もしくは完成間近のマンションを買う短所としてよく指摘されるのは、駐車場の問題。駐車場の抽選がすでに終わっており、後から購入した人は駐車場を利用できず、空きを待つことになりやすいことだ。

 そこで、今は、駐車場の割り当てを残し、建物ができあがってから購入しても、駐車場を借りることができる方式もある。

 ちなみに、23区内のタワマンは駅やスーパーマーケットに近く、「車は不要」と考える人が多い。マイカーを持たず、車が必要なときはカーシェアなどでよい、という人は、たとえ駐車場を確保できないとしても、致命的な短所とは考えていない。

 東京23区内のタワマンには大規模物件が多い。戸数が多いだけに、完成後も販売される住戸が生じやすい。そういう住戸をこまめに探すのも、賢いマンション購入法のひとつだと考えられる。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

資産価値はもう古い!不動産のプロが知るべき「真・物件力」

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

今、マンション・一戸建ての評価は、高く売れるか、貸せるかの“投資”目線が中心になっていますが、自ら住む目的で購入する“実需”目線での住み心地評価も大切。さらに「建築作品」としての価値も重視される時代になっていきます。「高い」「安い」「広い」「狭い」「高級」「普通」だけでは知ることができない不動産物件の真価を、現場取材と関係者への聞き取りで採掘。不動産を扱うプロのためのレビューをお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

櫻井幸雄の最近の記事