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6回終了時に棄権し敗者となった元WBCライト級王者

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 元WBCライト級王者のオマール・フィゲロア・ジュニア(31)が、2019年7月20日にキャリア初の黒星を喫して以来のリングに上がった。

 2013年7月27日にWBCライト級暫定王座決定戦として荒川仁人と対戦して判定勝ちを収め、その後WBC正規王者に認定されながらも、相次ぐケガや体重超過で長期政権は築けなかった。

 試合開始時点でのフィゲロアの戦績は、28勝(19KO)1敗1分け。対戦相手のアベル・ラモス(29)は、26(20KO)勝4敗2分けであった。

Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 同ファイトは、アンディ・ルイス・ジュニアvs.クリス・アリオラ戦のセミファイナルに、WBAウエルター級挑戦者決定戦として組まれたものの、お世辞にも世界タイトルを狙えるレベルのファイトではなかった。

 21ヵ月のブランクの影響からか、フィゲロアはバランスが悪く、ぎこちない。もはや、名前だけを買われてリングに上がる元チャンピオンに過ぎなかった。

 ラモスは、手数でも有効打でも元ライト級王者を上回ったが、世界戦に向けて強烈に自信をアピールするほどの、鋭い動きは見せられなかった。

Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 6ラウンドを終了してコーナーに戻ったフィゲロアは、椅子に腰かけると頭を擡げ、血の含まれた唾をバケツに吐いて、セコンドに「試合続行不可能」と告げた。

Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 フィゲロアは299のパンチを繰り出し、ヒットは74発。ラモスのそれは439分の150であった。ジャッジ全員が6ラウンドまでの採点を、60-54でラモス優勢としていた。

Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo:Sean Michael Ham/TGB Promotions

 ラモスにとっては、2020年9月6日にWBAウエルター級王座決定戦でヨルデニス・ウガスに敗れて以来の再起戦であった。

 試合後、ラモスは言った。

 「オマールはトリッキーな選手なので、序盤はなかなかクリーンヒットできなかったけれど、結果的にはプラン通りに試合を運べた。ボディを打つ作戦だったんだ。ヤツはディフェンスが下手だよね。十分なダメージを与えられたからこそ、試合を終わらせることができた。

 今回、本当にハードなトレーニングを積んだ。自分が崖っぷちにいることは理解している。だからこそ、どうしても勝たねばならなかった。この勝利は次に繋がる。コロナ禍で、ファンの声援が恋しかったよ。リングに上がって、アドレナリンが体中を駆け巡った。ファンも俺たちもボクシングの良さを感じただろうね」

 生き残ったラモスは次の試合が組まれるだろう。敗者となった元ライト級王者はどうなるか。

 このまま進めば、「元世界チャンピオン」としてヤングファイターの咬ませ犬となるのがボクシング界の既定路線である。

 体を壊さぬうちにリングを離れた方がいいーーーそんな印象を持たざるを得ないファイトであった。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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